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ナンバルゲニア・シャムラードの日常 38

 そんままランは階段を駆け上っていく。

『馬鹿野郎!』 

『嫌だな、中佐。ただの冗談じゃないですか……』 

『人騒がせな冗談だな』

 二階のやりとりを聞きながらシャムと明石は苦笑いで階段を上る。上座にどっかりと座っているラン。その隣で手に靴を持った吉田が愛想笑いを浮かべていた。

「ああ、靴置いてくるから」 

 それだけ言うと吉田は照れたような笑みを浮かべながら階段を駆け下りていく。

『なんだよ、ロボ。また二階からのご登場か?』 

 要の快活な声がランの隣の鉄板を占領したシャムの耳まで聞こえてきた。

「あ、誠ちゃん達着いたんだ」 

「もうええ時間やさかいな。当然なんとちゃうか?」 

 明石はそう言いながらランの座っている鉄板の横にちょこんと座る。巨体が売り物の明石の隣にどう見ても小学生のラン。しかも同じ中佐の階級だがランが先任と言うことで常に明石がランのご機嫌を伺うことになる。

 いつもの光景ながらシャムはその滑稽な有様を見ると吹き出してしまいそうになった。

「おう、もう来てるな!」 

 ずかずかと大きな態度で現れた要。それをなんとか制するように頭を下げながらシャムの隣の鉄板に導く誠。カウラはいつものように黙って誠の正面に座る。

「あれ?アイシャは?」 

「あのアホか?なんでもサラと話があって遅れて来るってさ。どうせパーラの件だろ?」 

 まるで心配することは無いというように要は頼むものが決まっているくせに鉄板の脇に置かれてあったメニューを開いて見始めた。

「鎗田も観念したんとちゃうか?」 

「それ鎗田の都合だろ?パーラの奴にも都合があるんじゃねーのか?」 

 ランは小さな体に似合いの小さなスタジャンを脱ぎながらネクタイを弄る明石を上目遣いに見つめた。それにあわせるように女将の家村春子と娘の小夏がそれぞれに突出しとおしぼりを持って現われる。

「本当に明石さんはご無沙汰ね」 

「いやまあ、済みません……どうにも本局勤めは柄にないとは思うとるんですが……なかなか」 

「少しは明華さんのところに顔を出してあげなさいよ」 

 婚約者の名前を出されてただひたすらに頭を掻く明石。それを色気のある切れ長の目で一瞥すると春子は小夏と一緒に突出しやおしぼり、そして小皿を配り始めた。

「いやあ!女将さんにはかないませんなあ!」

 快活に笑う明石。それを見てなぜかうれしそうに笑う誠。シャムは不思議に思っていた誠の少しだけの復活について聞いてみたい欲求に駆られて身を乗り出す。

「おう!ワシのおごりじゃ。好きなだけ食ってええで」 

 剛毅なところを見せようとふんぞり返る明石。それを見ながらランは呆れたような苦笑いを浮かべている。

「それじゃあボトルは?ボトル入れてもいいか!」 

「いい訳あるかい!」 

 要に突っ込みを入れる明石。シャムは話を切り出すタイミングを失ってそのまま座布団に腰を下ろす。

「遅れました……」 

 それにあわせて入ってきたのは菰田とソン、それにどこか疲れた表情の岡部だった。

「おう、岡部!こっち来いや!」 

 末席に菰田達と一緒に座ろうとする岡部に向かって明石が叫ぶ。岡部は周りを見渡した後、どうやら自分が明石の接待をすることになりそうだと悟って少しばかり恥ずかしげに頭を掻きながらランの隣にまでやってくる。

「ずいぶん賑やかになりそうね。……小夏!突出しをあと三つ追加。それじゃあとりあえずビールでいいですわよね」 

「ああ、頼みます」 

 すっかり場を仕切る明石。シャムはさらに岡部が揃ったことで誠のピッチングの件を切り出しやすくなったとタイミングを計っていた。

「おい、お前は何にする?」 

 そんなところに邪魔するように声をかけてくる吉田。シャムは少し感情が表に出そうになりながらそれも大人げないと少し首をひねった。

「豚玉も飽きてきたなあ……」 

「あれ?オメエも飽きるとかあるのか?」 

「失礼だな、要ちゃん。私も気分を変えたいときくらいあるんだよ!」 

 要の突っ込みに何となくシャムはムキになってメニューを覗いた。ちらりと見たそのお品書きにおすすめとして載っている太字の文字に自然とシャムの視線は引きつけられた。

「あれ?新エビ玉って?」 

「さすがシャムちゃんね。新港のエビがシーズンなのよ。それでこの前源さんがたくさん仕入れてきたから試してみたらおいしくって……お勧めよ」 

 春子の口から出た『新港』の言葉に場が少しばかり不穏な空気に包まれた。


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