第20章 新たな時代
サートゥスが目を覚ますと小屋の中にいた。
そして目の前のテーブルに手紙が置かれてあった。
そこに書かれてあったのは、あの後サートゥスは裁判を受け有罪判決となった。終身刑が言い渡されると卒倒した。教皇という立場から考えられる国内外への多大な影響と、老体である事を考慮し一般的な刑務所ではなく特別処置として小屋にて収容される事となった。食糧等の必要品は定期的に送られる。そこで反省し罪と向き合う事。
彼は最後に1文添えられているのに気付いた。決して窓の外は見ないように、との事。
窓の外?彼は疑問に思い警告を無視して窓の外を見た。
「ギャーーー!!!み、水ーーー!!!」
サートゥスの小屋は四方を海に囲まれた離れ小島にあった。
「そういう事だったのか…」
カイト国王はアーサー、ラン、バーンズの3人と面会し、彼らの見つけた書物を読んでいた。
あの日から魔獣が消えた。国王は国中のパーティに命じ山や森、川、海、洞窟に至るまで魔獣を徹底的に探したが1体たりとも痕跡すら見つからなかった。そして魔獣消滅宣言を発表したばかりだった。
宮殿に3人は呼び出され応接室には国王含め4人だけだ。
「しかしあのサートゥス教皇に利用されていたとはな…」
少し悲しげに呟く国王。だがすぐに顔色を戻す。
「何故スキルを消滅させようと思ったのだ?」
カイト国王はランに尋ねる。
「はい…。何を願うか全く考えていなくて…とにかくアーサーが危なかったのと、世界中に魔獣が溢れているのと、かと言って人は殺せないし、サートゥス教皇の事が解決したとしてもスキルがある以上魔獣は現れ続けるし…ならいっそのことスキルなんて無くなってしまえと思って言っちゃいました…」
彼女はとんでもない事をしてしまったと後悔し今後の世界を恐れている。
「アーサーよ、何故君は彼女なら海の涙を持てると思ったのか?」
「はい、あの時書物が開いてるのが見えました。そこには海の涙について書かれていました。
あの剣は心の清い者を、欲の無い者と定義しているそうです。
つまり叶えたい願いがある者は持つのに相応しくない、相応しい者は持とうとしない。矛盾を抱えた剣なのです。だから今まで誰にも持てなかったんだと思います」
「そうなのか」
「以前パーティのメンバーでどんな願いを叶えてみたいか話した事があります。皆それぞれ願いを語り合いましたが、ランだけは願いが無いと答えました。だから彼女なら持てると賭けに出ました」
「なるほどな…」
カイト国王は今後の対応に悩んでいる。
「世界は魔獣の危機から解放された。だがスキルまで消滅し多くの人が職を失った。街には失業者が溢れ返り食糧や物品の強奪があちこちで起きている。昔は魔獣の襲撃に恐れていた人が今は人の襲撃に恐れている」
「本当に…申し訳ございませんでした…」
ランはどんどん顔が青ざめていく。
「更には、魔獣はまだ消滅していない、次の襲撃に備えよ、などと言って人を騙し粗悪な武器を売りつける悪徳業者まで現れる始末だ」
「そこまで考えが至りませんでした…」
「識者の中には今後文明が最低でも500年分は後退すると推測する者もいる…」
「500年もですか!?」
ランの精神はギリギリまで削られている。
「あぁ、そうだ。でもそれは私がいなければの話だがな」
カイト国王は自信を滲ませる。3人はどういう事かと不思議に思う。
「実は前々からやってみたかった事があったんだ。大量の水を使うんだがね」
「ヒエッ!」
「…おっとすまない」
ランに謝罪し、アーサーの方を向く。
「君はけたたましい音を立てて沸騰した水が鍋の蓋を揺らすのを見たことはあるか?」
「…?はい、よく見てました」
「そうだろう。水を沸騰させると水蒸気と言うものが発生する。こいつは実は大きな力を秘めているんだ。鍋の蓋を揺らすだけじゃない、応用すれば大きくて重い物を動かしたり、大量の人を乗せた乗り物だって作れる!」
アーサーはカイト国王の話に段々と興味が湧いてきた。
「この蒸気で動く仕組みを、蒸気機関と言うんだ」
「蒸気機関…ですか…」
「あぁ、幸いにもこの国には蒸気機関を運用できる程の資本家がまだまだ沢山いる。
剣と魔法の時代は終わってしまった。だがこれからは科学の時代が始まる。
奇しくもこの国は大陸の西に位置する島国だ。これが何を意味するのか私にはわかる。この国なら必ずできる」
アーサーはワクワクしていた。これからこの国で起きようとしている事に。
「私の世界ではこの事を、産業革命と呼んでいた」
「産業革命…」
その響きにアーサーは世界の未来を見た。
「それ…スゲー面白そうっすね…!」
バーンズもそれを食い入るように聞く。
「そして、君達には勲章を与えようと思う」
3人は更に驚いた。アーサーが思わず尋ねる。
「本当ですか!?でも我々は平民ですよ…」
「あぁ本当だ。通常なら議会の推薦で勲章が与えられるが、今回は私からの勅令として与える。貴族と平民が隔てられる時代も終わりだ」
3人の表情が明るくなる。
「バーンズは黄金大剣聖、ランは神聖魔道士、アーサーは桂冠詩人の勲章だ」
ざわつく3人にカイト国王は更に続ける。
「あと、今日は君達にゲストを呼んでいる。おい!中へ入れて差し上げなさい!」
カイト国王の合図と共に外にいた家臣が応接室の扉を開ける。
そこには3人の家族がいた。
それぞれに驚く。
家族の中から1人叫び声を上げながら走ってくる者がいた。彼女はリサだった。
バーンズに飛びつくリサ。
「もう一生会えないかと思った…」
「一瞬たりとも君を忘れた事はないよ」
彼らをバーンズの親兄弟が嬉しそうに取り囲む。
ランは涙を浮かべながら母の胸に顔を埋める。
「怖かった…。何もかもが…」
「それでもあなたはよくやり遂げた。きっとお父さんも誇らしく思ってる」
アーサーは伯母と向かい合った。
「アーサー!あんたはホントに…手紙を寄越さないし、私が手紙を書いても全然返事くれないし、そしたらいきなり暗黒都市に行きますって何!?
ホントにアーサー!…」
彼に返す言葉は無い。
「生きてて良かった…」
安堵した伯母を見てアーサーも口を開く。
「手紙とかあんまり書かなくてごめんなさい…。どうすればいいか未だによくわからなくて…。今まで困らせた事も衝突する事もあったけど、親代わりに育ててくれて本当にありがとう…今では…
今では…本当の母さんのように思ってるよ」
「アーサー…」
感極まり彼の肩を叩く。
バーンズはリサと目を合わせた。
「今まで冷たく接してしまってごめん。リサと俺との間には越えられない壁があると思ってた。でも今なら越えられる。
いや、越えてみせる…」
バーンズは膝まづきリサの両手を握った。
「僕と結婚してください」
それを聞いた瞬間、リサは固まった。だが徐々にその美しい瞳に涙が溢れ、子供のように声を上げながら泣いた。そして何度も頷く。
周りの家族や兄弟からは歓声と拍手が上がり、アーサーもバーンズを小突き荒く祝福を送る。
するとアーサーは突然誰かに肩を叩かれた。
振り返るとそこにいたのは家臣だった。
彼はアーサーの耳元で囁いた。
「言っただろう?必ず希望の咲く日がやってくると…」
そして微笑んだ。
「……………!?待ってください、もしかしてあなたは…!」
言い終わる頃には家臣は部屋を出ていた。アーサーはその扉をずっと見続けていた。
勲章の授与式の控室。アーサー、ラン、バーンズの3人は緊張した面持ちで出番を待っていた。
「てかアーサーの桂冠詩人ってなんだよ!お前いつから詩人になったんだよ!」
「俺は剣士でも魔法使いでもないからこれが最高勲章なんだよ」
早速バーンズに勲章を弄られるアーサー。
「はぁ〜今外って沢山人がいるよね?色んな人に見られるのか〜」
ランは特に緊張がひどかった。
「あぁそうだ!数百いや数千、下手すると数万人はいるかもな」
「ヒエ〜〜〜」
バーンズが茶化し、彼女は椅子に座り込む。
「おい止めろって!」
「ハハハ、ごめんごめん」
バーンズがふざけていると何かに気付いて急に扉の方を見た。合図に気付いたようだ。
「もうすぐ出番だ、行こう!」
足速に部屋を出るバーンズ。
「ほら、俺達も行こう」
アーサーはランに手を伸ばす。だが彼女は手を伸ばしきる前に固まった。このまま手を伸ばせばアーサーと手が触れてしまうのでは?
しかし今の彼女は何も気にする必要は無い。
手を取り椅子から立ち上がった。
お互いに目を見る。もうすぐ彼らの出番だ。
外では3人の勇姿を一目見ようと多くの人が押しかけ宮殿の庭園を埋め尽くしていた。
平民初の勲章の授与。歴史に彼らの名が刻まれる瞬間だ。
カイト国王は彼らを紹介する。
「この度の魔王との対決、そして全ての魔獣を消滅させた彼らの勇気と功績を称え、勲章を授与する!」
聴衆から歓声が上がる。
「黄金大剣聖、バーンズ!」
湧き上がる声援にスターのように手を振り笑顔で応えるバーンズ。
「神聖魔道士、ラン!」
彼女は全身が強張りぎこちなく礼をする。そんな姿に拍手が起こる。
最後にカイト国王はアーサーに小声で尋ねる。
「一応確認なんだが、君は本当に剣士でも魔法使いでもないんだよな?」
「はい…。花という、恐らくは最弱のスキルでした…」
「…それなのに勇敢にも立ち向かっていったんだな」
不思議に思うアーサーをよそにカイト国王は聴衆へ向かう。
「そして最後に…
勇者、アーサー!」
聴衆からは今までに聞いたことのない程の歓声とどよめき、そして割れんばかりの拍手が巻き起こる。その中で山脈ジャックも泣きながら手を叩いていた。
アーサーは目が飛び出る程驚いた。思わず振り返りランとバーンズを見る。彼らも驚愕していた。だがすぐに納得し熱い拍手を贈る。
アーサーは段々と自身の称号を受け入れた。
そして宮殿から聴衆に向かって笑顔で大きく拳を突き上げた!
いつしか人々は彼らを尊敬と親しみを込め、そしてスキルがあった時代の懐かしさを添えてこう呼ぶようになった。
剣と魔法と最弱勇者




