14 聖水
青白い顔をして、頭から血を流しグッタリしている少年が目の前にいる。
息はありそうだけど、意識はないみたい…。
どうにかして助けられないかな!
1番てっとり早いのは、私が彼に触れて『ヒール』がかけられたらいいんだけど、この状況だと難しいそうだ。
あとは……!!そうだっ!聖水だわっ!!
聖水をぶっかければ、いいんじゃないかしら?
そうすれば私が聖女だってバレることもなく、少年を助けられるはず!
聖女だけが作れるっていう、万能薬の聖水!希少価値が高くて、高額で取引されてるらしいけど、世の中に存在しないことはない!
聖水は液体に聖女が『ヒール』をかければ、作れるんだと思う。
あぁぁ!でも、手元に液体がない!!
何処かにないかしら?
キョロキョロと辺りを見渡す。
すると、ちょうど路面店にジンジャー水のお店があった。
前の世界でいうジンジャエールみたいなもので、ジンジャーとハチミツの炭酸水を瓶に入れ、キンキンに冷えたものを売っている。
アルコールは入ってないから、子供から大人まで飲めて、市民のポピュラーな飲み物だ。
私は1度人混みから抜け出し、「オジサン!1本ちょうだいっ!」と急いで購入した。
キンと冷えた瓶に『ヒール』と念じると、薄っすらと瓶が光った気がする。ちゃんと聖水になってるか心配で、3度ほど重ねてかけておく。
あとは……。
ぬおおおおおおおおおおおお!!
瓶を全力で振るっ!振るっ!振るっ!振るっ!
よしっ!!
「ちょっと、すみません!」
私は瓶を片手に、また人混みを掻き分けて、なるべく少年に近くに行く。
まだ従者のグダグダ説教が続いていた。
( もうっ!身分優先で怪我人を蔑ろにする奴は、天罰でハゲ散らかしてしまえばいいのにっ! )
そんな事を願いながら、少年の様態を観察する。
ー良かった…、まだ生きてる。
人混みの隙間から、ギリギリまで少年に近く。
ー届きますようにっ!!!
最後にもう1振りしてから、私は思いっきり瓶の栓を抜いた。
ポンっ!!!
ジュワワワワーーーーーーー!!!
大きな音と共に、ジンジャー水が凄い勢いで放水される。まるで優秀した野球選手のビールかけみたいに……。
「な、なんだっ!!」
「うおっ!!」
周りと、従者が騒ぎだした。
少年にジンジャー水がかかった!…良かった…。
少年を抱いている母親にも、かかっちゃって、2人ともビショビショに濡れてしまったけど。
母親は目を丸くし、ビックリした顔で、こっちを凝視している。
「ごめんなさいっ!ジンジャー水がっ!」
「ちっ!これだから平民はっ!」
従者が舌打ちをして、私を睨んだあと、「もういい!おい!出発するぞ!遅れてしまう!」と馬車の中に戻り、慌ただしく馬車が動き出した。
「…うっ……」
少年が意識を戻したみたいで、顔をしかめ、ピクっと眉が動き、声がでた。
「っ!!マルクっ!マルクっ!大丈夫っ!?」
母親は、私と去っていった馬車から視線を戻し、少年を心配そうに伺う。
「…、かぁ、さん」
少年はさっきよりも顔色がよくなっていて、まだ虚ろだが、もう命の危険はなさそうに見える。
……よかったぁぁぁぁぁ、助けることが出来たわ。
ホッと安堵の息が漏れる。
そうだわ!フーカさんをカフェで持たせてるんだった!急いで戻らなきゃっ!
びしょ濡れの親子に、ペコリと頭だけ下げ、心の中で謝っておく。
ーごめんなさいっ!ハチミツも入ってるからベタベタするかもだけどっ!こうするしか考えつかなかったのよ!!でも無事で何よりだわっ!!
私は人混みに紛れ込み、騒動から抜け出し、「御馳走さま」とジンジャー屋さんに瓶を返しながら、カフェに急いで戻った。
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