第2章 過去の傷痕
「アーサー…アーサー!もう準備できた?」
アーサーはゆっくりと目を開けた。
「待って伯母さん、すぐ行く」
彼は伯母と共に黒い服を着て街の中心地へ訪れる。今日で魔獣の襲撃から10年。その追悼式へ向かう。
「結構たくさん人が来てるね。帰りはこの辺りでご飯を食べましょ。アーサーの好きなのにしよう!」
「う、うん…そうしよう…」
魔獣の襲撃後彼は母の姉へと引き取られた。伯母もまた先の襲撃により夫を失っている。
アーサーはこの追悼式にあまり行きたくはなかった。昔の出来事を昨日の事かのように思い出してしまうからだ。それにいつもは明るい伯母が昔を思い出して悲しむ姿を見たくはなかった。
現にアーサーも伯母も毎年行われる追悼式には今まで参加してこなかった。
だが今年は10年の節目の年である事と、アーサーがスキルを授かる年でもあり、1つの区切りとして今年は参加する事とした。
「アーサー、将来どうするか考えてるの?」
「うーん…迷ってる」
そうは答えるものの彼にはやりたい事があった。
「迷ってるなら靴職人をやってほしいな」
「そうした方がいいのかな…?」
「そうよ、あなたの両親の仕事を継いでくれたら2人も天国で喜ぶ筈よ。それにパーティみたいな危険な仕事、私はしてほしくないな…。あーヤダヤダ!魔獣なんて2度と見たくない!」
アーサーはやりたい事がずっと言えずにいた。
静かな黙祷と共に式が始まり、市長の挨拶がある。
「今日で、ここウィーキー市を含む南西部で発生した大規模な魔獣の襲撃、『南西部の悲劇』から10年が経ちました。これまでは魔獣は平均で4から5体、多くとも6から7体程が現れていましたが、この襲撃では2,865体の魔獣が出現しました。魔獣達の強さも数もこれまでとは桁違いで史上最悪の襲撃と言われました。これにより犠牲となった多くの尊い命が教えてくれる事は…」
アーサーはあの日を思い出していた。
逃げ惑う人々の叫びと魔獣の咆哮。建物の壁は爪や牙の跡が刻まれ、砂埃が舞い、地面が少し揺れる。
そして母を助けられなかった後悔と悲しみと無力感。これが頭からこびりついて離れない。
だがアーサーはその間隣で伯母が泣いているのが聞こえた。伯母だけではない。他の参列者も皆涙を流していた。
「しかし、今年はスキルの民主化が起きてから10年の年でもあります。ここウィーキーからも多くの若者がスキルを授かっています。そして今年もまたこの街から若者がスキルを授かり人々を魔獣から救う事でしょう」
式が終わりいつもの笑顔が消えた伯母がアーサーに語る。
「アーサーはスキルを貰って、学園を卒業した後はパーティに入りたいと思う?」
「うーん…どうしようかな…」
「あの頃あなたはまだ小さかったから詳しくは話せなかったけど、私ね、あの襲撃が治まってからあなたのお母さんの身元確認をしたの」
初めて聞く話にアーサーは少し驚いた。
「役場の人に案内されて亡骸を見たの。あなたのお母さんは右肩から先が全部無くなって…無理矢理引っ張られて千切れたみたいだった…。それとお腹に大きな傷があって、中の臓器が全部食べられてたの…わかる?あなたが命を宿したところよ?こんなの当時のあなたには絶対に言えないし私も言いたくなかった」
アーサーは言葉を失った。
「魔獣の前では人としての尊厳なんて何も無いの。一切無い。だからあなたが魔獣と戦うのが本当に怖い。また家族を無残な形で失うんじゃないかと思って…」
そしてあの日の事を思い出す。
あの日幼かったアーサーにアティアグが大きく口を開け食らいつこうとしたその時、突如天井を突き破り1人の青年が魔獣の頭に着地し、額に剣を突き刺した。
アティアグはそのまま息絶えた。
「到着が遅れてすまない」
青年はそう言うと手を差し伸べた。
アーサーが手を握り立ち上がる。
「僕の…お母さんが…」
アーサーが声を振り絞り、後悔と無念を訴える。
青年は屈み、アーサーと目線を合わせた。
「今は悲しみと困難の吹き付ける季節でも、必ず希望の咲く日はやってくる」
そう言い残すとすぐに去っていきまた別の魔獣を討伐しに行った。
目の前にいた脅威を一瞬にして消し去る。
食べられる恐怖、狙われる恐怖、家を壊される恐怖、それらを全て剣の一振りで断ち切った。
アーサーは思った。あの時自分が母を助けに行ったとしても何もできずに魔獣に食われて終わっただろう。でももしパーティに入る事ができれば…。
自分にはできなかった人を助けに行くという選択が出来るかもしれない。
アーサーは伯母に言った。
「伯母さん、僕、ずっとやりたい事があったんだ。
僕、パーティに入りたい。
ただの子供の頃からの憧れじゃない。パーティで多くの人を助けたい。僕や伯母さんみたいに一生悲しみを抱える人を少しでも減らしたいんだ!
今までは伯母さんを心配させると思って自分の意志を押し殺していたけど、やっぱり自分の将来は自分で決めたい」
沈黙の後、伯母が呆れたように言う。
「そういうところ、本当にお母さんにそっくりね。あの子も昔から私が何を言っても絶対に意志を曲げなかった!子供の頃もよく喧嘩をしたけど、大体はあの子が言う事を聞かずに自分の意地を通そうとしたからで…」
伯母は自分がヒートアップしてるのを感じた。
「でも、あなたのそういうところを見ると、私もお母さんの事を思い出せるから…。意地を通しなさい」
「うん…」
すると後ろから聞き慣れた声がした。
「おー!アーサーじゃねえか!」
「今年は来てくれたんだね」
それはバーンズとランだった。
「そう来たよ、今日は決断したんだ
俺、パーティに入る…!」




