第7章 勝ち得たもの
今日もランが自室に向かっていた。思えばリサはあれからアーサーの事は周りに言いふらしてはいなかった。ちゃんと弁えてる所はあるんだなと思いながら部屋に入るとリサが机に突っ伏して泣いていた。彼女は毎日何かしら騒がしくしている。
「どうしたの?」
と声をかけるとリサが応える。
「バーンズが私の知らない女の子と2人で話してた…」
「まぁそんな事位はあるんじゃない?」
「しかもなんかちょっと楽しそう…」
「…そう見えただけじゃないかな…?」
「しかも最後にハグしてたし、その女の子もすっごい嬉しそうだったー!」
「…はぁ…実は昔からそういうとこあったのよ。色んな女の子に手を出しては…」
「私もう我慢の限界!!」
リサが机を叩き立ち上がった。
「あいつの剣をへし折ってやる!」
「………………………………………へッ!?」
その意味に気付いたときには既にリサは部屋を出ていっていた。
その頃アーサーとバーンズは図書館から両手一杯に本を抱えて出てきた。
「お前これマジで全部読むのかよ?」
「当たり前だろ、事務員になるには資格がいるんだ。しかも相当勉強しないと取れないんだよ」
「だからって…何も資格在学中に取らなくてもいいんじゃないか?他の授業もあって忙しそうにしてるのに」
「図書館が身近にある内に勉強しときたいんだよ」
3年生になりそれぞれ将来の方向を考える時期になった。アーサーは本格的に事務員を目指し毎日図書館に通い詰め勉強をしていた。
2人が話しながら歩いているとリサが大きな鞄を持ってやってきた。
「バーンズちょっといい!?今日あなたと話してた女の子は誰!?」
「リサ…!!あれは…後輩だよ、剣を教えてほしいって言うから仕方なくだな〜」
「嘘!あの子にハグしてたでしょ!顔赤くして凄い嬉しそうだったし!あームカつくー!」
「そ、そ…そんな事してないし!お、お前の見間違いだろ!」
「はー!?私が間違ってるって言いたいのー!?」
アーサーは2人のやり取りを遠い目で眺めていた。
「私許さないから!」
リサはそう叫んで鞄から薄い本を取り出してみせた。表紙から如何わしそうな雰囲気が漂う。
「おい!お前それどこで!」
「あなたがベッドの下に隠してるの私知ってるんだから!この本を学園の色んな所に貼り付けて、バーンズはこんな趣味してまーす!って言いふらしてやるから!」
バーンズは明らかに動揺している。
「………別にいいけどー!俺の趣味至って普通だし!大体、男だったらそんな本くらい誰でも…」
「ふーん…じゃあ最後の方の角がちょっと折ってあるページも見せびらかしていいんだ〜!」
「それはダメだっ!」
バーンズは抱えていた本を放り出してリサに飛びかかった。本はアーサーに全て命中しその拍子に彼は倒れる。
一方リサは華麗にバーンズを避け、その角が折ってあるページを開き中を見る。
「キャーーー!!!」
「あーーーー!!!」
バーンズはその場で崩れた。
「………終わった…俺はもう終わりだ…こうなったら…」
バーンズはリサの鞄に手を突っ込み何かを取り出した。
「あー!それは私の一番気に入ってるやつ!」
彼が取り出したのは口紅だった。
「そいつを解放しろ!これがどうなってもいいのか!?」
「何やってんの!?意味わかんない!しかもそれ凄い高かったのに!」
「俺のケツに塗ってもいいのか〜?」
「あーその塗るフリすら嫌ー!」
憎たらしい顔を見せるバーンズ。
「…わかった、解放する。だから今すぐそれを返して!」
「…よし、じゃあせーので返そう…せーの!」
お互い持ってた物を返した。
「絶対誰にもバレてないと思ってたのに…何でわかったんだ?」
「とりあえずお尻からは守られたけど…なんか使いたくない気がする…」
2人とももう何が原因で喧嘩をしていたのか忘れていた。だがそこでバーンズは気付いた。
「あっ!アーサーごめん!大丈夫だったか?」
「……俺は大丈夫……多分2人の方がやられてる…」
本の山の中からアーサーが顔を出しながら言った。
「あなたがアーサー君!?話は色々聞いてるよ!」
リサがアーサーに言う。
「お花出せるんでしょ!?スゴい可愛いよね!見せてー!」
なんでこの状況でそれを聞こうと思ったのか甚だ疑問ではあったがアーサーは答える。
「ウン。アトデネ」
アーサーは授業と資格試験の勉強、また格闘術の授業も継続していた。
マチルダは相変わらず厳しく端的な物言いだ。だがアーサーは今まで自分のスキルに対し気を使われるかバカにされるかのどちらかだったため、スキルに関係なく率直に指摘してくれる教員の方がよかった。
そして彼女は時折アドバイスをくれる。
「戦闘において重要なのは如何に相手を騙すかだ。自分の方が弱ければ強く見せる。自分の方が強ければ弱く見せる。上から来ると見せかけて…」
彼女は拳を振り上げる。アーサーは腕を交差させ頭を守る。
「横から」
脇腹に蹴りが入る。
「そして横に注意を逸らせたら」
振り上げた拳を頭に叩きつける。
崩れ去るアーサー。
その後も授業を続けるが強烈な右ストレートがアーサーの顔に当たる。
授業後はまた図書館で勉強をする。
「アーサー!お前たった1ヶ月の勉強期間で会計書記3級取ったんだってな!しかも満点で!ホントスゲーよな!」
バーンズが興奮気味にアーサーに言う。
「まぁこのくらいは誰でもできるって!」
アーサーもようやくバーンズに得意気な顔ができるようになった。
次の格闘術の授業でアーサーはついに彼女の右ストレートを避ける事ができた。
自分でも驚き笑顔がこぼれたがすぐに左の拳で頭を突かれた。
その後は他の授業中に資格試験の勉強を同時進行する。
「バーンズから聞いたよ!アーサー君魔獣学試験受かったんだってね!おめでとうー!」
廊下で偶然すれ違ったリサに話しかけられた。
「あ、ありがとう」
「スッゴい難しいテストだったんじゃない!?」
「結構難しかったけど、まぁ案外できたよ」
少し照れくさそうに答える。
その次の格闘術の授業では右、左と拳を避けられた。だが間髪入れずに胸を蹴られて後ろへ飛ばされた。
その後は食堂でご飯を食べながら本を読む。
「アーサー薬草技師初級の資格取ったんだって!?」
「この試験受かったって本当か!?」
「えっ、あれにも合格したの?」
黄盾のクラスメイトが皆アーサーに注目する。
「あぁ、全部取ったよ」
「スゲーーー!!!」
皆が一斉に叫んだ。
今回の格闘術の授業では右、左と拳を避けた後直ぐ様腕を胸の前で交差させた。強烈な蹴りが入り何歩か後退りしたがなんとか持ちこたえた。
「動きがまだ鈍い。本来なら蹴りを避けた勢いで蹴り返すべきところだ。攻撃はほとんど当てられてないし、当たったとしてもかなり弱い」
マチルダは淡々と伝える。
「すみません、スキルが無いもので…」
すると彼女は声色を変えた。
「スキルなんて道具と同じだ」
アーサーは彼女の方を見た。
「スキルは道具と同じ。いくら良いスキルを持っていても使いこなせなければ意味が無い。逆にスキルが無くとも努力次第ではそれなりの結果を出す事もできる。あくまで目標達成のための手段に過ぎない。
だからスキルが無いは言い訳にならない」
初めて彼女の考えに触れたアーサーは彼女の言葉を噛み締めた。
「でも、前回よりは強くなったな」
意外にも評価を受けアーサーは心の底から喜びを感じた。
「事務員試験受かったんだって!よかった〜ホントに頑張ったね!」
ランに報告すると嬉しそうに答えてくれた。
「まぁ受かったって言ってもまだ一次試験だけどな。しかもギリギリ合格。やっぱ事務員試験だけは一筋縄ではいかねーわ」
「それでも在学中にそこまでできるなんてよく頑張ってると思うよ」
「ありがとう、そう言ってくれて」
食堂でお茶を飲みながら会話する2人。
「そういえばお花のスキルってどうなったか聞いてもいい?」
ランが少し気を使いながら尋ねる。
「あぁ、まぁあんまり前と変わってないよ。多少は花に詳しくなったし、1度に生成できる花の数は増えたと思うけど」
「へぇ〜沢山のお花出すところ見てみたいな」
「また今度な」
図書館から本を借り両手に抱えてアーサーは自室へ戻った。
「いたのか、大木ジャック」
ジャックの肉体は鍛え上げられ、筋肉がより肥大化しマッシブになっていた。だが彼の根暗な顔は変わらない。
アーサーは本を置きネコヤナギをジャックに投げつけた。
「勉強するのは大変だし苦痛だけど、でもその分成果が出ると苦労なんて全部吹き飛ぶ位嬉しいんだよな。今更それに気付いたぜ」
自分の勉強机に座り物思いにふける。




