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ナンバルゲニア・シャムラードの日常 10

「おはようございます!」 

 突然の闖入者である神前誠しんぜんまことの登場に全員が入り口に目を向けた。

「どうしたんですか……?」 

 しばらくおたおたと大柄な隊員が周りを見回す。いつも通りの気弱なその表情に全員の大きなため息が響いた。

「神前、少しはどっしりと構えて見せろよな」 

 ランが苦虫を噛み潰したような表情で長身の隊員に視線を送る。誠はしばらくどうするべきか迷っていると言うようにこの部屋の異物と言うことで共通認識のあるキムに向かって笑顔を向けてみた。

「ああ、神前。昼飯の注文だけど……」 

「食べてきました……」 

「美味しかったですよね、焼肉」 

 神前の長身の後ろから甲高い少年のような声が響いた。彼が先ほどまで話題になっていた怪しげな美少年アン・ナン・パク。浅黒い肌の首筋を軽く自分で撫でながらゆっくりと第三小隊のがらりと空いた机に向かっていく。

「誠ちゃん達焼肉食べたの?ずるいな」 

「焼肉か……」 

 シャムは羨望の目で、要は怪しむような目でまだ入り口で棒立ち状態の誠に目を向けた。

「あの……別に……そんな……」 

「いつまでそこに立ってるんだ?いい加減すわれよ」 

 ランの言葉にようやく踏ん切りがついたというように誠は要の正面の自分の席に座った。その様子を一部始終ニヤニヤ笑いながら見つめていたキムはメモに注文を書き付けるとそのまま誠が立っていた部屋の入り口へと向かう。

「それじゃあ注文してきますから」 

「頼むぞ」 

 キムが出て行くと部屋の住人の視線は自然と着替えたばかりの勤務服のネクタイを締めなおしている誠に向かうことになった。しばらくネクタイの先を気にしていた誠だが、すぐにシャム達の視線が自分に向かっていることに気づくとそれを受け流すように無視してそのまま端末の起動ボタンを押した。

「聞かないの?」 

 シャムの言葉に声をかけられた要の顔が思い切りゆがんだ。

「何が言いてえんだ?」 

「言わなくてもわかるじゃないの……」 

 含み笑いが自然とシャムの口元に浮かぶ。要はそれが顔には出さないものの誠を心配している自分の心を見透かしているようで気に入らずにそのまま立ち上がった。

「西園寺さん……」 

「タバコだよ!」 

 誠の言葉にさらにいらだったように立ち去る要。

「素直になればいいのに……」 

「ナンバルゲニア中尉、結構意地悪ですね」 

 ニヤニヤ笑いながら端末のキーボードを叩き続けるアン。小さい頭をモニターから覗かせて様子を見守っていたランもかすかに笑みを浮かべると自分の作業を再開した。

「でも……西園寺さん……何かあったんですか?」 

「相変わらず鈍いねえ……まあお前さんらしいがな」 

 そう言いながら目をつぶる吉田。その目の前では目にも止まらぬスピードで画面がスクロールされ何がしかのシミュレーションデータがくみ上げられていっていた。

「あ、僕やっぱり話してきます」 

「神前!子供じゃねえんだ。テメエの検査のデータの提出が先だ。あと三十分でなんとかしろ」 

 非常に叫ぶラン。心配そうに要の出て行った扉を目にしながら誠は腰をすえると起動した端末の画面に厚生局のデータルームにつながるシステムを起動させる。

「そうだよ、お仕事お仕事」 

 シャムはそう言うといっこうに進まない自分の経理伝票の入力を再開した。

 シャムがめんどくさそうにキーボードを叩き始めるのにあわせたように一斉に部屋中の音が消えた。

 ランは静かに手元の訓練結果の資料と画面の内容を精査し始めた。相変わらず吉田は目の前で組み上げられていくプログラムを黙って見つめている。アンはちらちらと誠に目をやりながらポケットから出した検査結果の用紙に目を走らせていた。誠はその視線をいかにも嫌がっているというような苦笑いを浮かべながら画面を覗き込んだまま微動だにしなかった。ただ一人ぽつんと第四小隊の机の島に取り付いていたロナルドは手にした英字新聞を真剣な顔つきでにらめつけている。

 沈黙。それは一番シャムが苦手とするところ。

「ウガー!」 

 飛び上がるように立ち上がるシャム。いつものことなので部屋の全員の糾弾するような視線を慣れた調子でシャムに向けた。

「シャム。もうすぐ昼だから西園寺でも呼んで来いよ」 

 気を利かせてランがめんどくさそうにつぶやく。シャムの顔はその一言で一気に笑顔へと変換された。

「やっぱり射場かな」 

「そうじゃねーのか?アイツがただタバコだけ吸って済ませるとは思えねーからな」 

 ランは投げやりにそう言うと再び目の前の資料に目を落とした。笑顔を輝かせて130cm強の体には明らかに大きすぎる事務用の椅子から飛び降りるようにしてシャムは走り出した。

「転ばないでくださいよ」 

 これもまた投げやりにそれだけ言うと誠は頭を掻きながら決心がついたと言うようにキーボードを叩き始める。その様子ににんまりとした笑いで答えるとシャムは廊下へと飛び出した。

 ドアを開けると一気にハンガーから流れ込む冷気と重機の低い音がシャムを包み込み、彼女は思わず首をすくめた。

『そこ!右腕部のアクチュエーターの調整は最後だって何度言ったらわかるんだよ!それより骨格部の強度チェック!それが終わったら流体動力装置の再点検!そのくらいの手順は覚えてくれよ!』 

 先日の異動でこの惑星遼州の衛生である麗州からの新入隊員の指導を任されている技術部の事実上のナンバー2である古参隊員島田正人技術准尉の叫びがこだましている。

「たいへんだな……正人も」 

 そうつぶやくとシャムはそのままハンガーに向かう廊下を歩き始めた。




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