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第3章 成人の儀

教会にはアーサー、ラン、バーンズ、他の町や村から来た数人の子供とその保護者で席がほぼ埋められていた。

彼らも15歳となった。

バーンズは他の子達よりも頭1つ抜けて背が高い。ランは子供の頃から身長以外ほとんど変わらない。

そしてその厳かな雰囲気の中サートゥス教皇の話が始まる。銀の装束に白く長い髪と髭、そこから放たれる低く深みのある声が教会を包み込む。高齢でありながらも背筋を伸ばし、その目は数多の経験と知識が蓄積されている事を物語る。

スキルを天から授かる事、授かった者の心得、そしてそれらは神々からの祝福を受けている事、等など有難い話が続く。

ただこの教皇の話があまりに長い。

話が終わったかと思えば聖歌隊の歌が始まり、それが終わればまた話が始まり、また聖歌隊が歌う。アーサーは退屈のあまり話を聞かずに教会の壁画や神々の彫刻を眺め、ランは眠気と戦いながら話を聞き、バーンズは完全に夢の中だ。


「それではこれよりスキルの授与を執り行う」


教皇の言葉で教会内は一気に空気が張り詰めた。

アーサーとランがバーンズを起こす。

最初に名前を呼ばれたのはバーンズだった。

教皇の隣にいる信徒がマントを持っている。

バーンズが恐る恐る祭壇へ近づく。

教皇の前まで来ると目を閉じ頭を下げる。

そして信徒が横からやってきてバーンズにマントを着せる。

彼は目を開け、頭を上げて教皇の目を見る。


「天に召されし数多の神々よ、彼にスキルを授け給え」


教皇がそう言い放つと、教皇の持つ杖にある水晶が強く光る。金銀の装飾が施され大剣のような杖だった。

それと同時にマントが白い翼へと形を変えた。その姿はまるで天使。

バーンズにとっては気持ち悪いようで心地良い感覚だった。スキルを授かる瞬間とはかくも奇妙なものだったが、彼は同時にアーサーやランにどう面白可笑しく説明しようかを考えていた。

教皇の杖の光が消え、白い翼がマントへと姿を戻す。

教皇が言い放つ。


「そなたに授けられたスキルは《剣士》」


後の席で何人かの息を呑む声が聞こえる。バーンズに最も似合うスキルであった。彼は得意気な顔で教皇に言った。


「ありがとう教皇様!俺絶対に最強の剣士になりますからね覚えといてくださいよ!」


少し礼を欠く物言いにバーンズの両親が少し焦るが教皇は嫌な顔一つせず優しく微笑む。


「君はまさしく産まれながらの剣士。将来大きく強くなって再び出会える事を楽しみにしておるぞ」


次に名前を呼ばれたのはランだった。

緊張でカチカチの体を無理矢理動かし祭壇へ近づく。

そしてマントをかけられる。


「天に召されし数多の神々よ、彼女にスキルを授け給え」


マントが白い翼へと姿を変える。ランは極度の緊張、そして自分が強大な力を手にしてしまうのではないかという不安と恐怖で逃げ出したくなった。

そんな彼女に教皇は告げる。


「そなたに授けられたスキルは《魔法》」


またも周りがざわめく。


「あ、ありがとうございます…。良き魔法使いとなれるよう…精進いたします…」


ランはまだ声が少し震えていた。


「君は自分が思っているよりも勇敢だ。きっと良き魔法使いとなり偉大な事を成し遂げるだろう」


その後も教皇は次々とスキルを授ける。


「そなたに授けられたスキルは《剣士》」

「そなたに授けられたスキルは《魔法》」

「《炎》」

「《格闘》」

「《雷》」

「《鑑定》」


そしてついにアーサーの名前が呼ばれた。

彼は剣士のスキルを望んでいたがそれが叶わなかったとしても授かったスキルを極めようと思っていた。

そしてアーサーにマントがかけられる。


「天に召されし数多の神々よ、彼にスキルを授け給え」


杖の水晶が光を放ち、マントが白い翼となった。その翼が大きく1回羽ばたいた。

そして水晶から光が消え翼はマントへと姿を戻す。

教皇は不思議そうに水晶を見つめる。アーサーはまだ何のスキルを授かったのかわからない。期待と不安が入り混じる。

そんな中教皇は告げる。


「そなたに授けられたスキルは…《花》…」


花?後ろの参列者達の不思議そうなざわめきが聞こえる。


「花…ですか…?花って植物の?

…それはどういったスキルなのでしょうか…?」


思わずアーサーが尋ねる。


「そうだ植物の花だが、私も初めて見るスキルだ。これは…花を自由に生成できる…それだけだ」


水晶を眺めながら教皇は答える。


「…あっ!これはスキルを磨けばその内、木とかを生成できるようになって、木材などの資源を生み出せるという事ですか!?」


期待を込めて尋ねるが、


「それはできないようだ…花だからな…」


彼の期待は外れた。


「じゃあ、果物とかを生成できるようになって食料を確保できるとか!?」

「それもできないようだ…花だからな…」

「じゃあ薬草とかを生成できるとか、」

「それもできないようだ…花だからな…」


少し考えてもう一度尋ねる。


「…ちょっと酷いやり方ですが、魔獣の肺に花を大量に生成して窒息させる、みたいな事は…」

「うーん…間に隔たりがある場合は無理なようだ…。だから魔獣の体内や、厚い壁を隔てての花の生成はできないようだ」


アーサーは焦った。それで終わる訳が無い、このスキルには何か秘密があるはずだ。このスキルを磨き、極めれば、何かが解放されて誰にも得られない自分だけの力を手に入れられるはずだ。

水晶を見ながら教皇は続ける。


「このスキルを上達させていけば…同時に多くの花を数種類生成できる、生成した花が枯れにくくなる、だけだ…」

「…本当にそれだけですか?」

「本当にそれだけだ。これ以上はない」

「そんな…あの、なんとか剣士に変えてもらう事はできませんか!?どうしても強いスキルが必要なんです!僕は昔、」

「君のように授かったスキルに不満を持ち変えてくれという者は毎年必ずいる。だがそれはできないのだ。誰にどんなスキルを授けるかは誰にも決められないし一度授かったスキルは変更できない。あるがままの運命を受け入れよ」

「…わ、わかりました…これから精進して参ります…」


その後他の子たちもスキルの授与が行われた。皆がパーティで活躍しそうなスキルを授かる中、花のスキルを授かったのはアーサーのみ。

全員の授与が完了した後は教皇の長い話と聖歌隊の歌が歌われたがその間ずっとアーサーは屍のように全ての思考が停止していた。


そして成人の儀が終わった。

伯母がアーサーへ声をかける。


「お疲れ様、花だっけ?なんか不思議なスキルだったね」


アーサーは黙ったままだ。


「で…どうするの?パーティはやるの?」

「………わからない…」


彼女もアーサーの余りにもの落胆振りにどう声をかけて良いかわからない。


「こんなんじゃ、いっその事スキルの民主化なんて無かった方が良かったかもね!」


冗談っぽく言ってみせたがアーサーには全く響いていなかった。


「…ちょっと外に出る」


彼の足取は亡霊のようだった。

彼女は頭を抱えた。何をどう言えば良かったのか?アーサーとの接し方が未だにわからない。




アーサーが教会を出るとランが駆け寄ってきた。


「剣士じゃなかったのは残念だったね…」


歩き続けるアーサー。


「お花を自由に作り出せるんでしょ?それはそれで良いスキルだと思うよ!」

「あーそう魔獣に素敵な花の香りを嗅がせられるからな。確かにそれは良いスキルだ!」

「そうじゃなくて!……

でもほらパーティとか魔獣の討伐とかじゃなくても、女の子にそのお花とかプレゼントしたら喜ばれると思うよ。

私だったら嬉しいけどなぁ!」

「知らないよ、ほっといてくれよ」


すると後ろからバーンズが近づいてくる。


「おい、アーサー!お前結局剣士じゃなくてなんか花とかいうよくわからんヤツじゃねえか!んでお前なんて言われてたっけ?それはできない、花だからなぁ〜だっけ?アハハハ!」

「もう!やめて!」


楽しそうに茶化すバーンズをランが止める。

アーサーは何も言わず振り返りバーンズを睨みつける。その目は赤く、涙が今にもこぼれ落ちそうになっていた。


「あ…ごめんって…」


バーンズが謝るもアーサーは立ち去ってしまう。


「もうバカ!」


ランがバーンズに言い捨てアーサーを追いかける。バーンズもそれに続く。

アーサーはベンチに座って頭を抱えていた。

ランが隣に座った。


「さっきはごめんな」


バーンズが謝り隣に座る。アーサーは頭を掻きむしる。


「最悪だ…マジで最悪!花だぞ!花出してどうすんの!?花でどうやってあの魔獣と戦うんだよ…これじゃパーティに入れるかどうかも分からないし、入れたとしてもどうせ雑用しかできない…」


アーサーの絶望は計り知れない。このスキルはどう活かそうがパーティでは何の役にも立たない事は明らかだ。


「他にやれる事はあるんじゃないの?」


ランが問う。


「雑用以外ねーよ…もうパーティに入るのも無理かも…」

「なぁアーサーよ…」


バーンズが珍しく真剣に語る。


「お前もよく知ってるだろう、俺がパーティを目指すのは魔獣に仇を討つためだ。俺は4人兄弟の末っ子で、あの日は他の家族は隣町に行ってて1番上の兄さんと俺の2人だけだった。その時に兄さんが魔獣にやられたんだ。だから俺は必ず仇を討つ」


アーサーは顔を上げる。


「ランだってそうだ。あの襲撃でお父さんを亡くしてる。だからパーティに入って家族を守れるようになりたいんだ」


バーンズは続ける。


「お前は?なんでパーティに入りたいと思ったんだ?人を助けたいから?でもスキルが気に入らないから諦めるって?正直残念だよ、

やっぱりお前は最弱だったんだな」


最弱、それはアーサーの最も嫌いな言葉だった。


「………やってやるよ…!」

「えっ?なんて?」

「やるっつってんだよ!いいか?これはハンデだ。お前は剣士のスキルで楽して剣術を覚えろ!俺は剣術を、いやそれだけじゃない、他の武器や格闘術も全て自力で学んで最強になってやるからな!」


それを聞いてバーンズは声を上げて笑う。


「それだよアーサー!お前がいないと俺も学園生活つまんねーし!」

「ホントに見とけよ…!」


そしてアーサーは自分の手を見て意識を集中させた。すると手首や手のひらから茎が伸び、そこから一輪の花が咲く。これがスキル《花》


それはカモミールの花だった。

3人はそれを見て決意を新たにする。

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