第四話〔I think so too.〕
「この試合、どうやったら出ることができる?」
僕は美那に聞いていた。こんなぶっ飛んだ光景を見て、なぜか僕はわくわくしていた。早く寿命を伸ばしたい。1秒でも長く生きていれるのならば、僕はなんだってできる。
「何か沸き立ってるっぽいけど、迅。残念ながら今日はまだ出れないわよ?」
へ?という間抜けな声を出して僕は美那を見る。
僕はまだ選手登録もしていないし、エントリーを済ませて対戦相手が決まったとしても、発表は次の日だという。
「今日は選手登録だけして帰りましょ。まだあなたには時間が残っているのだから」
そっか、それじゃあしょうがないね。と、僕はしぶしぶ諦める。
「それでは選手登録をしますね」
受付で僕は美那に連れられ選手登録を行っている。これで僕は寿命を伸ばすことができる。
「神埼迅様。選手登録完了です。残り寿命8,744時間」
これをどうぞと、僕に鍵を渡す。美那がこの金融町に来るとき使ったあの鍵と同じもの。僕もいつでもここに来ることができる。
「残り寿命8,744時間て、1年切ってるわよ?」
美那が僕へ喋りかけてきた。急いで僕は脳内で計算した。364日と数時間。それが僕に残された時間だった。
短いとは思ったが、残念だとは思わなかった。僕はこれからもっと寿命を手に入れることができるから。そう考えることができたからだ。
数時間前の僕には考えることができなかった。しかし今、僕は考えている。
「なぁ、美那。やっぱ俺、生きてぇよ」
「え、頭打った?」
バカ野郎、と美那の頭をくしゃくしゃとかき混ぜ、僕たちは金融町を出た。
金融町を出ると、僕たちが住む世界の時間が進んでいなかった。
金融町は別の次元にあり、リンクしていないので、こちらの世界の時間は進まないということだった。
対戦相手の発表は明日の午後1時なので、僕たちはまた明日、12時30分にここへ集合することになった。
家へ帰ると、お母さんが走ってきて頬に強烈なビンタを1発いれられた。
とても心配した。と、泣きつかれた。
僕は大丈夫だからと言って自分の部屋へ入っていった。
「枢木美那...」
僕はそう呟いて、眠りについた。
目が覚めると、もう次の日の朝になっていた。時計を確認してみると、もう11時を過ぎていた。
僕は眠気眼をこすりながら服を着替えた。
そうこうしているうちに、時計の長針は30分を過ぎようとしていた。
「やべ、遅れる!」
僕は急いで顔を洗い、財布と携帯を持って家を出た。
途中、少し腹が減っていたのでコンビニでお握りを2つ買う。ツナマヨと昆布。
昆布を食べながら僕はまたあの工場跡へ行く。
すでにそこには、美那の姿があった。
美那は僕をちらっと見て
「あら、遅かったわね。行きましょうか」
と言って歩いていく。
遅れてしまったかと思い、携帯で時計を確認してみるが、まだ11時55分だった。
何してるのと美那の声がするので、僕は急いで駆け寄る。
昨日と同じ、工場の入り口のドア。
「さ、あなたの鍵で開けて?昨日と今日はここだけれど、本当は他人に見られなかったらどこでもいいの。もちろん、あなたの家でもいいのよ」
そうなのかと相づちを打って、僕はドアに鍵を差してガチャリとまわす。
鍵を抜き、ドアを開けると、昨日と同じ場所に出た。
僕と美那は並んで闘技場へと歩く。
目の前に来てみるとやはり大きい。
僕たちは受付をして、闘技場の中へ入った。
闘技場へつく頃には1時をまわっていたので、対戦相手がすでに発表されていた。
14時40分~
『村上磯茂』VS『神埼迅』
本日5番目の試合で、僕は戦うことになった。
対戦相手が決まると今まで何とも思ってなかったのに、突然緊張が胸を絞めつける。
「迅、それじゃあ武器庫へ行くわよ」
「武器庫?」
「あなたまさか素手で戦う気?ぶった切られるわよ?」
美那がクスっと笑う。
それよりも、女の子がぶった切られるなんて物騒な言葉を言っちゃあだめだろ。なんて思ってしまい、僕の方も少し笑ってしまう。
そのおかげだろうか、緊張も随分と楽になった。
ありがとうと言って美那の隣を歩く。
美那は首を傾げ不審な顔をしたが、何も言わず微笑んだ。
「さあ着いたわ。ここで戦う用の武器を選ぶのよ。戦う人はここで武器を借りれるの」
武器庫と呼ばれるその蔵の中には、その名の通り、溢れんばかりの武器があった。
剣、銃、弓、盾、などの武器が数十種類も並んでいた。
「これはすげぇや。男のロマンだな、おい」
僕は迷わず、剣が置いてあるスペースへ行った。
剣だけでも色々な種類の剣がある。
日本刀、太刀、ククリ、フランベルジェ、レイピア、サーベルetc.
見ているだけでも相当楽しい。
その中で僕は1本の剣を見つける。
両手持ち大剣、クレイモヤだ。
両手剣の中では小ぶりなので、素早い攻撃ができる。
「いきなり両手剣で大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫♪俺、こう見えてもチャンバラだけは強かったから」
学校の掃除中、よく長箒で戦ったものだ。
あの頃は楽しかったなと思いだし、笑う。
これにすると美那に言って、武器庫を出る。
それから人気の少ないところへ行って、構える。
早くこいつを使ってみたかった。
ちょうど美那とほとんど変わらないくらいの長さのこの大剣を。
何度か素振りをして、僕は肩慣らしを始める。初めて振る本物の剣は、僕をとてもワクワクさせた。
「そろそろ時間よ。私は観客席で見ているから、あなたは控え室に行きなさい。道順あるから」
「うん、わかった。またあとで」
僕はクレイモヤを持って控え室へと向かった。
控え室に入ると、たくさん人がいたが見たことのある人物もいた。
昨日、斧を持っていたあの色黒の男だ。
今日は両手持ちの大きい斧を所持している。
「村上さん、神埼さん。そろそろ出番なので会場へ来てくださーい」
スタッフか何かの人が僕を呼びに来た。
村上磯茂。一体どんな人なのだろう。
僕は会場へ向かうために、控え室を出ようとすると、あの色黒男も同じように出ていこうとしていた。
「てめぇが、神埼かぁ?」
おいおい嘘だろ。
まさか昨日の色黒男が俺の相手だなんて。
収まっていたはずの緊張が、今になって戻ってきた。僕は1度深呼吸をする。
隣にいる色黒男は僕を見て笑い、
「今日は勝てそうだな!がっはっは」
「それはまた奇遇だね」
僕は男を見て口を開く。
色黒男は「あ?」と僕のことを睨む。
「I think so too.(僕もそう思うよ)」
僕は会場へ向かった。