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ナンバルゲニア・シャムラードの日常 13

 隊舎の影に入り一段と冷え込む中でシャムは再び震えるようにして襟元に手を伸ばす。シャムの暮らしていた東和列島の西に広がる崑崙大陸中部の山間部の冬に比べればこの温暖な町の空気はまだまだすごしやすいのはわかっていた。それでも吹きすさぶ風と室内勤務に慣れてきたシャムの感覚には十分この豊川の町の冬も寒くてつらいものに感じられた。

 暴発弾を防ぐための土塁を越えたあたりで一定の間隔での銃声が響き始めていた。

「ああ、やっぱり要ちゃん怒ってるな」 

 シャムがそう言うのは機嫌の悪いときの要の訓練射撃の撃ち方を聞きなれてきたせいもあった。シャムは静かに土塁を抜けて射場にたどり着く。

 吹きすさぶ風の中、相変わらずの捲り上げた袖を見せびらかすようにして要は射撃を終えて空になったマガジンを引き抜くとテーブルの上にそれを並べていた。すでに装弾済みのマガジンを自分の私物のアルミケースから取り出そうとして目を向けた要の視線がシャムを捉えた。

「どうも……」 

 シャムは乾いた笑みで要のたれ目がいつものように死んだものに変わっているのを確認しながら静々と近づいていく。何も言わない要はそのままマガジンを手に取ると自分の愛銃スプリングフィールドXD40のオリーブドラブのスライドに叩き込む。

「もうすぐ……」 

「昼だって言いてえんだろ?」 

 そう言うと要はゆっくりと30m先のマンターゲットに銃口を向ける。すでにその頭部は消し飛んでおり、心臓、腹部にも大きな穴が開いていた。

 銃声が響く。何も無い空間を走った弾丸は頭部のあった場所の後ろの土嚢のあたりで土煙を上げる。

「わかっているなら……」 

「別にいいんだよ。それよりオメエも銃を下げているんだから……」 

 そう言いながら要はそのまま銃口を下ろして静かに銃を後ろのラックに置いた。

「アタシも?」 

「撃たないならアタシに撃たせろ」 

 そう言った途端にシャムのホルスターに手を伸ばす要。その相変わらずの仏頂面にカチンと来たシャムはその手をさえぎると自分で銃を引き抜いた。

「一発だけだよ」 

「ケチだな」 

 ようやく笑みを浮かべた要はそのままシャムから銃を受け取って。丸みを帯びたシングルアクションリボルバーらしいフォルムを満遍なく眺めた後銃口を再びボロボロのマンターゲットに向ける。

「ドスン!」 

 先ほどまでのS&W40弾よりも重い響きの45ロングコルトの銃声が射場に響いた。先ほどと同じ場所に上がる土煙。シャムは苦笑いを浮かべながら要の手の中で反動で跳ね上がって銃口を空に向けている愛銃に静かに手を伸ばす。

「本当にケチなんだな」 

 要はそう言いながら口元にだけ笑みを浮かべる。シャムから見ても自分の体がほとんど機械で構成されたサイボーグであることに凄まじいコンプレックスを持っているひねくれた要。彼女が明らかに自分の出会ったどのタイプとも違う誠に興味を持っていることは分かりきっていた。

 外惑星『胡州帝国』屈指の名家の出でありながら反主流派であった父のとばっちりを受けて非正規部隊で汚れ仕事を担当していた荒んでいた要。部隊ができた直後にシャムが始めてであったときはまるで口を開かず開いたと思えば喧嘩ばかり。

 そんな彼女が一人で射撃に集中することで自分の感情を抑え込むことができるようになったのは進歩なのかもしれない。シャムはひそかにそう思いながら要を見つめていた。

 シャムの思いを無視するようにターゲットに正対した要は再び手にした銃でターゲットに一発ずつ確かめるようにして射撃を続けている。

「私も撃つかな」 

「その為のガンベルトだろ?」 

 再び空になったマガジンを取り出す要。開いた左手で先ほどのアルミケースを探るがすでに装弾済みのマガジンは尽きていた。舌打ちをすると彼女はそのままケースの奥からメーカーの箱に入った新品の弾丸を取り出して箱を開くとテーブルに並べていた空きマガジンに弾薬を一発ずつ込め始める。

「そう言えばキムが言ってたわよ、撃ちすぎだって」

 そう言うとシャムはテーブルの上の要に貸していた拳銃を握るとその撃鉄を起こした。

「アタシの金だ。この銃だって叔父貴から買い取っているんだぜ」 

「でも管理はキム君任せじゃないの」 

 シャムは引き金を引く。マンターゲットを立てていない射場に土煙が上がる。

「アイツの仕事だろ?アタシ等が前線で動くために必要な小火器を用意してその整備運用の全般を取り仕切る。その為にアイツがいるんだから」 

「それはそうなんだけどね……」 

 下手に反論したところでネットワークと直結した頭脳を持っている要を言い負かすのは自分には無理だと分かっているのでシャムは再び視線を先ほど着弾があった地点に目をやると再びハンマーを起こす。

「ここだけの話だぞ、誰にも言うなよ」 

 引き金を引き絞ろうとしたシャムにこれまでの強い調子とは打って変わったか細い声の要の声が響いたのでシャムは引き金から指を離した。

「誰にも言わないよ」 

「絶対だぞ!」 

 顔だけ弾を込めている要に向けたシャムに要は顔を赤らめながら噛み付くような調子で叫んだ。

「神前の奴……やっぱりカウラが好きなのかな」

「嫌いじゃないんじゃないの?」 

 シャムですら予想された範疇の質問に思わず苦笑いを浮かべた要は静かにまた弾をマガジンに込める。もうすでに限界に近いらしく弾はサイボーグの力をもってしてもなかなかマガジンに収まらない。それに業を煮やして要は軽くマガジンを叩いた。

「暴発するじゃないの」

 驚いて話しかけてくるシャムの顔を見上げてにやりと笑うと、要は再び神妙な表情を浮かべた。

「アタシはさあ……別に神前が気になるわけじゃないんだけど……さあ……」 

「十分気にしているように見えるけど?」 

 シャムの突っ込みに弾を込め終えたマガジンをテーブルに叩きつけてにらみつける要。その非正規部隊での市街地戦闘での無差別射撃で裏社会では知られていた女傑にしては迫力に欠けるたれ目がシャムを見つめていた。

「別にいいじゃない。要ちゃんが好きなら……」 

「好きとは言ってねえだろ!好きとは!」 

「じゃあ嫌いなの?」 

「それは……」 

 心の中を見透かされたようなシャムの視線に思わずうつむく要。

「好きならすることがあるでしょ?カウラちゃんは誠ちゃんのこと嫌いじゃないみたいだし……」 

「やっぱりそうか?そうなのか?」 

 突然立ち上がって詰め寄る要にシャムは思わずのけぞった。

「そんなに急に立ち上がらないでよ……」 

 シャムが驚いたような顔を浮かべる様を見て、要は自分が明らかに動揺していたことをシャムに悟られたことを公開するように再び中腰で並んでいる空のマガジンに手を伸ばした。

「誠ちゃんはあまりそういうことには縁が無かったみたいだしね……まあ行動半径も普通の女の子が行くところはまず無いし、要領は悪いし、口下手だし……」 

「まあそうだな。あいつと行動半径が一致するのはアイシャぐらいの……ってアイツの話をするとどっかから沸いて出る……」 

 シャムを見上げながら中腰でマガジンを握り締めていた要がそこまで言ったところでその言葉は突然中断することになった。


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