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ナンバルゲニア・シャムラードの日常 19

 誠が岡持ちにランの食べた酢豚定食の皿を並べている。どさくさまぎれてそんな彼に要が皿を差し出す。自然と受け取る誠。そんな彼をカウラが鋭い視線でにらみつけている。

「シャム、例の伝票。菰田の野郎に送り付けといたからな」 

 その様子を小脇に見ながら吉田がぼそりとつぶやく。

「ひどいよ俊平。だったらさっさとやってくれればいいのに」

「馬鹿。そんなことしたらお前さんはいつでも頼るだろ……じゃあ行くか」 

 そう言うと吉田は立ち上がる。アンもそれに釣られるようにして立ち上がった。

「もう行くの?」 

「なに、俺はセッティングをしておいてやろうとおもってさ。島田の奴もいろいろ忙しいだろ?」 

「そうだね」 

 珍しく気を使う吉田に合わせるようにシャムも椅子から飛び降りた。そのまま部屋を出ようとする吉田。

「じゃあ行ってくるね!」 

「おう!行って来い!」 

 ランに見送られてシャム達は部屋を出た。アンが心配そうな表情で後に続く。そんな一行の目の前には技術部の古参兵と管理部の背広組と警備部の新人二人を連れた菰田だった。

「あ、吉田少佐。ありがとうございました!」 

 脂ぎった顔を驚きで満たした表情で菰田が吉田に頭を下げる。その顔がにんまりとした笑みに変わりながらあがってくるのを無表情で見つめていた吉田が首をかしげる。

「え?何が?」

「あの、伝票……本当に助かりましたよ」 

「ああ、その件ね。あのさあ。俺達に面倒ごと押し付けるの止めてくれないかな?」 

 淡々と言葉をつむぐ吉田を見て笑顔が急に凍りつく菰田。周りの『ヒンヌー教徒』達も吉田の表情の変化に全身系を集中している。伝説の傭兵として知られた変わった経歴の持ち主の義体使い。相手にするにはあまりにも異質で理解を超えている存在を前にしての緊張。そして明らかに吉田は菰田達を良く思ってはいない。

「……以降気をつけます!」 

「ああ、分かってくれりゃあいいよ」 

 吉田の言葉が終わらないうちに菰田は管理部に飛び込んだ。取り巻きもそれぞれに自分の部署へ小走りに消えていく。

「痛快ですね!」 

 アンの言葉に同じような冷たい視線を浴びせた後、吉田はシャム達を引き連れてそのままハンガーが見える踊り場へと歩き出した。

「アン君。ほら、見てるじゃないの」 

 シャムが見たのはガラス張りの管理部の部屋でじっとシャム達をにらみつけている菰田の姿。吉田はと言えばまるで相手にする気は無いというようにそのままハンガーへ降りる階段を下っている。

「ああ、例の件ですね!」 

 降りてくる吉田達をいち早く見つけたのは待機状態のまま固定化されている保安隊の隊長嵯峨の愛機、『カネミツ』の入った巨大な冷却室のスイッチをいじっていた上等兵だった。彼はそのままシャム達に敬礼するとはしごから降りて走り出す。

 階段を降りきったところでシャム達がハンガーの入り口のあたりを見ればグローブをはめたままの古参兵達と先ほどの上等兵がなにやら話をしているところだった。

「あいつ等も偉くなったもんだな」 

「だってそれなりの仕事はしてくれているじゃん」 

「まあな」 

 吉田がしぶしぶ苦笑いを浮かべるのを見ながらなぜかシャムはうれしい気分になった。

『絶対に貴様だけは守ってやる』

 その昔、故郷遼南の内戦の激戦の中、吉田はシャムにそう言ったことがあった。それからは一時期シャムが農業高校に行っていた時期以外はほとんど一緒にすごしてきた二人。

『やっぱり俊平は頼りになるな』

 昔を思い出すとなぜかいつも顔が自然とニコニコしてくるのがシャムはうれしかった。

 そんなシャム達に向かって先ほどの上等兵が再び駆け寄ってきた。

「島田准尉から案内するようにとのことを言い付かりました」 

「いいよ、自分の機体だぜ。行き方位……」 

「それが……あの……」 

 そのまま上等兵を置いていこうとする吉田に上等兵は煮え切らない表情を浮かべた。

「なんだよ」 

「エンジン下して制御系の調整中でして……それはコードとかがぐにゃぐにゃ並んでまして……」 

 もじもじつぶやく上等兵に一瞬無視して歩き出そうとした吉田だがすぐにシャムとアンを振り返って立ち止まった。

「あれか……ヨハンのデータバックアップ作業の機材がそのまま接続されてるんだろ?じゃあ頼むわ」

「ありがとうございます!」 

 上等兵は歓喜の表情で歩き出す。シャムは彼を見ながら彼の様子を入り口のあたりでじっと見守っていた古参兵に囲まれた島田の様子を見て安堵の表情で吉田達に続いた。

「しかし……隊長も気前がいいな波動パルスエンジンの総とっかえ。年間予算分を立て替えたんだから……」 

 吉田はそう言いながら第一小隊の三機を固定している足場に上るためのエレベータに飛び込んでそうつぶやいた。

「一応アタシ達がすべての引き金を引いたんだから。処理はしないといけないってことなんでしょ」 

 面倒そうな吉田をシャムは苦笑いを浮かべながら見上げる。ゆっくりと鉄製の網で覆われたエレベータが上がり始める。ハンガーには整備班員達が食後の軽い運動としてキャッチボールをしていたようで島田達のグローブを新入隊員達が回収している様が見て取れた。

「出口から……ちょっと気をつけてくださいね」 

 上等兵がそこまで言うと昼休みの終わりを告げるサイレンが隊舎に響いた。シャム達の目の前。ランの一号機に向かう通路には太いケーブルが何本も壁の端子から延びており、そのままそれはランの小柄な体型に似合いの小さなコックピットハッチへとつながっている。その前には頑丈すぎるように見える椅子とモニター付の端末が置かれていた。

「まあヨハンが通れる程度の場所なら俺達なら問題は無いよ」

 そう言うと吉田は静かに通路を歩き始めた。シャムとアンは珍しそうに太いケーブルから伸びる色とりどりの細いケーブルとそのあちこちにつけられた計測機器に目を奪われながら進む。

「第一小隊三号機でシミュレートします?それとも……」 

「俺の機体だと二人には分からないだろ?シャムの奴の機体を使うよ」 

 そう言うとそのまま一号機の取り外したバックパックから伸びる数知れない数のケーブルの下をくぐりながらそのまま四人は通路を進んだ。表側とは違い、あちこちの装甲板がはがされたり半分開いた状態で固定されていることが良く見える。その開いた部分には多数のメモ書きが貼り付けられ、その半分以上からは後ろの壁の端子に向けてコードが延びて機体の状態のチェックが行われていることがわかった。

「こうしてみるとやっぱり整備は大変だね」 

 感心したようなシャムの言葉に先頭を歩いていた上等兵は苦笑いを浮かべながら振り向いた。

「まあ『05式』は特に手がかかる機体ですから。それにうちに出動が出るときは次に整備できる状況が整うのがいつになるか分かりませんからある程度細かいところまでチェックしているんですよ」 

「そうだよね。遼南内戦の時はこんな施設は無かったから戦闘中の故障も多かったし」

 シャムの言葉に実戦経験者の風格を見て取ったのか上等兵の目が尊敬の光を帯びているように見えてシャムはむずがゆい気持ちになった。

「ここからはちょっと気をつけてくださいね。太いコードは踏んでも良いですが細いのはお願いですから踏まないでくださいよ」 

 上等兵がそう言ったのはシャムの白銀の専用機が目に飛び込んですぐのことだった。シャム達がよく目を凝らせば目の前の通路には無数の電線がシャムの白銀の機体から伸びて壁を這うようにして下へと伸びているのが見える。先頭を歩く吉田は自分の義体が優に100キロを超えていることは知っているので慎重に足場を選びながら慣れた調子で進んでいく上等兵の後をついて歩いていった。

「おい!舟橋!」 

 突然の声にシャム達は下を見下ろす。そこには器用にケーブルに足をかけて上ってくる島田の姿があった。

「危ないですよ!島田先輩!」 

「アン……注意は良いから手を貸せよ」 

 通路の縁まで登ってきた島田をアンが何とか通路の中へと引っ張り込む。なんとか立ち上がった島田はそのまま白い技官用作業制帽を被りなおすとそのまま先頭で様子を伺っていた舟橋と呼ばれた上等兵に目を向けた。

「すまないがシンプソン中尉を呼んできてくれ」 

「はい!」 

 舟橋と呼ばれた上等兵は島田の言葉にそのまま走り出す。

「さてと……吉田さんはどんなデータがこの機体から吸い上げられたかご存知でしょ?」 

「まあな。ヨハンから頼まれてた空間管制能力の管理デバイスの修正の結果だからな。俺も関心がある」 

「くうかんかんせいのうりょくのかんりでばいす?」 

 吉田の言葉についていけないシャムは首をひねった。

「お前さんの能力だろ?時間軸をずらしたり、空間の連続性を遮断したり、空間そのものを歪ませて対ショック体勢を取ったり……」 

 続けざまに吉田に指摘されてもシャムはよく分かってはいなかったがとりあえず後輩のアンの手前もあってあいまいにうなづいた。

 吉田は明らかにシャムが自分の言葉を理解していないのは付き合いが長いので分かりきっているのでそのままニヤニヤ自分を見つめてくる島田を無視するとそのままコードの山の中に踏み入った。

「舟橋の野郎も言ってたでしょうが弱そうなコードは踏まないでくださいよ。ナンバルゲニア中尉はいつも機体の腰部に負担のかかる操縦をするからそのあたりの動作パターンデータの収集と同時にこの前菱川のシステム室から内緒で持ち込んだ修正オペレーションシステムのインストール中なんですから」 

 心配そうな島田をよそに吉田は一歩一歩確かめるようにして白銀の機体の腰を取り囲むようにつけられた足場を慎重に進んだ。

「やっぱりナンバルゲニア中尉でも機体の操縦に妙な癖とかあるんですね」 

「アン。エースになればなるほど機体に負担をかける操縦をするもんだぞ。お前さんももう少し俺達を信じて思い切って操縦してくれよ」 

 薮蛇な島田の言葉にアンは思わず頭を掻いて見せた。

「それじゃあ……吉田さん!」 

「おう!」 

 コックピットの前の大きなパイプに腰をかけて吉田は島田とシャムに振り向いた。その背後に手をやって彼はようやくそこにモニター付の端末が設置されていることに気づいた。

「なるほど、これをいじればいいんだな」 

「察しがいいですね。ナンバルゲニア中尉。とりあえずコックピットにお願いします」 

「うん!」 

 島田の言葉にシャムはそのまま跳ねるようにして吉田の前のパイプに飛び乗るとそれが伸びているコックピットのハッチの中に体を滑り込ませる。座りなれたコックピットだが、目の前の計器盤には多数のコードがつながれ、周りに展開されているフルスクリーンは閉鎖不能で早速始動させるがエンジンの起動音も響かずスクリーンのあちこちからハンガーの内部が見て取れた。

「エンジンは無いですから」 

「やっぱり?」 

 舌をだしておどけて見せるシャムに島田は大きくため息をついた。

「島田准尉!」 

 外で女性のか細い声が響いた。

『レベッカだな』 

 シャムはそう思いながら操作レバーを弄る。確かに手ごたえはあるがエンジンが動いていない以上当然機体が動くはずも無い。良く見るとモードはシミュレーションモードで機体の状況を知らせるモニターには各部の負荷のデータが映っているのが見える。

「俊平!」 

「おう、分かったみたいだな」 

 目の前の空間に吉田の顔が映る。おそらくは首のジャックにコードを挿してシミュレータを起動させたのだろう。周りには宇宙空間のような暗い世界が映し出された。

「アン!吉田さんの足元に体感ゴーグルがあるだろ?」 

「はい!」 

「じゃあそれをつけてナンバルゲニア中尉の行動を勉強しろ」 

 島田の声と同時にがさごそと音がするのがシャムからも聞こえてくる。だがシャムは周りの宇宙空間がいつものように珍しくて首をぐるぐると回していた。

「あのー、ナンバルゲニア中尉?」 

「うわ!」 

 振り向いたシャムの後ろに巨大な緑色の二つの球体が現れたのでシャムは思わず叫んでいた。

「レベッカ……驚かせないでよ」 

「ご……ごめんなさい」 

 おずおずとそう言うとなんとか体勢を整えてシャムのシートの隙間に入り込んで眼鏡をなおす金髪の女性。レベッカ・シンプソン中尉はそのまま苦しそうに大きな胸の間に入っていた端末を取り出すと足元の端子に伸ばしたケーブルをつないだ。

「それにしても大きいね」

「きゃあ!」 

 シャムがいたずら心でレベッカの胸に手を伸ばす。レベッカは驚いて胸を押さえるがその拍子に端末を取り落とし、また体を無理に曲げてそれを取ろうとする。

「言ってくれれば良いのに」 

「でもナンバルゲニア中尉のせいじゃないですか」 

 レベッカはいつものびくびくした調子で上目がちにシャムを見つめてくる。シャムはにんまりと笑った後、その様子をモニターで呆れ半分で眺めていた吉田と島田の顔を見て頭を掻いた。

『ふざけてないで。先週の24番のファイルを起動』 

 淡々とそう言うと吉田達のウィンドウが隠れて回りに宇宙空間の映像が浮かぶ。

「ああ、これね。誠ちゃんとの模擬戦。結構まともになってきたみたいで面白かったんだよな」 

 シャムの言葉の直後に下からと思われるレールガンの閃光が目の前を走る。

「きゃあ!」 

「レベッカ驚きすぎ」 

「すみません」 

 戦闘中の模様を映しているだけの画面を頭の後ろに手を組んで眺めるシャム。その後ろで端末を操作しながら時折走る閃光にびくびくと首を出したり引っ込めたりするレベッカ。

 あくまでも法術の発動実験という名目の模擬戦。実際の戦場ではありえないとされる一対一の管制官無しの戦いの帰趨だが、シャムもさすがに所詮はアマチュア程度に思っている誠に負けてやるつもりは無い。

 十二発。『05式』のレールガンのワンマガジンの発射数の分だけ閃光が走ったことを確認すると周りの星空は一気に光の帯へと姿を変えた。

「空間制御……」 

 一瞬周りを見回した後、すぐにレベッカはこれまでのびくびくした気弱な彼女から技術仕官としての職責を全うしようとする士官としての顔に変わって凄まじい速度で端末のキーボードを叩き始めた。

 次第に赤い色の染まる周りの星星の中、一機のアサルト・モジュールの輪郭がしっかりと見て取ることが出来た。

「神前君。ちゃんと進歩しているんですね……こちらの相対速度にきっちりあわせてくるなんて」 

 めがねを上げながらつぶやくアイシャにシャムはうれしそうにうなづいた。

「だってアタシやカウラ達が指導しているんだもの。当然よ」 

 その言葉と同時にモニターに映るアサルト・モジュールが一気にこちらへと加速して近づいてくる。

「でもまだまだ」 

 シャムの言葉と同時だった。青い光の帯を纏った神前のアサルト・モジュールの左手にある剣がゆっくりと振り下ろされる。

「遅い……わざと時間軸をずらしましたね」 

「そう、微妙な調整となると誠ちゃんもまだまだだから」 

 笑顔のシャム。次の瞬間、神前の機体の左手は切り落とされ、シャムの機体の蹴りでそのまま吹き飛ばされて小さくなっていく。周りの星星の赤みが取れ、普通の宇宙空間が広がる。そしてそのままバランスが取れていない神前の機体が急激に大きくなっていくのが分かる。

 レベッカはそれを見た後、手元の端末に何かを入力し始める。シャムは法術増幅システムの計器に目を落とした。限界値ぎりぎり。『05式乙型』は法術師専用の機体とはいえ、シャムクラスの法術師の力に耐えるほどの性能は有していないことは知らされていた。

 そして目の前にウィンドウが開いて眉をしかめている吉田の顔が浮かんだ。

『率直に言うが効率が悪すぎるぞ。もう少し効果的に力を使え。無尽蔵じゃないんだから』 

「そう言うけどさあ。神前君も進歩してきているし……それに相手がどれくらいの実力か分からなかったらどのくらいの力加減で戦えばいいか分からないじゃないの」

 思わず口を尖らせるシャム。吉田の隣では静かに様子を見守っている島田の姿が見えた。

「ナンバルゲニア中尉の言うことも尤もですが……このペースであと二機相手にしたら機体の安全は保障できませんよ」 

 そこまでレベッカが言ったところでキッとシャムは後ろを振り向く。

「あ……技術としてはがんばっているんですけど……この機体の限界というものがありまして……」 

「分かっているって」 

 そう言うとシャムはシミュレータモードのスイッチを落とした。周りの宇宙空間は消えて、白いコックピットの全周囲モニターの内壁が明るく現れる。シャムはそれを見ると伸びをしながら回りを見回した。

「例の法術発動パターンデータシステムが出来れば効率化……できるのかな」 

 シャムの言葉にレベッカは悲しそうな目をして首を横に振った。

「あくまでも発動パターンをデータ化してパイロットの意思の負担を減らすのがシステムの目的ですから」 

「パイロットの負担?アタシはあまり感じないけど」 

「そりゃあお前の法術のキャパシティーが尋常でなくでかいだけだろ?」 

 突然の声に見上げれば吉田がコックピットの開いた隙間から顔を出していた。

「とりあえず、ご苦労さん。シャム、アンのシミュレータの結果を見てやってくれ」 

「うん」 

 吉田に言われてそのままシートの縁に足をかけてコックピットから這い出すシャム。その様子を神妙な顔でアンが見つめているのが目に入った。

「そんなに硬くならなくてもいいよ。あれでしょ?先週の小隊内模擬戦の……」 

「そうです!お願いします!」 

 いつものアンとは違って明らかにシャムに緊張して顔をこわばらせている。その様子に苦笑いを浮かべながら島田か小柄なアンの肩を叩いた。

「遼南屈指のエースの指導を直接受けられる。緊張するのもわかるがいつもどおりやれよ。その方が覚えることが多いぞ」 

「はい!」 

 島田の助言にもかかわらず相変わらず緊張した表情のアン。シャムはコックピットに頭を突っ込んで中のレベッカとシャムの割って入れないような専門的な話を始めた吉田を置いてそのまま通路を進んだ。

 現在全機オーバーホールとデータ整備を行っている為、隣の吉田の『丙式』ばかりでなく、第二小隊の三機のアサルト・モジュールからも同じように太いケーブルと何本も走るコードが道をふさいでいた。

「中尉、切らないでくださいよ」 

 島田が後ろからこわごわ声をかけてくる。小柄なシャムでもようやく通れるかどうかという隙間をゆっくりと進む。

「これだと神前先輩とかは通れませんね」 

 アンの言葉にシャムは苦笑しながら進んだ。人の胴体ぐらいある太さのケーブルをくぐればその端子から伸びたコードが行く手を阻む。それを迂回すれば足場の手すりには多数の部品発注のメモが貼り付けられていて、それをよけて通ればまるでジャングルの中を進むように感じられた。

「誠ちゃんの機体は……」 

 シンプルなグレーのカウラの第二小隊隊長機のコックピット前のコードの群れを抜けたシャムがケーブルとケーブルの間を見つけて頭を上げるが、その隣にあるはずの誠のアニメキャラが全身に描かれた痛特機の姿はまだ見ることが出来なかった。



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