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魔がさす時  作者: まひる
第三章
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稀なる力

「…ここは、さっきのゲームセンター裏?」


 ヨウヤく呼吸を整え、海里に問い掛ける。


「あぁ、正確には建物の隙間だけどな。出入口がないから、警察も野次馬もいないようだ。」


 辛うじて小窓が幾つかある、Ⅰメートルもない場所。勿論ゴミが散乱して、生ゴミの様な臭いが立ち込めていた。


「…中の様子を伺ってみる。」


 そう言うと海里は瞳を閉じ、能力を水面の波紋の如く拡げる。


「…鬼がいる。結構大きい…ん?」


 突然目を開けると真夏の後ろに視線を向け、次の瞬間に能力の波紋が弾け飛んだ。それに釣られて真夏も振り返る。


「…陸都リクト。」


「え…っ、この人が?」


 海里の呟きに真夏が二人を見比べた。


「…海里、何故感知能力を使っている。それに、そいつは何だ。」


 冷たい視線を向けてくる陸都に、海里は無言で応える。


「何故かと聞いている。答えろ。」


 静かにだが、強い威圧感を覚える陸都の言葉だ。


「…嫌だ、お前には関係ない。」


 気圧されてはいるが、海里は言葉で精一杯の拒否を示す。


「規律違反だ、海里。今回の俺の任務はお前のサポート。部外者を引き連れているのは海里の方だ。」


 陸都の冷たい視線が海里を射貫いた。何も言えず俯く海里を見て、真夏が口を挟む。


「ごめんなさい、俺が無理を言って着いて来たんです。」


「…君は…海里のパートナーか?」


 冷ややかな視線を真夏に向けるが、陸都の記憶の片隅で引っ掛かった様だ。


 陸都は人に関心がない為、あまり顔と名前を覚えるのが得意ではない。


「以前、陸都に助けて貰った事があるだけだ。相変わらず物覚えが悪いな。」


 二人の間に入り、真夏を擁護する海里。


「…思い出した。海里を変える男…確か名前は、成田真夏。言っておくが、俺は記憶力が劣る訳ではない。他者に興味がないだけだ。」


 少しだけ目を見開くと、陸都の口元に笑みが浮かんだ。


「海里を変える?」


「ばっ…、良いんだよ!真夏も変に反応するなって。」


 首を傾げた真夏を制するが、海里は顔を赤らめている。


「なるほど…興味深い。着いて来ても良いが、安全は保証しない。」


 やり取りを見ていた陸都は、真夏が同行する事を認めた。


「うん!ありがとう、陸都さん。」


 にこやかに返答する真夏に、陸都は少し困った表情を見せる。


「さん付けは止めてくれ、陸都で良い。…海里カイリ、サポートが大勢いればお前自身の負担になる事を覚えておけ。」


 陸都は海里に鋭い視線を向け、建物に向き直る。そして感知能力で現場を探り、海里に伝えた。


「中に全部で15人。魔が憑いているのが8人、内一つは大きい。…海里、お前はどのくらい見えているんだ?」


 中の情報を探れば、海里の感知能力が当て推量でない事が分かる。


 組織に報告されている海里の能力種別は退魔能力のみだ。


「別に…どのくらいも何も…。」


 説明に困る海里。自身でも陸都の真似をしているだけで、それ程意識していない。


「ねぇ、どういうこと?海里がした事が良くないの?」


 真夏も陸都の棘のある言い方に不安を覚えた。


「…報告しておく。今は任務が優先だ。中に潜入するぞ。」


 真夏の質問に答えず、海里に鋭い視線を送る。


「…勝手にしろっ。で、この壁を壊して入って良いか?」


 指差したゲームセンターの外壁。出入口は警察官と野次馬で、とても入れそうにないからだ。


「バカイリ、後処理を考えろ。」


 即座に陸都にけなされ、ムッとする海里である。


「じゃあ、どうするんだよ。正面から、通して下さ~いって行くのかよ!」


「良く見ろ。隣のビルには、こちら側から入れる裏口がある。高さも同じ。…分かったか。」


 皆まで言わないが、要は隣のビルから跳び移れと言う事だ。


「面倒だろ、それ。俺はストレートに行きたい。」


 反感丸出しの海里だが、にこやかに真夏がまとめに入る。


「行こうよ、海里。ほら、鍵も開いてるよ?」


 ドアノブを捻り、施錠もされていない無用心なビルへ誘う真夏。海里は腑に落ちない表情のまま、中へ入って行った。


 ビルの中は人影すらなく、静まり返っている。三人は誰にも見つかる事なく屋上に移動した。


「廃ビルか?本当に静かだったな。」


 不思議そうに屋上出入口を見る海里に、既に鉄柵をよじ登る真夏が声をかける。


「海里、置いて行っちゃうよ?」


 ニコニコしながら鉄柵を跨ぐ真夏に、海里は頭を掻きながら軽く溜め息をついた。


「真夏だけ行っても仕方ないだろ?っうか、気をつけろよ。」


 既に陸都リクトは反対のビルに跳び移っている。


「大丈夫だよ、陸都も跳んでるし。」


 笑顔で返す真夏だが、下を見た途端に動きが止まった。現在地は八階建ての屋上である。


「ほら、どうした?」


 鉄柵を乗り越えて真夏の横に立った海里は、下を見たままの真夏の顔を覗き込んだ。


「…結構高いね…。う~っ、お尻がムズムズしてくるっ。」


 どうやら高い所が苦手な様子。たかが1メートル弱の幅とは言え、反対側にも鉄柵がある為に足場の制限もある。


「行くぞ?」


 自然に真夏の手をとると、視線は既に陸都のいる反対のビルに向いていた。


「う、うん。3、2、1、GO!」


 真夏は自分からカウントする事で恐怖を振り払う。


 二人で跳んだ。


「出来るじゃん、真夏。」


 笑顔を向ける海里に対し、強張った表情のまま真夏が振り向く。


「はいはい、そこまで。いちゃつくのは勝手だが、今は任務が優先だ。下で魔憑きが増えてるぞ。」


 鉄柵を越えている陸都は、現場の様子を継続して伺っていたのだ。


「ちっ、面倒だな。行くぞ、真夏。」


 真夏に声を掛けると、先に鉄柵を上る。すぐに真夏も鉄柵を越え二人と合流。


「とりあえず一階に行くか。」


 海里を先頭に階段を駆け降りた。目指すは一階のゲームセンター。




「やはり、人数が多いな。全部で15人、魔憑きが増えて12人。どうするつもりだ?」


 一階に到着して、実際の様子を伺う。15歳~18歳の男女と従業員がいるのだが、フロア内は大量の魔で溢れていた。


『何でこんなにも魔がいるんだよ。疲れるなぁ…。今日二度目だぞ?』


 大きく溜め息をつく海里だが、成田家より浮遊する魔の質が粗悪である。


「気持ちが悪いね、何か…空気が濁っている感じがする。」


 顔を歪める真夏に、陸都が静かに視線を向けた。


「お前、能力の自覚はないのか?感覚は良いのに少し足りない。力を欲していないからか。」


 トップクラスの感知能力者である陸都は、既に真夏の能力が見えているかの言い方をする。


 海里は困った様に頭を掻くだけだった。


「分からないけど、俺は思ったままを言ってるだけだよ。海里の助けになる事ならしたいし、かと言って何でも自分が出来るとは思っていない。」


 真夏マナツは率直な思いを答える。


「…何がそうさせるんだ?」


 不思議そうな陸都リクト。彼にとって能力は生きる手段であり、他者の為に振るうものではないからだ。


「おい、お前等は俺の邪魔をしに来たのか?煩くて集中出来ないだろうがっ。」


 不機嫌そうな表情で振り向く海里。一階に下りて来てから、一人でセイの能力を集中していたのである。


「これくらいの周囲の会話に気を取られる様では、まだまだ甘いな。大体時間が掛かり過ぎだ。その青い力では、拡げれば小物の魔くらいしか退魔出来ない。しかも練り上げるのに力を使い過ぎだ。残る力でハクを使えるのか?」


 だが逆に陸都に反論されて、次の言葉が出なくなる。


「そりゃ…、セイには半月分以上の能力値が必要だけど…仕方ないじゃんよぉ。」


 半ば開き直る海里だが、それ以外の戦い方を知らないのだ。


「これだから箱入りは困る。能力値が高くても、実戦経験がなさ過ぎるんだ。」


 呆れ返り溜め息をつく陸都に、海里は膨れた顔を見せる。


 陸都は補助能力者だが、そのレベルの高さから実戦に駆り出される事も多いのだ。


「悪かったなぁ、経験がなくて。それなら、戦い方を教えてくれよ。」


「そんなものは自分で考えろ。」


 むくれる海里に、陸都は考える余地なく拒否する。


「んだよ、ケチ。」


 既にセイの力は霧散している為、退魔手段を改めなくてはならなかった。


「あ、鬼がこっちに来るよ?」


 扉の隙間から現場の様子を見ていた真夏が、慌てて二人に注意を促す。


 リーダー格らしき少年に憑いた鬼は天井に届く程大きく、ワニの様な左右に裂けた口から黒い舌を垂らしていた。


「醜いな…。とりあえず、コイツを叩く。…ハク。」


 露骨に嫌な顔をした海里は、胸元の丸いペンダントから引き抜く様に白い光の剣を手にする。


 扉越しなのだが、鬼の醜悪な邪気が刺す様に伝わってきた。


「うわ~っ、口から魔が溢れてるっ!気持ち悪~っ。」


 真夏マナツが叫ぶ。


「煩いぞ、成田真夏。お前は力を使わないのか?」


 常に冷静に状況を見ている陸都リクトは、鬼と対峙する海里カイリに視線を向けたまま告げた。


 海里は巨大過ぎる鬼相手にハクを振るっているが、自らが魔を吐く様になった強力な鬼はそれ自体が攻撃をしてくる。


「くっ、馬鹿力だな!」


 鬼の攻撃を受けるだけで両腕が痺れた。


 憑かれている少年は既に白目を向いている。完全に鬼に乗っ取られていた。


「あっ、海里!」


 真夏の叫びも間に合わず、鬼の振り回した腕に弾かれて海里は背中から壁に激突する。


「ぐはっ!」


 衝撃に意識が飛んだ。


 海里の手にしていた白光の剣が消し飛ぶ。


「海里っ!」


 再び襲い掛かろうとした鬼と海里の間に走り込む真夏。陸都も緊張した。


「やめろ、バカっ!」


 意識的に真夏が朱色の結界を貼る。視線は真っ直ぐ射貫く様に鬼へ向けていた。


「出来るじゃないか、成田真夏。それがお前の能力だ。」


 落ち着きを取り戻した陸都が静かに告げる。


「…っ、真夏っ?」


 苦痛に顔を歪めながらも、意識の戻った海里の瞳が真夏を映した。朱色の光の中、徐々に痛みが和らいでいく。


「海里、大丈夫?あ、動かないで…すぐに傷が治るから。」


 笑顔を見せる真夏は、海里の口元の血痕を指で拭った。


「…覚醒…したのか?」


 意識的に真夏が能力を拡げている感じが海里にも伝わる。痛みが引いていき、先程迄の戦闘での消耗が嘘の様に身体に力がミナギってきた。


「えへっ、俺って能力者みたい。」


 照れて見せるが、海里は内心複雑である。


「成田真夏の能力は、その結界内の時間制御だな。海里の傷が即時治癒されるのもその為だ。回復系とは異なる、稀な能力者。」


 陸都の言葉を心に刻む海里。


『稀な能力者…。護らなければ…、真夏を絶対に。』


 瞳を大きく見開いて、真夏の結界内で停止している鬼を真っ直ぐ見た。



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