第18章 決戦
魔王との対峙。魔獣の討伐とは全く違う緊張感が空間を満たす。だが3人は覚悟が決まっていた。
「さぁ…行くぞ!」
アーサーの声と共に3人が一斉にサートゥスへ飛び掛かる。
サートゥスはゆっくり歩きながら杖から炎を放つ。が、ランが盾で防ぐ。
炎が収まると盾を飛び越えてバーンズが斬りかかる。サートゥスは杖を剣代わりに応戦する。その隙にアーサーが後ろへ周り飛び掛かろうとするもサートゥスは全身から放電。
アーサー、バーンズ共に吹き飛ばされた。
ランは光の綱でサートゥスの杖を縛るも、同じく杖から放電されランも飛ばされる。
アーサーとバーンズが二人同時に飛び掛かるもサートゥスが杖をかざすと空中で静止し弾き返された。
次にランが杖から光の球を発射するも弾かれる。それがアーサーに当たり彼は眠ってしまった。彼女はもう一度発射するがまた弾かれ今度は自分に当たり光の網で彼女自身が拘束された。
それを見てバーンズは怒りに震えた。
「てめぇ…絶対許さねぇからな…」
「ようやく本気を出すのか」
バーンズが飛び掛り鍔迫り合いとなる。
剣で撃ち合い、火花が散り、金属同士のぶつかる鈍い音が響く。
バーンズの激しい猛攻もサートゥスは軽く往なす。
「動きが遅いな。本当に最強の剣士か?」
煽られながらも奮闘するバーンズ。そして彼の剣がサートゥスの腹部に刺さった。
だが全く反応がない。よく見ると剣が体をすり抜けている。
バーンズは驚き剣を抜こうとするもビクともしない。
サートゥスがバーンズを蹴り、その拍子で剣を放してしまう。
腹部の剣を投げ捨てるサートゥスにバーンズは起き上がり拳を構える。そしてサートゥスに飛び掛かるが、目の前に時空の裂け目が現れバーンズはそこに入ってしまった。
彼の落ちた先は暗黒都市入り口の門とフィール大聖堂の中間に位置するあの川の土手だった。
サートゥスは裂け目からバーンズを覗いた。
「家族と同じ様に死ぬんだな」
杖をかざすと怪しく光り裂け目が閉じた。
するとバーンズの周りから魔獣の声が聞こえてきた。彼は武器も無く魔獣に取り囲まれ、命の危機を肌で感じた。
家臣が剣を振るいドラゴンの脚を切るも全く怯む様子を見せない。
ドラゴンは家臣の剣に噛み付き前脚で彼を抑え込んだ。
その時カイトが椅子でドラゴンの頭を思いっきり叩いた。
ドラゴンは振り返り、カイトに向かって怒りに満ちた咆哮を上げた。
ランがなんとか拘束を解くとサートゥスは彼女に向かってゆっくりと歩いてきた。
彼女は杖の先から閃光を放ち彼の足元を焼くが彼には全く効かず足で炎を払いかき消される。
危機を感じたランは「起きて!」と叫び魔法でアーサーを目覚めさせる。だがサートゥスは「寝てろ」とアーサーを再度眠らせる。
「起きて!」「寝てろ」「起きて!」「寝てろ」「起きて!」「寝てろ」
アーサーは何度も起こされては寝かされる。
「起きて!キャー!!」
サートゥスはランの目の前まで迫っており拳を振り下ろしたが間一髪で盾で防いだ。
だが彼は怯む事なく拳に力を入れる。彼女は盾にヒビが入っていくのを見た。そしてサートゥスは彼女を盾ごと殴り飛ばした。
ランは後ろの壁に叩きつけられそのまま倒れる。
重い瞼を開けながらアーサーはそれを見た。自分の家族、故郷を破壊した魔王が今自分の大切な人を手に掛けようとしている。
アーサーの拳は怒りに震えた。そして学生時代に学んだ事を思い出した。
彼は音も立てずサートゥスに忍び寄り飛び掛かった。
だがサートゥスは手をかざしアーサーは空中で静止した。
サートゥスは彼を嘲笑った。
「ハハハ!お前のスキルに何ができる?」
「笑っていられるのも、今のうちだ…」
アーサーは答え、拳を振り上げた。サートゥスがそれを見て杖で頭を守ろうとしたが、次の瞬間彼は靴を飛ばした。それがサートゥスの鼻に直撃し悶える。アーサーは床に落とされるとサートゥスに背を向けて走る。
そしてバーンズの剣を拾った。
「剣士の真似事か」
見下されながらもアーサーは走って向かう。
サートゥスは杖を構えて臨戦するが、アーサーは剣を投げつけた。驚き杖で弾き返すも次は靴が飛んでくる。それも弾き返すとアーサーが跳び蹴ってきた。杖でガードするものの大きく後退する。
するとアーサーはありったけの花びらを辺りに出現させた。
色とりどりの花びらがサートゥスの視界を埋め尽くす。あまりの光景に思わず見惚れる程ですらあった。
サートゥスが我に帰り杖から閃光を放ち一面を焼こうとすると横から脚を蹴られた。
バランスを崩すサートゥス。アーサーにとっては好機だ。彼はその勢いのまま祭壇へ走った。
そして、海の涙を握る。
「クッ…
アー!
クソ!なんでだー!」
アーサーがどれだけ力を入れて持ち上げようとしても海の涙はビクともしない。
するとアーサーの体が突然浮き上がりサートゥスの元へ吸い寄せられた。そのまま彼に蹴られ床に叩き落される。彼を本気で怒らせた様だ。
彼は杖をかざして思いっきり振り降ろす。アーサーは咄嗟に剣を拾って両端を持ち何とか身を守る。
サートゥスは容赦なく何度も杖を打ちつける。剣からは火花が散る。そしてサートゥスが渾身の力を込めて振り降ろした時、ついに剣が折れてしまった。
更に杖からの放電を受け飛ばされる。倒れて痙攣するアーサーにサートゥスは語りかける。
「後悔をしろ。その書物を報告しようとしたことを」
次は光の鞭を打ちつける。
「後悔をしろ。ここへ来たことを!パーティへ入ったことを!そもそもパーティを目指したことを!そして何よりも、この私に歯向かったことを!!!」
何度も鞭を受けアーサーの体はボロボロになった。そんな彼にサートゥスはある提案をする。
「お前に選択肢を与えよう。お前のスキルは役に立たないが、お前の頭脳は非凡だ。私に降伏し永遠の忠誠を誓うなら、お前に剣士の力を与えてやろう。
私の魔力なら一時的ではあるが人にスキルを与える事ができる。必要な時にはいつでも、何度でも、お前は最強の剣士になれる」
アーサーは倒れたままそれを静かに聞いていた。
「だがまだ私に抵抗するのであれば、お前も、その女も、ウィーキーの住人も、全て皆殺しだ。
さあどうする?
最弱の男よ…」
アーサーはゆっくりと体を起こしながら無理矢理声を出す。
「俺がパーティを目指したのは…強大な力に屈するためじゃない…。人を助けるためだ…。幼い頃、魔獣に襲われた俺みたいに今まさに世界中が魔獣の恐怖に包まれている。だから助けないといけない。
家族も、家も、全てを失った子供に手を差し伸べて『今は悲しみと困難の吹き付ける季節でも、必ず希望の咲く日はやってくる』そう伝えに行かないといけない」
フラフラになりながらも彼は立ち上がった。
「俺のスキルは最弱だ。攻撃も防御も何もできない。だから俺は剣術や格闘術を自分の体で覚えた。それだけじゃない。魔獣の生態から法学まで何でも学んだ。間違っては覚え直し、殴られては殴り返し、全て自分の力で獲得してきた…。
一方お前はどうだ?何の努力もせず偶然降って湧いた力を得ただけで自分は最強だと勘違いしている…
剣士のスキルを与えるだと?そんなモノはいらない。あるがままの運命を受け入れた結果がこの俺だ…!」
アーサーは立ち上がり真っ直ぐサートゥスを見つめて言った。
「さあこれでわかっただろ?
お前にこの『最弱の男』が倒せるか!?」
サートゥスは答える。
「またしても選択を誤ったな。苦しみながら徐々に死なせてやろう」
彼はアーサーに飛び掛かった。その衝撃でアーサーは倒れ、サートゥスに胸を踏まれる。そして鼻先に杖を突き付けた。アーサーは杖を掴み抵抗するが全く杖を動かせない。
サートゥスが力を込め風が吹き付ける。アーサーは顔を反らした。
すると目線の先にヨロヨロと起き上がるランが見えた。でもここでランが加勢したとしても勝算は無い。それをわかっていてもなお彼女は立ち上がる。
その時手前に書物があるのをアーサーは見つけた。吹き付ける風でページが捲れる。まだ読んでいないページ。そこに書かれていたのは…。
それを見てアーサーは賭けに出た。
「ラン!!!君なら絶対にできる!行けーーー!!!」
立ち上がったランはアーサーの言う意味がわからなかった。だがすぐに理解した。
そして彼女は目線を海の涙へと移した。
「ハッ、あの下等な魔法使いに持てるはずなど…」
サートゥスは嘲笑うが彼女の目は本気だった。それを見て2人は同時に走り出した。
彼は杖から火の玉を何発も撃つが彼女は走りながら避ける。
そしてランが振り返ると同時に2人は共に杖から閃光を放ち相打ちとなった。
轟音と火花が散る中なんとか耐えるランだが、サートゥスの実力の方が圧倒的で彼女は閃光を押し返される。ギリギリの所で彼女はそれを避け、そのまま杖を向け魔法をかけた。
サートゥスの足元に火花が散る。
「お前如きの魔法なんぞ…」
そう言って彼が足元を払った瞬間、
プ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜プスプスプスプスプスプスプスーーーブリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュ〜〜〜………プリプリッ
彼は気まずそうにアーサーの方を見る。
「今のは私じゃないからな!」
その時ガタン!と大きな音がした。
振り返るとそこには海の涙を掲げるランがいた。
「ウソでしょ………」
彼女自身も目を丸くし、口をもう片方の手で押さえて呟く。
「…!…貴様…」
サートゥスは杖を発光させ閃光を再び放った。彼女は振り返りそれを剣で防ぐ。
次に火の玉を撃つがそれらも全てランが剣で薙ぎ払う、と言うよりは剣に意志があるかのように動きランはそれについて行くのに必死だ。
サートゥスはランに迫り杖を振りかざすが剣が防ぐ。そのまま打ち合いになるがサートゥスの杖が火花をあげながら徐々に削れていく。
そして彼女が剣を振り上げるとサートゥスの杖が粉々に砕け、彼はその衝撃で倒れた。
剣を大きく振りかざすラン。だがそこから動こうとしない。
「………ダメ…。私に人は殺せない………」
剣先をゆっくりと床へ向ける。
「だからお前は下等な魔法使いなのだ」
サートゥスは杖の破片の中から水晶を掴むとそれが光り、アーサーを吸い寄せた。彼の首を掴むサートゥス。そして水晶は炎を帯びた。
「こいつを殺してほしくなければ、私の言う事をその剣に願え!」
ランを驚きと怒りが襲う。
アーサーは苦しみながら声を絞り出す。
「……ダメだ…」
ランはどうすればいいかわからない。
サートゥスが叫ぶ。
「さあ願え!私を!この世界の!
神にしろー!」
水晶の炎がより一層強くなる。
「…わかりました…」
ランは振り返り神々の像を見上げた。
そして海の涙を高く掲げる。
「天に召されし数多の神々よ…。私の願いをお聞きください…」




