第五十九章 風の記録
長老の家に戻る途中でリリカとガルドと合流した。
「へぇ~」
急にリリカが言った。
にやにやしている。
「何だ」
レオンが聞く。
「別に?」
リリカは笑う。
そして、セリアを見る。
レオンを見る。
セリアを見る。
セリアは嫌な予感がした。
「……何?」
「なんでもない」
絶対なんでもなくない。
ガルドが苦笑する。
「やめてやれ」
「まだ何も言ってないよ?」
「顔が言ってる」
レオンだけ意味が分かっていない。
「?」
本当に分かっていない。
◇
長老の家に入ると、ユークは既に待機していた。
待機というより本に埋もれていた。
「戻りました」
セリアが言う。
「杖も見つけました」
長老は安堵したように笑う。
「それは良かった」
そして、セリアは続けた。
「でも、気になることもありました」
空気が少し変わる。
風の流れ、ペンダントの反応、途切れそうな感覚。
見たものを話す。
長老は黙って聞いていた。
ユークも珍しく口を挟まない。
全て聞き終えた後、長老はゆっくり頷いた。
「やはりか」
「何か分かったんですか?」
セリアが聞く。
長老が答える前にユークが立ち上がった。
待ってました状態。
「分かっています」
目が輝いていた。
「風石の記録によると」
「過去にも同じ現象がありました」
古文書を広げる。
紙は古くて所々破れている。
それでも文字は残っていた。
「風の流れが弱まる」
「願いの流れが滞る」
「道が細くなる」
静寂。
長老は懐かしむように目を閉じる。
遠くを見ているかのように。
「その後の記録は?」
ガルドが聞く。
ユークは首を横に振る。
「ありません」
「途中で途切れています」
「途切れてる?」
リリカが首を傾げる。
「はい、そこだけ不自然にまるで誰かが抜き取ったみたいに」
部屋に沈黙が落ちる。
風が窓を揺らした。
◇
ふと、長老は窓の外を見る。
本来なら風の流れはもっと豊かなはずだった。
もっと自由なはずだった。
だが、今は少し違う。
ほんの僅かに弱い。
長老は誰にも聞こえない声で呟く。
「まだ始まりに過ぎんか」
その言葉は風に溶けた。




