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魔がさす時  作者: まひる
第一章
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瑞穂海里


暖かな日差しの今日、皆の顔は希望と不安が入り混じっている。


 今日は上限ジョウゲン高校の入学式だ。


「よし、高校生活は絶対に楽しむぞっ!」


 一人で気合いを入れている瑞穂海里ミズホカイリも、本日から晴れて高校一年生となる。


「新入生の皆さんは、校門入口でクラスを確認して体育館に集合して下さい。」


 校門の付近にざわめいていた新一年生達は、同じクラスになったであろうメンバーと群れを成して移動を始めた。


「っと、俺もクラス確認しなきゃ。…一年二組、了解っ。」


 クラスだけ確認すると、すぐさま体育館に向かう海里。皆がしている様に、同じ中学の出身者を捜しはしない。


 体育館に入ると、クラス別にパイプ椅子が並んでいた。椅子に名前が貼ってあり、自分の場所を探す事は簡単である。


 椅子の上に置かれた何枚かのプリントを取り、席についた。


 そして入学式が始まる。


 だが、海里は隣の空席が気になった。


成田真夏ナリタマナツ?」


 椅子の名前を確認して、思わず口に出していた事に慌てて自らの口元を塞ぐ。幸い、誰も気にしてはいないようだ。


『ま…誰か知らんが、同じクラスなら持って行ってやるか。』


 海里は自分の手持ちプリントを空席に乗せ、まだ見ぬクラスメイトを思う。


 入学式も無事終わり、それぞれのクラスが係りの上級生に連れられて教室に移動を開始した。


『なんで…こんな…、怖い…っ!』


 海里の頭に直接響く声。途端に頭を抱えて顔をしかめると、近くのクラスメイトに伝言を頼む。


「わりぃ、トイレ行って来るって言っておいて?あと、このプリントお願い!」


 相手の返事は聞かず、両手で拝むポーズをして走り去った。


「うーっ、何だよ!俺に何か怨みがあるのか?」


 せっかくの新しい門出を邪魔された気分で、走りながらも恨み言が自然と漏れる。


『体育館裏…?』


 声に引かれる様にやって来た場所は、先程まで入学式が行われていた体育館の裏にあたる日差しの届かない所だった。


 そしてそこでは、上級生に暴行する同級生。上靴のカラーが違うので判別が出来るが、一年生が三年生に対して暴力を振るっている。


『あー、憑いてるなぁ。』


 海里の目は暴力を振るう少年の背中に、頭部に二本の角を持つ青紫の鬼が見えた。


 両目は大きく迫り出し、口は鳥の様に尖っている。耳は左右に拡がり、顔自体も潰れた楕円型だった。


『殺す、殺す、殺す…っ!』


 鬼は聞き取りにくいシワ枯れた声でぶつぶつ呟いている。だが、海里には違う声も聞こえていた。


『助けて、怖い…助けてっ!』


 頭に響く様なそれは、鬼に自身を奪われている少年の心裏シンリ


「…心裏が助けを求めるならば力を貸そう。」


 海里は胸元に右手をおく。そこにある丸いペンダントは、彼が肌身離さず身に付けているものだった。


『「何だ、お前はっ!」』


 こちらに気付いた鬼は取り憑いた少年を引き連れて、狂気を撒き散らしながら海里に向かって来る。


「残念、遅いよ。ハク。」


 静かに告げると、海里は胸元のペンダントから引き出す様にして白い光の剣を出した。


 そのまま流れる様な無駄のない動きで、鬼だけを一刀両断する。


『「ぐあぁぁー…っ!」』


 青紫の鬼は、黒い霧となって霧散していった。


「はい、救出~。…ん?君が成田真夏ナリタマナツか。」


 海里が白光の剣から力を抜くと、空に溶ける様に形をなくす。そして鬼の制御が外れて崩れ落ちる少年を抱き留め、軽く溜め息をついた。


「ともあれ、精神力を使うから結構疲れるんだよね。あーあ、半分も欠けちゃった。」


 肩に少年を支えながら、自らの首元のペンダントを出して確認。白い光を蓄えた丸い月の様なペンダントは、今は半分程が黒くなっている。


「仕方ない、また月が満ちるのを待つか。それで…、さすがに二人も連れて行けないな。どうするかな、上級生…。」


 頭を掻きながら、意識を失っている三年生に視線を落とした。


 だが彼の方が体格が立派すぎて、こちらは一人でも無理そうである。


「後で先生に言っておくか、ごめんねー。とりあえず、こっちを休ませてやらないと。鬼に憑かれると、精神力を喰われるからな。保健室で良いかな?」


 上級生をそのままに、海里は同級生一人だけ肩を貸しながら半ば引きずる様に保健室に連れて行った。


「先生~、お願いしますっ!…疲れたぁ。」


 保健室の場所を探し歩き、へとへとの海里。


 誰もいないベッドに成田真夏ナリタマナツを横たわらせると、自身も疲れきってその場に座り込む。


「あらあら、誰ぇ?…もう~、床で寝ちゃダメよ~?」


 オットリとした声が聞こえた頃には、既にベッド下に横になったまま海里の意識も沈んでいた。


「高校一年生になっても、まだまだお子様ねぇ。ミサトちゃん?」


 眠っている海里の頬を突く若い女性教師。


「ミサトって呼ぶなっ!…ったく、海里だってーの。響子キョウコ姉は、俺が疲れてんの分かってるだろ?ほら、月が半分も欠けちゃったんだぜ?」


 言葉に反応して勢い良く起き上がり、反論しながらペンダントを突き出して見せる。


「あらあら、綺麗な半月ねぇ。でも、ハクを一回使っただけでしょ?ミーちゃんは、もっともっと心を強くしなきゃねぇ?」


 響子はオットリとしているが、海里の力を知っているようである。


「なっ…、仕方ないじゃんよ。これでも俺ってば、頑張って半分残しておける様になったんだぜ?」


 床に胡座をかいたまま、頬を膨らまして不満を訴えた。


「はいはい、頑張ったね。ミーちゃん、偉い偉い。」


 ニコニコしながら響子に頭を撫でられ、海里は素直に照れ笑いを見せる。


「じゃあ、御褒美よん。私が温めた飴ちゃんだから、回復バッチリなんだからねっ。」


 そう言いながら、響子はポケットから飴を一つ出して海里の口に入れた。


「ありがと、助かる。響子姉の力借りないと、半月でも回復に丸一日かかるもん。」


 飴で頬を膨らます海里。


 響子はその精神力を他者に分け与える事が出来る。物に宿す事も出来る為、元気の素と言っては持ち歩く飴玉を気力の弱った人に食べさせていた。


「それで、この眠り姫はどなた?」


 響子はベッドの少年に視線を移すと、身体のあちこちを診ながら外傷を探す。


「あ、そいつは成田真夏。上靴に名前が書いてあったから、多分クラスメイト。体育館裏で鬼に憑かれて三年生ボコッてた。ちなみに三年はまだ伸びてる。」


 海里も思い出した様に経緯を説明し、一人置いて来た事もついでの様に告げるのだった。


「ミーちゃん、遅いよぉ。もう一人いるなら、早く教えて~。じゃあ先生行って来るから、その子をお願いねっ。」


 響子キョウコは簡易医療セットを手にすると、すぐに体育館裏を目指して走って行く。


「…響子姉、相変わらず足遅~っ。ってか、頼む言われても困るんだけど。俺にはどうしようもないじゃんよ。」


 響子を見送った後、真夏マナツのベッド脇に腰掛ける海里。


 顔色が悪く、暫く目覚めそうにもなかった。


「俺は回復してやれないし、魔がさす原因も本人にあるんだろうからな。俺は退魔専門だから、鬼斬り以外はパスだぜ。さてと、俺も教室行かなきゃな。後はよろしく、響子姉~ちゃんっ。」


 保健医の橘響子とは従姉妹に当たる。海里は簡単な書き置きをして、自らの教室へと向かうのだった。




「瑞穂海里、遅れましたぁ。」


 一年二組の後ろの扉を開け、臆す事なく教室に入って行く。


「おぉ、トイレの長い瑞穂か。お前の席は俺の真ん前だ。有り難く思えよ。俺は今日から担任になった松崎だ。」


 担任の松崎は体格からしてかなりの体育会系。どうやら席は五十音順らしかった。


「どうも…トイレついでに人助けしてきたんですよ。あ、成田真夏が保健室にいます。」


 軽く会釈をし、着席しながら用件を告げる。


「何だ、いないと思ったら成田も初日から保健室?最近のガキ共はぬるいな。じゃあ面倒だから、瑞穂は学級委員な。」


 松崎は唯我独尊的性格なのか、生徒に確認する事無く勝手に決めた。


「松崎先生、独裁者ですね。」


 皮肉を込めて訴えるが、海里の言葉に少しも怯まない。


「おぅ、俺の行く方向が道だ。さてと、後は適当に係りを決める。決められたくなかったら、自分から立候補しろよ。ほら、一覧表だ。」


 松崎は大きな用紙を黒板に張り出した。


 生徒はやむを得ず自分達で教壇に出て来ては、係りの中から選び名前を記入していく。


『強引だけど、このやり方もありなんだろうな。』


 海里は冷静にクラスメイトを観察していた。


 生徒達はそれなりに楽しそうにも見える。


「よぅし、ここまでな。書いてない奴等は後のお楽しみだ。以上、今日のホームルームは終了。日直は明日から右端の前後二人組で順番な。んじゃ、瑞穂は職員室に来い。学級委員初任務がある。解散!」


 松崎は話終わると、視線を海里に向けて軽く合図をした。


「はいはい。あ…木村、さっきはプリントありがとな。」


 席を立った際に、体育館でプリントを預けたクラスメイトに礼を言った。そして半ば面倒そうに職員室へと向かう。




「失礼しま~す。」


 職員室の場所はすぐに分かった為、迷う事無く到着した。


「おぅ、瑞穂。ほれ、このプリントを教室に持って行ってくれ。あとはついでに、成田の様子を見てから帰って良いぞ。」


 松崎はプリントの束を海里に持たせると、すぐに自分の席に戻っていく。


「…松崎先生、これは本当に配って良いんですね?」


 プリントを確認した海里は、松崎の席まで歩み寄りながら問い掛けた。それと言うのも、見たところ配布してはならない書類に見えたのである。


「何言って…、あ…駄目だ。サンキューな、マズイ事になるところだった。こっちだ、頼む。」


 松崎は素直に礼を言い、正しい配布物を海里に渡した。


「はい。…松崎先生が礼を言える事に驚きました。」


 一言皮肉を言うと、職員室を後にする。


「瑞穂の奴、一言余計だ。」


 海里の背を見送りながらも、少し楽しそうな松崎だった。



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