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離縁

 「なんだってアンタはそうなんだい!! この手前勝手め! 毎度毎度もうウンザリ! 今日こそ離縁してくれる! 」

 朝から長屋は賑やかだ。どうやら狸の夫婦が喧嘩中。どうしたどうしたと野次馬が群がっている。見てみれば、カッカカッカとする女房に、旦那は目尻眉尻口元引き下げ、全く頭の上がらぬ様子。

 「ごめんよぅ。どーっしても夜中に腹がすいちまってよぅ」

 喧嘩の原因は旦那がこっそりつまみ食いをしたのが原因らしい。しかし、そんなことで女房があれ程怒るものかね。

 「だからってメシどころか材料も食い尽くすヤツがあるかい! 今日の朝飯どころか大根のカケラ一つもないじゃないか! お腹の子も育てなきゃならないのにどうしてお前さんはこうなんだ! 」

  なるほど、そりゃ女房も怒るわけだ。そしてどうやら妊娠しているらしい。よくよく見てみれば、お腹は少しふっくらとしてきている。腹にいる子供の分のメシも食われたとなりゃ、怒りもひとしおと言うもの。や、旦那が塩すら食い尽くしていそうだが。

 「全くシッカリしておくれ! アンタ父親になるんだろ! 食っちまったものはしょうがないんだから、とっとと代わりのモンを買ってきな! 」

 垂れ目な女房が吊り目になりながら旦那を蹴飛ばし、ついでに財布も投げつける。旦那は縮こまって顔をしわくちゃにしてキュウと鳴き声一つあげた。

 「ううう……。オレが悪いんだ。せめて精のつくもんでも買ってきてやらにゃ」

 旦那は尻尾を丸めて猿の八百屋に向かった。

 「よう狸、知ってるぜ。またおっかさんに怒られたんだろ。これやるから元気だせ」

 猿は太い大根2本おまけした。

 お次は猫の魚売り。

 「狸さんも馬鹿ねぇ。私がなんとか言っておいてあげるから、あとで謝るんだよ。はい、おまけも入れたから」

 小さなアジを3匹くれた。

 最後は鹿の薬売り。

 「全く、女房がつわりで悩んでいるというにこの旦那は。さっさと謝ってこい。ほら、これ渡しておいてくれ」

 つわりに効く漢方をいつもより多めにくれた。

 旦那は荷物を背負ってえっちらおっちら帰ってきた。こそこそ怖々泥棒みたく戸を開ける。

 「あ、帰ってきた。飯は買ってきたんだろうね」

 「もちろん買ってきたとも。いつもの薬もちゃあんとあるよ。それで、あの」

 ここで旦那は言い淀む。もじもじ少し気味が悪い。女房も不思議そうにしている。

 「あの。すまなかった。これからは絶対しない。それでその、離縁ってのは……」

 どうやら旦那、それがずっと気がかりだったらしい。それを見た女房は目を丸くして大笑い。

 「そんなこと気にしてたのかい。もうそんな気はないよ。私こそ言い過ぎたね。謝るよ。ほら、一緒に飯を食おう」

 それを聞いた旦那はさっきまでが嘘のようにニッコリとして思い切り女房に抱き着いた。驚いた女房はつい、旦那を殴ってしまったようだけど。仲のいいことで何よりだ。

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