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魔がさす時  作者: まひる
第一章
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心裏の声


「で、響子キョウコ姉はどんな感じ?そういえば真夏マナツの魔除けって出来た?」


 三年のベッド横に座っている響子に声をかけ、向かいに腰掛ける。


「この子の手配は終わったけど、私は力の回復より消耗が激しいの。今日もまたじゃない?ミーちゃんが来てから、私の裏の仕事量が増えたもん。」


 頬を膨らます響子だが、サポート側の能力者ゆえだ。


「仕方ないだろ、俺だって好きで怪我して来ない。最近鬼が異常に多いのが原因で、これでも俺は被害者だぞ。」


 人の心がスサんで来ているのか、形を成して鬼となった魔が徘徊する世の中である。


「それって、変な事件が多いのと関係ある?」


 真夏にもはっきりと鬼が見える為、たくさん人に憑いている事が認識出来た。


「これだけ鬼がウヨウヨしていればな。その三年も鬼が二体憑いていただろ。」


 椅子の背に倒れる様にして天を仰ぐ海里カイリ。一度に複数体を相手にする事が出来ない為、この様な症例が増えれば不利になる。


「うん、デカイのが二つもね。瑞穂って接近戦型だから、たくさんいるとキツイよね。けど、鬼は全部が人に憑くの?」


 真夏が退魔戦を見た事があるのは海里のだけだが、能力者が複数いるのならば各所で繰り広げられているはずだ。


「心が弱っている子には、どうしても憑きやすいわねぇ。今は子供もストレス社会だから、自分を強く生きていくのが難しいのよ。」


 悲しげに話す響子は、保健室に来る生徒達を思う。


「かと言って、部屋に閉じ篭る奴に同情しない。自分の居場所は自分で作らなきゃならないんだ。子供も大人も関係ない。」


 海里自身、力がある為に孤立もしたし周囲との隔壁もあるのだ。


「瑞穂は強いな。けど、その強がっているところが護ってあげたいと思わせるんだよねぇ。」


「変態真夏。お前は言い方が嫌らしいんだ。」


 軽く溜め息をつきながら告げる真夏に、横から冷たい視線を投げる海里である。


「うふふ、仲が良いわねぇ。ミーちゃん、成田君と何処まで行ってるの?」


 至極楽しそうな響子は、二人を交互に見ていた。


「馬鹿がいる…。ったく、ありえないだろ。男同士でどうなるって言うんだ。」


 怒りを通り越して呆れる海里である。額に片手を当て、溜め息をつきながらうなだれた。


「あら、男同士の恋愛もあるのよ?女同士だって勿論。恋愛に性別は関係ないもの~。」


 遠くを見る響子は、その手の作り話が好みの様である。


「アホくさ、響子姉の妄想に付き合ってられない。真夏、帰るぞ。」


 掌をヒラヒラと振りながら立ち上がる海里だが、真夏は動く気配がなかった。


「どうした、真夏。おーい、聞こえてるかー?」


「うわっ!?」


 真夏の顔を覗き込んで海里が目の前で手を振っていると、突然我に返って驚き後に倒れる。


「何だ、失礼な奴だな。ん?どうした、顔が赤いぞ?」


 海里が近付こうとすると、両手を思い切り振る真夏。


「な、何でもないっ。」


「ちょっと待て!」


 逃げようとする真夏の両手を力強く掴むと、海里はその目を真っ直ぐ見た。


「…うん大丈夫、魔がさしてはいない様だな。ほら、行くぞ?」


 瞳の奥を見る事で、真夏の心裏を確認する海里。心が弱っている今の真夏は、通常に比べて魔がさしやすいのだ。


「う、うん。…あれ?何だったんだ、俺。ちょっと待って、瑞穂。一度家に電話するからさ。」


 昨日に続き、今日も海里の家に泊まる旨を伝えなくてはならない。


「あぁ、ついでに明日もって伝えておけよ。今の響子姉、いつになるか分からないぞ?真夏自身の心が回復すればもう、一人で出歩いても大丈夫なんだけどな。」


 二人共立ち上がり、響子に視線を向けた。


「何よぉ、私のせいじゃないもん。それに、魔除けが無くてもミーちゃんがいるから大丈夫よ。」


 にこやかに手を振る響子に、海里は後ろ手に手を振り返す。


「四六時中俺が側にいられないだろうが。んじゃ、響子姉は頑張って回復してくれよな。」


 そのまま保健室を出る海里を、真夏は響子に会釈をしてから追い掛けた。


「橘先生が魔除けってのを作ってくれれば、俺はもう大丈夫なの?鬼の姿を見なくなるのかな。」


 首を傾げる真夏。今までの生活に戻れるかの不安感が込み上げる。


「…真夏の目覚めは半端だから、もしかしたらって事もある。」


 複雑な心境の海里は、真夏に表情を見られない様に答えるのだった。


「うん、そうだよね。あ、携帯貸してくれる?俺の電池切れてる。」


 真夏は無理に明るい表情で鞄から携帯電話を出して開くが、すぐに閉じて海里に訴える。


「あぁ…っうか、充電しとけって。昨日は使えただろう。」


 いつもの表情に戻り、すぐに真夏に携帯電話を差し出した。


「ありがとう。あ、瑞穂のと同じメーカーだから帰ったら充電器貸してねっ。」


 笑顔の真夏は、少し離れて自宅に電話をし始める。


「…明日まで…かな?」


「何が?」


 ボンヤリと空を見ていた海里は、突然真夏に声をかけられて目を見開いた。


「な、何だよっ。もう終わったのか?」


 心臓を押さえながら問い掛ける海里に、思わず大笑いする真夏である。


「あははっ、瑞穂の驚いた顔…初めて見たっ。うん、親には電話したよ。ねぇ、瑞穂の携帯に俺の番号登録して良い?」


 そして了解を得る前に海里の携帯をいじりだした。


「良いけど…って、もうやってんじゃん。」


「はい、ありがとうっ。んじゃ、瑞穂の家に帰ろうか。」


 登録し終わった携帯を海里に手渡し、今にもスキップしそうな真夏である。


「何だよ、急に明るくなって。っうか、そっちは逆だぞ。」


 鞄を肩に担ぎ、校門を出て反対側に歩いて行く真夏を呼び止めた。


「あ、こっちは俺ん家の方角だった。瑞穂の家はこっち…、鬼発見。」


 振り返った真夏の視線の先に一体の鬼が歩いている。


「あぁ、徘徊しているレベルなら大丈夫さ。そのうち狙いを付けて人の後を付け出す。」


 事もなげに答える海里は、鬼を見ても常に退魔する訳ではなかった。


「そうなの?けど、野良猫みたいだね。最近、街じゃ野良猫をあまり見かけなくなったけど。」


 鬼を横目に見ながら、二人は通りすがる。


「あぁ。…あまりじっと見ていない方が良いぞ。他の人には見えないものだし、鬼にも好かれる。」


 海里はただ前を見て歩いていた。不必要に鬼を見たくないと言うのもある。だが今は、真夏の護衛が優先なのだ。


「うん、なるべく気にしない様にするよ。…ねぇ、瑞穂の携帯は仕事用?」


 マンションに到着し、エレベーターを待つ二人。少し言いにくそうに真夏が口を開く。


「ん?特に意味はない。ただこの携帯は、響子キョウコ姉が不便だからって買って来たんだ。俺はいらないんだけどな。」


 海里の携帯電話のメモリは、00番に響子が自身で登録した。そして01番は真夏である。


「だから、俺が01番な訳ね。でも何か嬉しいなって思ってさ。」


 先程急に真夏が元気になった理由は、これだった様だ。


「何だ、それ。っうか真夏って、喜怒哀楽激しいよな。見てて面白いくらい、コロコロと表情が変わる。」


 エレベーターに乗り込むと、ガラス越しに外の景色が下がって行く。


「そうかなぁ?瑞穂の方が分かりやすいけど。着いた、2007だったよね。」


 にこやかに入口に立つ真夏。海里は視線を向けただけで、何も言わずに鍵を開けた。


「ただいま~、お帰り~。」


 一人で楽しそうに部屋に入って行く真夏を玄関で見送る。


「元気なのは良いが、靴くらい揃えて行けよ。」


 文句をいいながらも、真夏と自分の靴を揃えて中へ入った。


 リビングへ行くと、真夏がソファーに猫の様に丸まっている。


「何だ、どうかしたのか?」


 鞄を近くに置くと、その横にしゃがみ込み真夏の顔を覗き込んだ。


「…寝てるのか?」


 海里が髪を撫でても起きそうもない。


「まぁ、初の力の解放は消耗が激しいからな。このまま寝かしておくか。俺も眠いが、真夏が起きた時に食事が何もないと可哀相だな。何か用意しておくか。」


 海里は立ち上がると、荷物を部屋に片付けてからキッチンに向かった。




「…はい。」


 携帯電話の振動に、画面を確認する事なく通話する。


「…分かった、今から行く。」


 電話の相手は響子であり、仕事の依頼だった。


 海里は用意した食事にラップをかけて皿ごと冷蔵庫に片付ける。そして真夏の側に歩み寄って状態を確認。


「行って来る。」


 真夏にハーフ毛布を被せると、目に付く場所に置き手紙を置いた。


「ここか。もう警察が取り囲んでいるから、正攻法は駄目だな。んじゃ、上かな。」


 海里カイリ響子キョウコから連絡のあった上手駅のビル街に来ている。


 マキタリ建築のビルに強盗が侵入、社長他社員五人を人質に立て篭もっているとの事だ。


「警察沙汰になると、一通り筋を通さなきゃだから面倒なんだよな。」


 文句を言いながら隣のビルの非常階段を駆け登る。


「まぁ、銀行強盗じゃないからまだ警備が手薄だな。昼飯食べてないから、早く済まして帰りたいな。真夏が寝ているうちに帰れれば良いけど。」


 ビルの屋上迄登りきると、すぐさま目指すマキタリ建築のビルへ跳び移った。


 仕事上、あまり人の目にとまってはならない。


「潜入成功。さてと…。」


 素早くビル内へ入り込み、少し身を隠して心裏の声を探す海里。


『…悔しい…、恨めしい…。何で俺が…、リストラなんて…。あんなに会社に尽くしてきたじゃないかっ。あんなに…、あぁ…苦しい…。』


 魔がさした者の心の叫びだ。


「ったく…心で叫んでたって、皆に伝わらないだろっ。」


 声の聞こえる方へ走り出す海里。


 三階の奥にいるらしく、既に四階迄下りてくると人の気配を感じられる。


『警察はまだ、建物内に突入してはいないんだな。その方が都合が良い。ただでさえ人質がいてやり辛いんだ。』


 立て篭もり現場である部屋の隣に移動した。


「…のかっ?誰が先に逝きたい?」


 隣の声が聞こえて来る。犯人が人質に叫んでいるようだ。


「楽しいな、楽しいな。」


『嫌だよ、嫌だよ。』


 海里には、心裏の声との二重音声になる。


「お前達にはここで先に逝ってもらって、俺はその紅いプールで泳ぐのさ。イヒヒヒヒッ。」


『嫌だ、人を殺したくない!』


 はっきりと心裏シンリの拒否が聞こえた。


「心裏が助けを望むなら手を貸そう。」


 手にした白光の剣で壁を大きくくり抜き、中へ入る海里。


 犯人も人質となった六名の視線も皆一斉に、壁を断ち切って入って来た者を見る。


 だが突然放たれた精神波の光に、全ての人はその意識を失ってしまった。


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