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オレンジ

作者: finale

 あまり希望もなかった。

 嘘もたくさん吐いた。

 でも、君のいる世界で笑えたこと。

 それでも、君がこれから見ていくであろう未来を、恨んでしまったこと。

 あの場所に、君がいたこと。

 君のすべてが大切だと思えた、

 涼しくて、静かな、あの夏の日々に。



 何をするでもなく線路沿いを歩いて、

「一緒にいるだけで幸せだよね」って嘘吐いて。

 二人で笑い、繋ぎ合った手の向こうに、

 遠くの島と朝焼けが見た。

 失う時が怖くて、出会いを大切にできない君がいて

 そんな君につられて泣いてしまう私も十分弱くて

「代わりなんてない、特別だ」って

 許し合わないと、少しだって笑えなかった。



 だから、

 もう二人でいる日々の「明日」がないことも

 君に知られないように

 君が辛くないようにそっと、

 隠してしまおう。

 だけど、

「ほんとうに、これで良かったのかな」

 って

 残してきてしまった君に届ける「ただひとつ」を

 今でも、探してる。



「元気にしていますか?」

「笑顔は枯れていませんか?」

「私じゃない他の誰かを、深く深く、愛せていますか?」

 その言葉が君に届かないのなら、今までずっと、来るはずない君との「明日」を願ったことにも、

 そっと、鍵を掛けてしまおう。



 真夜中にこっそり集まって、

 壁にツタが這っている教会裏で

 いつまでも子供染みた約束をして、

 ここから逃げ出す話をしよう。



 ただ怖い夢を見ただけの私にそうしてくれたように、

 君もきっと、自分の望んだ「最後」だけを

 描き続けていたんだよね。



 それでも、ただ許し合って耐え抜くだけじゃ

 誰も変われないことを、

 君は知っていたのかもしれない。

 私は、誰も傷つけられない弱さが、もう生きられないほどに

 大きく育ってしまったから。

 もう、前みたいには戻れないから。

 私は決めなきゃいけない。

 それは、今まで逃げ続けてきたからこそ余計に。



「あの日、はじめて会ったときのことを、覚えていますか?」

「私達の全てを洗い流してくれたようなあの朝焼けも、夜空に広がる自由な世界のことも」

 今更伝えなくてもきっと、君はもう大丈夫なんだろうね。

 あの日々みたいに素敵に変わっていく君を

 私はもう一度だけ、見てみたかったな。



 愛をうたって、大地を蹴って

 今、「最低だ」って自分を殺すような最期だったとしても

 あの日々みたいにみんな蹴っ飛ばしてしまえたら

 きっと全部良い思い出に変わるよね。

 そうしたら私は何年経っても声を辿って

 また生まれ変われたら

 真っ先に、君に会いに行きたい。



「愛していました。」

「この日まで、ずっと。」

 そこには、嘘も偽りもなにもない。

「それでも、終わりにしてしまうのは、私なのですか?」

 答えなんて分かりきっているから、誰にも訊かないけれど

 ただ、新しくひとつだけ、伝えられることは

「君の、幸せな未来をただ、願ってる。」っていう、

 そんな一言なのかもしれない。

「ただひとつ」は、やっぱり見つからなかったけど

 どうか、この一言だけは、君に届いて欲しい。

 それだけが私の、最後の願いだから。



 あまり希望もなかった。

 嘘もたくさん吐いた。

 でも、君のいる世界で笑えたこと。

 それでも、君がこれから見ていくであろう未来を、恨んでしまったこと。

 あの場所に、君がいたこと。

 君のすべてが大切だと思えた、

 涼しくて、静かな、あの夏の日々に



 ――――、さよなら。

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