第2話:自己矛盾
井原要には、どうしても手に入れたいモノがあった。しかし、それと同時に井原要には、どう頑張っても手に入らないモノでもあった。それは、普通の人が当たり前のように……それが当然の権利であるかのように手に入れていくモノ。どうして、他人が手に入れる事ができて、自分には、決して手に入らないのだろうか。と、井原要は、いつもそんな他人が羨ましかった。久しぶりに出た学校の授業に要は、早くも眠たくなってきていた。授業なんてたまにしか出ないものだから、内容なんて、要には理解出来ない。それでも授業に出ているのは、親を安心させる為。学校を辞めるなんて言ったら、親は、なんて言うだろうか。きっと、嫌味たらしく説教をするに違いないと、想像してみて要は、鬱になる。要は、少し気分を変えようと机の上でうつ伏せになっていた顔を上げた。
ひょろひょろと、頼りない視線を泳がせて教室中を見渡してみる。そして、要の視線は、一人のクラスメイトに辿り着いた。戸崎燐。要が視線を止めたのは、そんな名前のクラスメイトだった。彼について要は、よく理解していた。彼は、要が好意を抱いてる人物である。しかし、要は、彼が好きだと言う以外の感情を持ち合わせてなかった。人を好きになる事ができるが人を愛する事ができない。自分の心は、既に壊れているのだと要は、理解していた。だから、戸崎燐とは、仲の良い友達以上の関係を求めようとは思わなかった。逆にそう言う事を求めてしまった結果……彼との関係が壊れしまう方が恐ろしかった。ただ好きだ言う感情を誤魔化す為に彼の友人と言うポジションを頑なに守り続けていたのだ。彼……戸崎燐も要と同じで良く似た所があった。彼もまた自分と同じように心の奥底に深く暗い闇を抱えているのだと要は、解っていた。ただ自分と違うのは、彼は、自分よりも真っ直ぐ前を見ていると言う事。自分よりも心が強い人間である事。それが何よりも要が彼に惹かれた理由であった。だからこそ、今自分が抱いているある種の心の感情が要には、理解しがたいものだった。
何かがおかしい。
何かが変だ。
何時もならこんな事は、思わない。
自分の中で何か……革命的な変化がおきている様で不安で堪らない。そう、要の中で何かが変わり出したのは、ここ最近の出来事だ。もしかしたら……あれが原因では、ないだろうか。と、ふと要は、ある体験を思い出していた。
「いや、そんなはずはない」と、呟いて要は、頭を左右に振った。