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ナンバルゲニア・シャムラードの日常 42

「あそこに行くの?」 

「できれば私は勘弁ね」 

 現役実働部隊長のランとそれを支援する本局の調整官の明石。その会話が相当高度でシャムに手に負えないものであることは間違いなかった。小難しい理屈をこねるのが好きなアイシャもどうせ捕まれば説教されることが分かるので近づく様子もない。

「まあ夜も長いのよ……と言うわけで」 

 アイシャはそう言うとビール瓶を手に持つ。シャムは照れながらグラスを差し出した。

「ほら、吉田さん。ちゃんとラベルは上でしょ?」 

「そんなことどこで覚えたんだか……つまみが欲しいな」 

「小夏!小夏!」 

 吉田のオーダーに答えてシャムがカウラとなにやらひそひそ話をしていた小夏を呼びつけた。小夏はと言えば突然のシャムの呼び出しにいつものように嫌な顔一つせずに飛び出してくる。

「何でしょう、師匠」 

「俊平の……つまみは」 

「エイひれで」 

 一言そう言ってビールを飲む吉田。小夏はと言えば元気にそのまま階段を駆け下りていく。

「小夏ちゃんとお話……珍しいのね」 

 アイシャは堅物のカウラの意外な光景に興味を引かれたように絡む。シャムが見た感じではアイシャはかなりよっているようで頬はすでに耳まで朱に染まっている。

「なんだ。私が小夏と話しているとおかしいことでもあるのか?」 

 カウラはそう言ってビールを傾ける。それでもアイシャのにやにやは止まらない。四つん這いでそのままカウラのそばまで這っていくとそのままカウラのポニーテールに手を伸ばす。

「止めろ!」 

「なに?お嬢様?うぶなふりして……この!」 

「クラウゼ。酔っているな貴様」 

 睨み付けるカウラにアイシャはとろけるような笑みを浮かべる。

「酔ってますよ……だって……ねえ」 

「だってと言われても困るんだけど」 

 シャムは色気のあるアイシャの流し目を受けながらただ戸惑ってつぶやく。

「ひどいんだ!カウラちゃん。シャムったらひどいのよ!」 

「お前の頭の中がひどいんだろ?」 

 呆れかえるカウラはそう言ってアイシャの肩を叩いて落ち着かせようとした。

 だだをこねるように頭を振り回すアイシャにカウラはほとほと参ったように上座に目を遣った。

「なんだ?クラウゼは泥酔か?」 

「もう少し飲ませて寝かせたれ」 

 無責任な発言を繰り広げるランと明石。仕方がないとカウラが後ろを向いたときだった。

「任せろ」 

 要は迷わずそれまで誠に飲ませようとしていた液体を手に颯爽と現われる。

「おい、アイシャ」 

「なによ」 

 突然の要のちん入に少しばかり戸惑いながらアイシャが答える。要は得意げにグラスの中の液体を振ってみせる。

「これ、神前にやろうと思ってたけどお前にやるわ」 

「何これ?」 

「ああ、神前の野郎のグラス」 

「え?」 

 驚いたがすぐにアイシャはそれを奪い取ると中身も確かめずに一気に飲み干した。

「ほらな」 

 要の言葉の終わると同時にぱたりとアイシャは倒れ込んだ。

「大丈夫なの?要ちゃん」 

「まあな。最近は加減を覚えたから。何度も神前の裸踊りを見るのは飽き飽きしていたところだから」 

 それだけ言うと要は何事も無かったように去っていく。倒れたアイシャにじっと視線を落とすシャム。

「本当に大丈夫なのかな?」 

「大丈夫なはずだ。私達の体は本来毒物に対する耐性が強いからな。理性が飛ぶことはあっても死にはしないだろ」 

 まるで心配する様子のないカウラに少し呆れながら上座を見る。

 じっとこちらを見ているのは先ほどからランと明石の会話を聞かされ続けて退屈している岡部だった。

「岡部ちゃん。とりあえずこれを部屋の隅に運ぼう」 

 シャムの言葉で針のむしろから解放されると嬉々として歩いてくる岡部。正座が続いていたからかどうにもその足下が不安定だった。

「大丈夫なの……岡部ちゃんも」

「ちょっと痺れて……」 

 足が気になるというように何度か屈伸をする。すっかり血行の悪くなった膝がどうにも思うようにいかずに岡部はごろりと倒れ込んだ。

「大丈夫?岡部っち」 

「ああ、なんとか」 

 そう言いながら立ち上がりつつも膝を押さえる岡部。

「かなり痺れたんだね」

「まあそれなりに」 

 岡部はそのままアイシャのところまで来るとじっとその様子を観察している。

「特に異常は無いみたいだな。とりあえず奥に寝かせよう」 

 そう言うと岡部はアイシャの肩を持ち上げた。するとアイシャの腕が岡部に絡みつく。

「誠ちゃん……」 

 突然の寝言に苦笑いを浮かべる岡部。シャムもアイシャの腰を持ち上げながら岡部のまねをしたような顔をする。

「落とすなよ!」 

 要の茶々を受けながらずるずるとアイシャを引きずる二人。ある程度予想はされていたことなので誰も口を挟むことはしない。

「それにしても……重いね」

「余計なお世話よ」 

 突然アイシャの目が開く。シャムは驚いて手を離しそうになるがそれがアイシャの寝言だと分かって安心してそのまま部屋の隅にアイシャを運んだ。

「こうして座布団を枕にして……しかしこの部隊はろくな飲み方をしないな」 

 相変わらずの困ったような表情の岡部にシャムはただ頷くしかなかった。

「エイひれお待ち!」 

 誠がお盆を持って現われる。慣れた手つきで次々と鉄板の横のスペースに皿を並べる誠。

「ずいぶん慣れたね誠ちゃんも」 

「まあこういう生活長いですから」 

 こちらもまた疲れたような表情。菰田とソンは下のマリア達を接待しているようで二階に上がってくるそぶりすらない。

「あとは私がやるから。誠ちゃんは飲んでて」 

 シャムの提案に一瞬不審そうな顔をする誠。思わずシャムは口をとがらせて彼からお盆をひったくるとそのまま階段を駆け下りた。

「あ、師匠。ありがとうございます」 

 カウンターでビールを運ぼうとしていた小夏がシャムに声をかける。四人がけのテーブルには金髪のマリアが警備部の古参の士官達とちびちびと酒を飲んでいるところだった。


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