第七話〔私はお前を気に入ったんだよ〕
―――死人に口無し。
死者は何も語れないので、証言することも釈明することもできないということ。
美那曰く、それが僕の能力らしい。
言技の範囲に入った他者の行動を強制的に停止させる。それがあたかも死人のように見える。
行動が停止するだけで、呼吸が止まるわけではないし、意識もハッキリとしているらしい。
行動を停止させるだけの能力。
こういうと弱く聞こえるが、自分のいう通りに体が動かない。
それはまさに、見えない物で体を縛られているかのようだろう。
「そういえば、まだ賞品を貰ってなかったわ。行くわよ」
言技の説明を一通り終えた美那は僕を連れて、さっきの試合の賞品を貰うため、大会受付へと行く。
僕は受付嬢のお姉さんの前まで歩いていく。
美那は、
「後ろで見守っていてあげるわ!何事も自分一人で出来るようにならないとね!さ、行ってらっしゃい」
と言って僕の背中を「バン」と叩いた。
お陰でヒリヒリが止まらない。
「あの、神埼迅です。賞品を受け取りに来ました」
「神埼迅様ですね、少々お待ちください」
と言って、手元の資料のような紙をペラペラとめくる。
数枚めくったところで手が止まり、
「神埼迅様、先ほどの試合により寿命が1600時間贈呈されます」
1600時間!僕が賭けたのは半分以下の720時間。それが倍以上となって僕の元へと返ってきた。
自然と顔がニヤけてしまう。
「また、騎士力1から6へランクアップされました。次回より、6階での命奪祭参加となりますので、御間違いなく」
ニヤケていた僕の顔が一瞬にして硬直する。
1から6へのランクアップ...?いきなり!!?
まだ1回しか試合してなくて、ただそれに運よく勝った、それだけで!!!?
ただでさえあの色黒男1人でも十分に大変だったのに、それよりも5つ上の階級に飛ばされるなんて...。
「あ、そうそう。もうひとつあるのを忘れてました」
まだあるのか。やだ、帰りたくなってきた。
「試合で破損してしまったクレイモヤの弁償についてなんですけど」
ちょ、ちょっとまてまてまてまて(笑)
そ
れはあの色黒男のせいだろう!
僕には非がないはずだ!
「いえ、試合中に破損した武器などの弁償は、その武器の所有者様がするという決まりですので」
「え、でも...」
「決まりですので」
「そのですね...?」
「決まりですので」
「それでm..「決まりですので」
もう最後にいたっては、僕の言葉を最後までちゃんと聞いてもらえなかった。
僕は「わかりました...」と、しぶしぶ頷いた。
「では、代金なんですが」
受付嬢が提示したクレイモヤの弁償代は、びっくりして目を疑った。
とてもじゃないが僕では払えない。
とりあえず美那に相談しよう。そう思った僕は後ろを振り返って美那を呼ぶ。
しかし、いるはずの美那はそこにはいなかった。
あれ、トイレかな...?
しかしいくら待っても美那は返ってこない。
そろそろ受付嬢のお姉さんにも、さすがに申し訳なくなってきた。
どうしようか精一杯試行錯誤してみるが、全く良い案が浮かんでこない。
こんな大金どうやって...。
そう考えていたときだった。
「これで足りるかい?」
背の高い女の人が、僕の隣にスッと現れて、札の束をドンと置いた。
頭の後ろで1つに束ねた金色の髪は腰まで伸びており、黒のダッフルコートを羽織り、その下は白のふわふわしたセーター。デニムのショートパンツと少しヒールの入ったブーツを履いたその女の人は、顔立ちもよく、いかにも「姉御」といった佇まいをしていた。
「え、あの!これ、どういう...」
「いやー、さっきの試合めっちゃおもしろかったわー。やからそのお礼っちゅーことで受け取ってーな(笑)」
関西弁?を使うその女の人はとても明るく、僕は好印象を持った。
受付嬢のお姉さんはそのお金を受け取り、お釣りを女の人に渡した。
「神埼迅様、最後にお手紙を預かっておりますので、それをお渡しします。枢木美那からです」
差し出された手紙を、僕は受付嬢のお姉さんから受け取った。
何かとても嫌な気がした。
「なぁお姉さん、この子連れていきたいんやけど。もぉこの子貰ってええかな?」
女の人は受付嬢のお姉さんに聞いた。
お姉さんは「構いませんよ」と営業スマイルを見せる。
「んじゃ、行くよ迅君」
女の人は僕と肩を組んで笑う。
僕の身長は169センチだが、女の人はブーツの靴底の高さも合わせて、180センチくらいはある高さだった。
「私はお前を気に入ったんだよ」
女の人は僕の頭をクシャっとしながらまた笑った。