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ナンバルゲニア・シャムラードの日常 18

 突然部屋の扉が開いて入ってきたのは第四小隊の面々だった。

「それにしても……出前ばかりじゃ飽きないか?」 

「マルケス中尉。ハンバーガーでも同じじゃないですか?」 

「なんだよ、アン。生意気な口を利きやがって」 

 口の端に着いたケチャップをぬぐいながら小柄で陽気なラテン系のフェデロ・マルケス中尉は突っ込みを入れたガムを噛んでいるアンに苦笑いを浮かべながら答える。

「今日はオメー等も8キロ走には参加だかんなー」 

『ゲ……』 

 ランの一言にフェデロとその後ろで髪を櫛でとかしていたジョージ岡部中尉が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

「俺達もいつまでもお客さんというわけには行かないだろ?まあ当然だろ。アメリカ海軍が最強だということを知らしめてやろうじゃないか」 

 鷹揚に笑うロナルドが立ったまま哀願するような視線を黙って丼飯を掻き込むランに向けている二人の肩を叩いた。落ち込んだように自分達の机に向かう二人。

「そう言えば今日は第三小隊のお二人さんがいないからな」 

 フォローを入れたつもりの吉田の言葉だが、生体部品の塊で走るとただ体組織を壊すだけということでランニングに参加しない吉田に言われたところで二人の落ち込んだ気持ちはどうなるものでもなかった。

「でも岡部ちゃんは早いじゃん」 

「ナンバルゲニア中尉が本気を出したときほどではないですよ」 

 座りながらシャムに向けるジョージの目に光があった。

 空間制御系法術。シャムもジョージもどちらも得意な法術である。自分の周りの空間の時間軸を周りの時間軸より早く設定することで光速に近い速度を獲得できる能力。これは何度かの法術発動訓練でシャムがジョージに指導している課題の一つだった。

「言っとくけどそんでも8キロは8キロだからな」

 ランに当たり前のことを言われて今度はシャムまで落ち込んだ。

「良いじゃないですか。この仕事は体が資本ですから」

「神前。ならオメーは16キロ走るか?」 

「クバルカ中佐……」 

 薮蛇の言葉に思わず誠は苦笑いを浮かべながら振り向いた。

「おう、神前。アタシの皿、かたしといてくれ」 

 ランはそう言うと一人黙ってタンメンを啜っている要に目を向けた。それが合図だったかのように全員の視線が要に向く。

「ただ今戻りました」 

 そのタイミングで帰ってきたカウラ。その視線の先には黙って麺を啜る要の姿がある。

「西園寺さん……おいしいですか?」 

 重くなった空気に耐えられなくなった誠の声に静かに目だけ反応する要。しかし何も言わずに再びその目は汁ばかりになったどんぶりの澄んだ中身に注がれる。

「神前、昼過ぎに少しばかりシミュレータの結果について話があるんだが……」 

 カウラの言葉が要を意識したものではないことはシャムにも分かった。だが明らかにいらだっているような要は手にしていた割り箸を片手でへし折る。

「ああ、カウラさん。その件なら岡部中尉のデータと比較するとよく分かりますよ」 

「へ?……ああ、俺とナンバルゲニア中尉、それとクバルカ中佐のデータ。冷蔵庫で閲覧できるはずだよな……そうだ、3キロ走までの間第二小隊と俺とで冷蔵庫でちょっと打ち合わせするか?」 

 『第二小隊』と強めに発音したのは明らかにカウラの存在を意識している要に気を利かせての発言だとシャムですらよく分かった。シャムはそのまま視線を要に向ける。黙って深呼吸をしている要。その耳が隠れるあたりで切りそろえられた黒髪が静かに揺れていた。

「おう、吉田。コンピュータルームの方の予約はどーなんだ?」 

「あ、空いてますよ」 

「じゃー第二小隊と岡部は昼が終わったらコンピュータルームだ。それとスミスとマルケス」 

 ランの言葉に驚いて振り向くフェデロ。それをニヤニヤ笑いながらロナルドが眺めている。

「テメー等はアタシとシミュレーションルームだ。アタシも今週はシミュレーション実習をしてねーからな。失望させるなよ」 

「了解であります!」 

 フェデロが派手に敬礼する。それを見てアンが噴出しそうになるがフェデロのひげをいじりながらの一にらみに静かに視線を落とすしかなかった。

「吉田。シャムとアンの二人連れてハンガーに行け。いつも通りの『05式』でのシミュレーションだ。ちゃんと仕事しろよ」 

「へいへい」 

 子供のようなランに言いつけられていかにもやる気がなさそうに吉田はこたえると再び固形糧食を口に運んだ。


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