第14章 暗黒都市
あまりに突然の事だった。
ガーゴイルがイヴの体を足の鉤爪で掴み、高く舞い上がった。その陰がどんどん遠のいていく。彼女の腕が力なく垂れ下がるのが見えた。
そして彼女は空中で貪り喰われた。靴や剣の鞘、そしてリーダーの象徴である赤い羽根のついた帽子がこぼれ落ちる。
一同はパニック状態に陥り急いで馬車へ乗った。
「おい何なんだよアレ!」
車内は阿鼻叫喚となるもヤーハンは冷静に馬車を走らせる。
「マジかよちょっと待ってくれよ、マジで何なんだよ」
アーサーは完全に落ち着きを失った。
先程の光景で鮮明に思い出した。幼い頃の、あの日。母が自分の目の前で魔獣に食われた日。
「待ってくれこれは俺が悪いのか!?俺がちゃんと見張ってなかったから!?気を付けるように言わなかったからか!?」
「おいアーサー落ち着け!」
「俺が弱いから…俺が悪いんだ!魔獣に連れ去られるのを見ることしかできない俺が悪いんだ!」
バーンズが静止を試みるも効果が無い。今のアーサーは5歳の頃に戻ってしまっている。
「俺が悪いんだ…でも仕方なかった!でもそれは言い訳にはできない…。あぁ俺は極悪人だ…、悪者になりたくない…!」
「いい加減にして!!!」
ランの声でその場が一瞬で静まった。
「イヴさんが亡くなったのよ?なんでそれを悲しまないの?なんで皆を励まさないの?なんでこれからどうやって身の安全を確保するか考えないの…?」
「それは…俺だってわかんねーよ!このパーティ結構強かったし、大きな怪我人も出なかったし、それで慢心してたのかもしれないけど…突然の事で…」
「だから何?だから誰が悪いとかって話になるの?」
「そうじゃないけど!」
「そう言ってたじゃん!…イヴさんは私達の家族と同じ死に方をしたのよ?しかも亡骸だってもうご家族の元に返せない…分かってるの…?」
「分かってるって…!」
ランの目は今まで見たこともない程の怒りと悲しみが籠もっていた。
「あぁもう、俺が悪かったよ!ごめんって!」
「………何、その謝り方……」
彼はこれ以上何も言えなかった。
彼女は座席に顔を伏せた。隠そうともすすり泣く声が漏れ聞こえる。
「もうなんでこうなるんだよ…!」
アーサーは荒々しく座った。
かつてない程に張り詰めた空気。それをヤーハンの声が破る。
「どんなに優秀なパーティであっても死の危険は必ず付き纏う。悲劇的な事があった時こそ冷静さを失わない事が大切だ」
皆に説いた時だった。突如馬車の屋根が吹き飛んだ。今度はジズが飛来し屋根を剥がしたようだ。そして周りから他の魔獣が次々と湧き出る。
馬車を止め矢を射るヤーハン。
アーサー、バーンズ、ランも馬車を降り参戦する。
皆互いに協力することも、連携することもなく、言葉も交わさない。
作戦もなくただ荒ぶる感情に身を任せ魔獣に怒りをぶつけ討伐する。
するとヤーハンがバーンズに提案する。
「いくら君とは言えこの数は無理がある。ここは一旦馬車で逃げよう」
バーンズは剣を振るう手を止めることなく答える。
「いや、大丈夫っす。自分が囮になるんで皆で逃げてください。自分は後から追いつくんで」
「いいのか?」
「えぇ。先にお願いします」
「わかった。無事を祈る」
ヤーハンは次にランの元へ行った。
「馬車に乗って先を急ごう。バーンズが囮になってくれる!」
「どういう事ですか!?バーンズは大丈夫なんですか!?」
彼はランには答えず直ぐ様馬車へ乗せた。アーサーもその場面を見ていた。
最後にヤーハンは彼の元へ行く。
「我々は馬車で先に進むこととなった」
「そうなんですか!」
「そしてランを馬車に乗せた時に話したんだが…
先程の口論で彼女は君に失望したようだ」
「え…どういう事ですか…?」
アーサーは耳を疑った。思わず動きを止めてしまう。
「君の事はもう仲間だとは思っていない、顔も見たくないし、心底嫌いになったそうだ」
「………」
アーサーは言葉を失う。
「確かに私も、君の言動には目に余るものが多くあった。これ以上仲間の不和を生まないためにも…
お前をこのパーティから追放する」
アーサーは頭が真っ白になった。
追放されるのか?今ここで?
ヤーハンは矢筒から1本の矢を取り出した。そして振り返る事もなく後ろから来たサイクロプスの目に突き刺す。
「今までご苦労だった」
ヤーハンが去るとサイクロプスが倒れ、アーサーは下敷きになった。
彼は必死にサイクロプスから脱出しようとするがあまりに重たく抜け出せない。周りに魔獣達が集まってきたがアーサーは気にも留めず去っていく馬車をただただ見ていた。
馬車が出発した時、ランは事態のおかしさに気付いた。
「待ってください!アーサーは!?」
「私もアーサーを馬車に乗せようと話をしたんだが、先程の口論で彼は君に失望したようだ」
「…え……?」
「君の事はもう仲間だとは思っていない、顔も見たくないし、心底嫌いになったそうだ」
「………」
「彼はそう言って自らパーティを去っていったよ。私は引き止めたんだが…」
彼女の目から光が消えた。胸のポケットから薔薇を取り出すと、怒りに任せて茎を折り外へ投げつけた。
薔薇は風に吹かれ飛んでいった。暗い空を舞う赤い薔薇がどんどん小さくなっていく。




