第6章 道
いつものように授業が終わりランが自室に向戻ると既にリサが部屋にいた。
リサはベッドの上でキャーと叫びながらのたうち回っていた。
「あなた何やってるの?」
「あ!ランちゃん!私ね、彼氏ができたの!」
「へ〜そうなんだ〜おめでとう!」
ランは自分の荷物を片付けながら聞いていた。これだけ美人だし彼氏位できるだろうなと思った。
「はぁ〜もうカッコ良すぎる〜」
「それはよかったね」
「あ〜キスしすぎて顎が疲れた〜」
「いいよそこまで言わなくても」
「うふふ、ごめんね、つい嬉しくて」
リサがとろけた様な顔でランを見る。
「どんな人なの?」
「ふふ!それがね!カッコ良くてぇ〜背が高くてぇ〜成績優秀でぇ〜皆から人気があって〜どこか遠いところからやって来た王子様みたいな人!」
「そうなんだ〜私とは縁のなさそうな人だなぁ。名前はなんて言うの?」
「青盾のバーンズ君!知ってる?」
「えぇ!バ、バーンズ!!??あの!?」
「知ってるの!?」
ランは耳を疑った。
「知ってるってか、バーンズって私の幼馴染よ…」
「えええー!そうなんだ!」
「確かに遠いところから来てるけどウィーキーっていうド田舎出身よ」
「ねぇバーンズ君って小さい頃はどんな子だったの!?」
「う〜ん…昔から変わってないねぇ〜。子供の頃から背が高くて芽体が良くて力が物凄く強かった」
「へぇー!」
「だからいっつも調子に乗ってイキって煽っては周りの子たちを怒らせてたな〜」
「そ…そうなんだ…」
「でも意外と自分の発言で人が傷付いてないか気にするし、言い過ぎた時はちゃんと謝るし、友達に何かあった時は助けてくれるし、なんだかんだ優しい所もあるよ」
「おぉー!そうなんだー!ふふふ…」
リサは喜びを隠しきれない。確かにバーンズは顔も良いし皆から人気もある。ランは2人は結構お似合いだと思えてきた。
「そう言えばランちゃんは彼氏とかいないの?」
「いや、私はいないなぁ」
「じゃあ好きな人は!?」
「好き!な人…!?…は………どうかな…??」
ランの頭の中をある人物が駆け巡ったが理性で抑えつけた。
「あーそれは絶対いるでしょー!ねぇ誰だれ〜?」
「いやだって…言ったらリサ絶対周りに言いふらすでしょ!」
「言わな〜い」
「はぁ信用できない…」
「ねぇ誰だれ!?私も応援するから!」
「ホントに誰にも言わないでね、約束よ」
「約束する〜」
「はぁ、実はね…」
「うんうん!」
ランは少し緊張した様子で恐る恐る答える。
「黄盾の…アーサー…っていう男の子なんだけど…」
「え、そんな子いたっけ?」
「いるの!」
「ごめんごめん、で、アーサー君はどんな子なの?黄盾ってことはスキルは?」
「それがかなり珍しくて、《花》っていうスキルなんだけど、好きな花を自由に生成できるんだって」
「え!じゃあこの部屋の壁とか天井に好きなお花の飾り付けができるって事!?」
「多分できる…」
「何それ可愛いー!そんなのもあるんだー!えー私もそれが良かったなぁ」
「本人は結構苦しんでるけどね…」
ランの緊張が段々と解けてきた。
「で、何で好きになったの??」
「…それが子供の頃なんだけど、アーサーとバーンズが2人で遊びに行ってたの。その帰りにアーサーがそこで見つけた花を私にプレゼントしてくれて…」
「えっ!待ってそれだけの事で!?」
「いやまぁそれだけと言えばそれだけなんだけど…。
私の地元ってスゴい田舎で、小さい頃はよく自然の中で遊んでてさ。それであの日も2人は森の中で遊んでて私はいなかったの。後から私が合流した時にアーサーがそこで見つけてくれた花を私にくれたの。
私のいない所で、私の事を考える必然性も無い、なのにあの小さくて可愛くて綺麗な紫色の花を見たときに私を思い出してくれたのが子供ながらすっごく嬉しくて…。それがずっと心に残っててさ…」
「それでずっと好きなんだ〜。アーサー君に好きって言った事ある?」
「ないないない!そんな事言える勇気もないし、それにアーサーは私に花をあげた事も絶対に忘れてる!」
ランの顔は既に真っ赤になっていた。
「言ったらいいじゃ〜ん!ランちゃんなら大丈夫!それに私が付いてるし!」
「いや、でもホントに大丈夫だから…」
ランを無視してリサがクローゼットに魔法をかける。
クローゼットからは大量の服が出てきた。それもクローゼットにはどう考えても収まりきらない量だ。
「こんなにいっぱい持ってたの!?」
「そう!全部魔法で収納してるよ」
リサの服が部屋中に浮かんでる。
「ランちゃんはまず服を何とかしよう!毎日似たようなのばっかり着てるし色も地味!」
「そう言われても…」
ランが言い切る前にリサは次にクローゼットの鏡に魔法をかけた。
「今この鏡に魔法をかけたの。これはクローゼットにしまった服を鏡の中の自分が着てるように見える魔法なの。でもこれすぐに解けるから困ってるの〜」
そう言ってリサは部屋の中の服から黄色いドレスの様な服を選んでクローゼットへしまった。
「じゃあ鏡の前に立ってみて」
ランが言われた通りにすると確かに鏡の中の自分はその黄色いドレスを着ていた。
「へー!スゴい!」
ランは魔法の凄さと服を変えただけで自分の印象がまるで違って見える事に驚いた。
「可愛い〜凄く似合ってるね!どう?この魔法面白いでしょ!」
「それであなた時々鏡の前で変なポーズとってたのね」
「変なポーズとか言わないで、あれは真面目にやってるの!」
真面目にやってる、と聞いてランに思い起こされたのは、鏡の前でリサがY字バランスをとっていたり鏡の自分を驚かせたり鳥のモノマネをしている姿だった。あれは真面目にやっていたのか。
「真面目にやってる…」
「じゃあ次これ着てみて!」
リサに言われるがままにいくつかの服をクローゼットに入れては鏡の前に立つ。
こうして2人でコーディネートを探っていった。
剣士の授業はアーサーにとっては困難を極めた。そのため2年になってからは他の分野の授業にも積極的に履修していった。
だが当然の事ながらスキルの差はなかなか埋められるものではない。
今日は格闘スキルの授業を受けている。格闘スキルを授かった者は少なく部屋にはアーサー含め5人程しかいない。
そして教官はアーサーより背が低く華奢な女性だったが目つきの鋭さが尋常ではない。
彼女の名はマチルダでアーサーと手合わせをする事となった。
試合が始まった瞬間アーサーの腕や胸、頭の防具を全て蹴られてしまった。
何が起こったのか分からないままアーサーは倒れた。
「反応が遅い。今のは最低でも一発は防がないと話にならない」
彼女は淡々と言う。自分が遅いんじゃなくてあんたが速すぎるんだろ、とアーサーは思った。だが確かに他の学生は何発かは攻撃を防げている。この悔しさに慣れてきた自分がいる。
授業が終わりアーサーが次の教室へ向かおうとする。すると周りの学生達の噂話が聞こえた。
「おい聞いたかよ、青盾のバーンズってヤツ、2年になってから模擬戦で1回も負けた事ないらしいぞ」
自分と親友の差が日に日に開いていく。悔しいがあるがままの運命を受け入れる他ない。
そう思っていると目の前から途轍もないオーラを纏った人物が現れた。
赤いドレスに黒いベルト。髪が綺麗に纏められ金のネックレスと赤く煌びやかなハイヒールが周りの学生達の驚いた表情を集める。
よく見ると彼女はランだった。
ランはアーサーに近づき言った。
「ハ〜イアーサー、さっきの授業はどうだった?」
アーサーはキョトンとした顔で眺める。
「う…うん、大変だった…」
「私が癒してあげようか〜?」
何言ってんだという顔のアーサー。
「いや、大丈夫」
眉間にシワができたのをランは感じたがすぐに元の表情へ戻した。
「この後は何かあるの〜?」
「法学の授業だけど…」
「そんな事より私と抜け出さな〜い?」
「ラン…」
妙な間が空く。
「それ何かの罰ゲーム?」
「ヘッ!?」
ランは思わず素の声が出た。
「高そうな服着ながら間抜けそうな事言うのが赤盾で流行ってるのか!?何か変な遊びだな!後で詳しく教えてくれよ、俺もやってみたい!」
アーサーは笑いながら次の授業の教室へと向かっていった。
「もう最悪!こんなの2度とやらない!」
ランが部屋で怒りながら着替える。
「いや〜私も後ろからこっそり見てたけど、見るに堪えなかったよ…」
リサが答える。
「私がこんなに色気を出してるのにそれを罰ゲームとか間抜けって何よ!」
「いや、確かにアーサー君は鈍感だったけどランちゃんも正直下手だったよ…」
「へッ!?私は完璧だったでしょ」
「完璧!?」
リサは思わず驚く。
「はぁ〜私ってやっぱり何やってもダメだなぁ〜」
この日の授業が全て終わりアーサーが部屋に戻った。
「いたのか、木の幹ジャック」
ジャックはヒョロヒョロ体型から中肉中背となっていたため、いつしか木の幹ジャックと呼ばれるようになった。だが彼の根暗な顔は変わらない。
「やっぱりスキルあるヤツにはどうしても勝てないな〜」
アーサーはそう言いながらシモツケをジャックに投げる。
「俺さぁ、スキルが無くても努力でスキルがあるヤツ位強くなってやるって思って入学したけど…現実問題なかなかそう簡単にはいかないんだよな〜。俺達も後2年ちょっとで卒業だし。マジで俺パーティに入れるのかな…無理だったら将来どうしようか…」
そうジャックに語りかける。
「ジャックは何でパーティに入りたいの?」
「……………あ、なんとなく……………」
こいつマジで一発ぶん殴ってやろうかとアーサーは思った。
「………あ、先生に……相談したら……いいんじゃないかな………」
「相談した所でこんなスキル強くはなれねーよ」
ジャックにそう言いながら今度はビヨウヤナギを投げる。
でもジャックの言うことにも一理ある。
翌日アーサーは早速先生の元へ行った。
「アイザック先生、今日はわざわざお時間を作っていただいてありがとうございます」
「いや、いいんだこれも大事な仕事だからな。で何の相談だ?」
アーサーは語る。
「実は僕、将来どうしようか悩んでるんです。パーティに入りたいとは思っていますが、このスキルでは何の役にも立ちそうにありません。剣術や格闘術の授業も受けてもなかなか強くなれないんです…このままじゃなれても雑用係位しかできないかなと思うんです」
「事務員だ」
穏やかに聞いていたアイザックが急に真剣な表情になった。
「蔑称として雑用係や荷物持ちと呼ばれる事はあるが、正しくは事務員だ。そして事務員はパーティではかなり重要な役職だ。法律でも『パーティを結成する際は最低でも1人は事務員を用意しなければならない』と定められている。だが今の君の言い方だと事務員を下に見ているようだが違うか?」
アーサーは思ってもいなかった所を突かれた。確かに事務員の仕事内容をよく知らず雑用係としか認識していなかった。
「…正直に申し上げて、そうだったかもしれません…。それは僕は事務員がどんな事をしているかよく知らないからだと思います。事務員はどんな仕事をしているんですか?」
「素直に自分の非を認められるのは素晴らしい事だ」
アイザックはまた穏やかな表情に戻った。
「事務員の仕事とは管理をする事だ。パーティの武器や装備、備品の管理は当然の事。パーティメンバーの健康も管理するんだ。ケガの手当はもちろん、定期的に病院で健康診断を受けさせて魔獣由来の感染症にかかっていないかなども調べないといけない。他にも帳簿をつけて税務署に提出し税金を払う、遠征先の宿泊施設の手配、魔獣を討伐した件数や被害状況などの報告書の作成などなど」
アーサーは驚いた。事務員の仕事内容がかなり多く、そしてそのどれもがパーティ運営の中でも重要なものだった。
「そして、必要な時には魔獣の討伐の補佐にも回る事もある」
アイザックは付け加えた。
「中には剣士のスキルを持っていながらその重要性に気付いて自ら事務員を目指す者もいる程だ」
気付けばアーサーの方が真剣な表情になっていた。
「事務員になるには試験に合格し資格を取る必要があるがかなりの難関試験だ。でも君は地頭は良い方だ。事務員を目指してみるのも一つの道としてあるんじゃないか?」
アーサーの中で決意が固まってきた。




