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第19章 願い

彼女の言葉と共に海の涙が眩い光を放ち、目の前の神々を照らす。

サートゥスは勝利を確信した。

そしてランは願いを告げる。


「私の願いは…



未来永劫、全てのスキルが消滅することです…!」



彼女の願いと共に神々の像が輝き出す。そしてその光が大聖堂の屋根に集まり、四方へ解き放たれる。願いの力が世界を包む。


「貴様ぁーーー!!!」


サートゥスは怒り狂いアーサーに炎を放とうとした。だが水晶は何の反応も見せない。どれだけ力を込めようとも何も起こらない。


「お…重たい…」


ついに彼はアーサーを降ろし手を離した。

アーサーもハッとして両手に念を込めるが1本の花も生成できない。

どうやら本当にスキルが消滅したようだ。

すると大聖堂の外から魔獣達の声が聴こえた。苦しそうに鳴き叫ぶ声。窓ガラスからは黒い煙のシルエットが幾つも見える。




ドラゴンがカイトに飛び掛かろうとした時、突然ドラゴンが黒い煙となり消えていった。

カイトは驚きを隠せない。それを見ていた家臣も何が起こったのか整理できていないようだ。

ここだけではない。窓の外を覗くと至る所から黒い煙が上がっていた。

全ての人のスキルが消滅した。

そして世界中の全ての魔獣も同時に消滅した。




ランは呆然と立ち尽くしていた。


「あ…言っちゃった…」


全身の力が抜け剣を落とす。

スキルの消滅。この考えが浮かんでからはそれ以外は何も思いつかなくなり勢いに任せて願ってしまった。


「待って…!この後絶望が来るんだよね…?」


ランは急に恐ろしくなった。絶望の事など考えていなかった。

怯えながら像を見つめる。すると海の涙が刺さっていた祭壇から噴水のように水が噴き出した。

その瞬間像の間から大量の水が湧き出した。


「ギャーーーーー!!!!!」


彼女は喉が張り裂けそうな程の悲鳴をあげ扉の方へ脚を震わせながら走った。アーサーも彼女の名を呼びながら捕まえようとするも、大量の水はアーサーとラン、そしてサートゥスをも一瞬にして呑み込んだ。

アーサーは泳いでランを捕まえようとするも水流が渦を巻き上手く前へ進めない。ランはパニックになり手脚をバタつかせ半分溺れていた。

水流に逆らいながら何とかランを掴むが彼女のパニックは治まらない。


「ラン!落ち着いて!」

「イヤだイヤだイヤだ、死ぬ死ぬー!死にたぬくない!」


悲鳴をあげる彼女にアーサーは叫んだ。


「ラン!僕の目を見て!」


彼女はハッとしアーサーの目を見た。

水位は増し2人は天井近くまで到達していた。

彼は天井の縁に掴まり彼女に告げる。


「とにかくここから脱出する方法を考えよう」


そう言ってアーサーは天井のガラスを何度も殴るがヒビすら入らない。


「クソッ!」

「アーサー…。もういいの」


彼女はこの後どうなるかを悟り覚悟を決めていた。


「アーサー…私、あなたに謝りたい事があるの…昨日あなたがパーティを出ていったって聞いた時、あなたから貰った薔薇を折って捨てちゃったの…。本当にごめんなさい…」


アーサーは目を丸くして驚いた。


「それまだ持ってたのか…?しかもここに来る時も…」

「私にとっては宝物だから…」

「別にいいんだよ、そんな些末な事気にしなくて」

「でもね、あの後川を渡っていた時、捨てたはずの薔薇が私の元に流れてきてきたの。それで萎れていた花びらが元の綺麗な花に戻って…アーサーがまだ私の事を想ってくれてるって…また希望を持てたの…」

「…もしかしてその時蛍石を光らせた…?」


嬉しそうに頷くラン。


「アーサー、あの時私に花をくれて、ありがとう…。

私を思い出してくれて、ありがとう…」

「あぁ、あの薔薇なんだけど…」


水位は更に上昇し2人は天井に頭が付きそうな程だった。空気も薄くなり呼吸が楽ではなくなる。

彼は覚悟を決めランの手を握り締めた。


天井から差し込む光がステンドグラスを通過し、赤、青、黄、緑など様々な色を作る。それらが水に反射し混ざり合う。その水面には花びらが浮かぶ。

今のアーサーに選択肢は1つしかない。



「ラン…好きだ…!」



その瞬間水が一気に下へ流れた。

2人は水流に呑まれ大聖堂の中でかき混ぜられた。

そして扉がある方の壁が崩壊し大量の水と共に外へと押し流された。

辺りはうねる川のように濁流が押し寄せ大聖堂の中にあった水がほとんど外へ流れた。

そんな中アーサーはなんとか外の木に捕まっていた。水の流れが落ち着くと彼は木から手を離し歩き出した。

すると前に木にしがみついているランを見つけた。


「ラン!大丈夫か!?」

「あー!アーサー…。良かった〜無事で!」


大量の水から解放され彼女は安堵した様子だった。


「あー生きた心地がしなかったー!」

「ホントだよ…でもランも無事で良かった」

「あっ、アーサー…さっき言ってた事って…」


アーサーは自分が勢いで言ってしまった事を思い出した。恥ずかしさがこみ上げる。


「い…いや〜…あれは、その…じょ、冗談と言いますか、その…何と言いますか…」

「ねぇねぇ!何でこっち見ないの?」

「いや〜、あーーーもう!マジでいいってそういうの!」

「ねぇねぇ、何で顔隠すの?」

「ちょっとマジで止めろって!」

「ねぇねぇ、耳真っ赤だよ?」

「ホントうるせぇ!」

「ねぇねぇ、アーサー!」


アーサーは顔を隠し話を聞こうとしない。


「アーサー!…私の目を見て…」


彼はハッとしランの目を見た。

嬉しさと恥ずかしさの宿る目だった。


「やっと両想いになれたね…」

「えっ…どういう事…?」


ランは照れ笑いをする。アーサーもやっと理解し釣られて笑う。

そしてまた目が合う。

今度はちゃんと見つめ合い…。


「アーサー!!!ラン!!!」


いいところだったのに!アーサーは一瞬怒りがこみ上げたがすぐに喜びに掻き消された。いつものあいつの声だった。


「バーンズ!あなたも無事だったのね!」


ランも嬉しそうに駆け寄る。


「大丈夫だった?」

「いや〜大変だったよ、魔獣に囲まれたからとりあえず剣の代わりになる物で戦うしかないって思って木の棒を用意したんだよ。そこから進もうとしただんだけどさ、ある時から全然魔獣が出てこねーの。だからすんなり大聖堂の前まで来れたんだよ。それで扉を開けたら水がドーンだよ。あ、ラン!水、大丈夫だったか!?」

「うん!アーサーが助けてくれたから大丈夫」

「そうか、なら良かった」


ランを心配するバーンズにアーサーが説明する。


「その魔獣なんだけど、もうどこにもいないよ」

「えっどういう事?」

「実はランが海の涙を持てたんだ。それにスキルを消滅させるよう願ったんだ。だから君はもう剣士じゃないしランも魔法は使えないし俺も花は出せない。そして魔獣も全て消滅した」

「はっ?えっ?どういう事!?意味がわからないんだけど…」

「詳しくは後で説明するよ」

「あぁ…あ!それとあのじいさんはどうなった!?」

「あ!」


彼が気付いた時だった。大聖堂から弱々しい声が聞こえた。


「お〜い、誰か助けてくれんかの〜」

「ははは!じいさんあんなところにいるよ」


ずぶ濡れのサートゥスはドラゴン像の口の中にいた。そして呟いた。


「…水…怖い…」


その時アーサーの足に何かが当たった。見てみるとそれは海の涙だった。恐る恐る手を伸ばすと簡単に持ち上げられた。


「これにはもう無限の力は宿っていないし、願いを叶える事もできない」


アーサーはそう言って海の涙を天へ掲げる。

後ろからそれを見つめる2人。

そんな彼らの頭上には、いつの間にか虹が掛かっていた。

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