第10章 パーティ試験
この日アーサー、ラン、バーンズは卒業以来数日ぶりに集まる。
彼らは在学中にバーンズの青盾の先輩であるイヴが結成したパーティからオファーがかかっていた。
卒業後は各々の引っ越しのため会うことができなかった。
アーサーが集合場所で待っているとバーンズがやって来た。
「久しぶりだなぁ。お!バーンズそれってもしかして…」
「おっ気付いちゃったー?そうだよ、本物の剣を用意したんだよ」
バーンズは剣の鞘を見せた。
「剣を見せてやりたいところだけどすまんな、魔獣のいない人前で剣は抜かないようにしてるんだ。剣士としてのマナーよ」
「おーなんか剣士らしくなって〜」
「だろー!後アーサー、お前にこれをやるよ」
バーンズが渡したのは1本のナイフだった。
「事務員とはいえ危険な目に遭う事もあるだろ。なんかあったらこれで身を守れ」
「おぉぉぉ、バーンズ…これは有り難い!」
アーサーは目を潤ませて喜んだ。
2人で楽しく話していた所ランが到着した。バーンズとランはいつもの様に挨拶をしたが、アーサーは何を話せばいいかわからなかったが。
「ひ…久しぶり…。元気だった?」
「元気だったよ。卒業式以来だね」
「卒業式…そうだな…」
アーサーは卒業式であげた薔薇の意味をランがわかってくれたか心配だった。言葉ではちゃんと伝えられなかったから結局何のためにあげたのか曖昧なままなのがむず痒い。でもこの場にはバーンズもいるのでちゃんと説明はできない。
「あーイヴ先輩お久しぶりです!」
バーンズが突然大きな声を揚げた。
アーサーとランが見ると男女2人が歩いて来ていた。
「あーバーンズ!久しぶりー!」
そう言って女性の方がバーンズの元へ走ってきた。彼女がイヴだ。背が高く手脚も骨太で声も大きい。
「お前学長賞取ったんだって!?ホントにスゲーよな!」
「いやいや、イヴ先輩には敵いませんよ」
「で、この子達が言ってた子か?」
「そうなんす!こいつがアーサーでこっちはランです」
「はじめまして、アーサーです」
「ランと申します」
「そうか!アーサー君にランちゃん!私はイヴだ。話はバーンズから色々聞いてるぞ〜。2人ともかなり優秀なんだってな!それを聞いてずっと会えるのを楽しみにしてたんだ!」
「いやいや優秀だなんてそんな…私はただのしがない魔法使いです…」
「ご期待に沿えるよう全力を尽くします」
「良い子達じゃ〜ん」
イヴは明るく気さくに2人に話してくれた。
彼女も腰に剣を携えており、帽子には大きな赤い羽根が付いている。パーティのリーダーは帽子等の頭部に赤い羽根を付けるのが慣習となっている。
そんな彼女を見てアーサーとランは安堵した。こんなリーダーなら付いて行きたい。
そう思っているとイヴの後ろに男性が追いついた。
「これが例の子達ですか?」
男はぼそぼそとイヴに聞く。
「そうなんだよ。ほらお前も自己紹介しろ」
「私はヤーハン・ブラッドリーだ。授かったスキルに則りパーティではアーチャーをしている」
「…あぁぁ、こいつはパーティのメンバーで、私が前にいたパーティを辞める時に一緒に付いてきてくれたんだよ。弓の技術は一流だし頭もキレるイカしたヤツだよ…」
ヤーハンはアーサー達を見下ろすように彼らを眺めた。
彼はイヴとは対照的でどこか壁を作ってるように見える。
全身を暗い深緑の服で覆い、うねった髪が肩まで伸びている。そして背中には弓と矢を忍ばせている。
「という事で皆、私の結成したパーティ、カメリアへようこそ!
ホントは即採用したいところだけどパーティ試験をやらないといけない決まりになっててな、だから申し訳ないけど試験は皆受けてもらう!」
イヴはそう説明した。
「全然大丈夫っすよイヴ先輩!俺達余裕で合格するんで!」
「バーンズは頼もしいな!それじゃ早速試験会場へ行くぞ!」
そして彼らは会場へと赴いた。
会場へたどり着いたが、そこは小さな小屋だった。そしてその中へ案内されイヴの説明が始まる。
「皆ここまでお疲れ様。早速だけど説明するぞ。試験は全部で3種類ある。1つ目は個人技能、2つ目はチームワークその1、3つ目はチームワークその2だ」
各々の個人技能試験が始まる。まずはバーンズからだった。
小屋の裏に一同案内される。
そこには太い丸太が何本か立てられていた。
「いいかバーンズ、今から剣士の試験だ。この10本の丸太を斬ってもらう。丸太がキレイに斬れたか、それとその速さを見るからな」
「はい!わかりました!」
「じゃあ私が、始め!と言ったら…」
ズバーン!と大きな音がした。
そこにあった丸太は全て真っ二つに切れていた。
「あ…すみません、何かマズかったですかね…?」
バーンズが尋ねる。
「…いや…バーンズお前スゲーよ!」
イブは彼を絶賛した。
バーンズも安堵した表情を見せる。
次にランの試験が始まる。
彼女には金属製の頑丈な箱が用意された。
「これは魔法使いの試験だ。今からこの施錠された箱を魔法を使って開けてもらう。鍵を破壊してもいいし魔法で解錠してもいい」
「わかりました!」
イブに答えるラン。
「よし!じゃあ始め!」
彼女は杖から閃光を放つと箱の壁面が吹き飛んだ。
「は!すみません!ここまでするつもりはなかったんですが…」
「えーーー!!!つよーーー!!!」
またもイブは驚いた。
最後にアーサーの試験が始まる。
「アーサー、事務員の採用試験だからって甘く見てたらダメだからな!結構ハードなヤツが来るぞ〜」
「はい!お任せください!」
小屋の中では筆記試験を解くペンの音が響くだけだった。
机に向かいひたすら問題を解くアーサー。
その後ろでバーンズとランが、前でイヴとヤーハンが見守る。
バーンズが待ちきれずついランに小声で尋ねた。
「(なぁこれいつ終るの?)」
「(もうすぐ終るから静かに待ってて)」
ペンの音が響く。
「(これホントに俺達見てないとダメ?)」
「(もう!黙ってて)」
ペンの音が響く。
「(なぁこの距離からでもアイツをくすぐらせる魔法とかないの?)」
「(うるさい!)」
「はい!終了ー!」
「あー!難しかったー!」
答案用紙が回収される。
採点終了後ヤーハンに返却される。
「魔獣の生態学、スキルに関する法学、パーティに関する法学、会計学、全てに於いて合格点だ」
3人は喜びの表情を見せる。
「だがパーティに関する法学、特に税金の計算で大きく点を落としていた。いくらパーティが優秀でも税金を正しく払えなければ最悪解散させられる事もある。よく復習しておけ」
彼の言うことは適格だった。しかし人を褒めるという事はしないようだ。
次はチームワークの試験。小屋の外に出てイヴが説明する。
「皆個人技能は素晴らしかったな!次はチームワークの試験だ。この森の奥に小箱が置かれてある。それをここまで持ってくれば合格。箱の中にはアイテムが入ってるからそれはプレゼントだ。
でもここはゴブリンが多発する地帯だ。ゴブリンは魔獣の中では弱い部類だがナメてかかると痛い目に遭うからな。皆で協力して乗り越えてくれ。私達も後からついて行く。本当に危ない時は助けるからな」
3人が集まり作戦会議を始める。仕切るのはバーンズだった。
「いいか、3人で1列に進む。俺は1番先頭でゴブリンを討伐する。ランは列の真ん中で俺を援護しろ。アーサーは1番後ろで周りを見張るんだ」
2人はバーンズの作戦に従う事にした。
そして試験へと臨む。
3人は1列で森の中を駆けていった。
すると早速アーサーが異変に気付いた。
「バーンズ!右斜め前からゴブリンが!」
アーサーが叫ぶとバーンズのすぐ目の前にゴブリンが3匹現れた。
「いきなりこんなに出てくるのかよ」
バーンズが立ち止まり、剣を抜こうとするが恐怖で一瞬手が止まる。ランもどう援護すればよいか分からず固まってしまった。
だがバーンズは我に帰り剣を引き抜きそれを正面にいるゴブリンに振るうが、避けられてしまい剣が木に刺さった。焦った彼はなんとか引き抜こうとするが上手くいかない。
そうしている間にゴブリンに囲まれ、一斉に腕や脚を噛まれた。
「痛ってー!…皆、俺の事はいいからお前らだけでも先に行って小箱を取って来てくれ…!」
バーンズが苦しそうに言うと2人は謝りながら先へ急いだ。
途中右からゴブリンが襲ってきた。ランは悲鳴をあげたがなんとか魔法で眠らせる事ができた。そう思ったのも束の間、今度は左からもゴブリンが現れた。彼女はまた悲鳴をあげたながら魔法で光の網を出現させゴブリンを拘束した。
ランの魔法で順調に進めていたが突然彼女は足を止め、今までで1番大きな悲鳴をあげた。
流石に何かあったと後ろからイヴが剣を構えヤーハンが弓を引きながら現れた。
すると目の前にあったのは心地良いせせらぎを奏でる川だった。だがランの目には大粒の涙が浮かぶ。
「…私……小さい頃に…か、川で溺れて………それ以来…み、水が怖いんです………」
彼女は腰を抜かしてしまった。
「あんまり無理しなくていいからね」
イヴがランに心配そうに話す。
ヤーハンもランを見つめる。
「…す…すみません……アーサー…行って…」
「あぁぁ、すまんけど先に行く!すぐに戻ってくるから!」
アーサーは川から突き出ている岩を足場にしながら対岸までたどり着きそのまま走り出した。
すると正面から1匹のゴブリンが現れた。やはりこの距離で魔獣と対峙するといくらゴブリン相手でも足がすくむ。
彼はツワブキを投げつけた。だがゴブリンは何の反応も示さない。
彼はナイフを引き抜きゴブリンに突き出す。だがゴブリンは軽く避けアーサーの手に噛み付いた。
彼が痛みで顔と腕を歪ませるとゴブリンは牙を離しアーサーの胸に飛び込んだ。
その衝撃でアーサーは倒れてしまい、その上を何度もゴブリンが踏みつける。
キンセンカの花びらが宙を舞う。
小屋には腕と脚に包帯を巻き顔中傷だらけのバーンズと、
まだ涙が止まっていないランと、
手に包帯を巻いたアーサーが座っていた。
彼らの前にはイヴとヤーハン。
「み、みんな…お疲れだったな…」
イヴが声をかけるが3人は黙ったままだ。
「まぁ、いくら学生時代に成績が優秀でも実戦では苦戦する事も多いし…」
3人は何も言わない。
「ほら、ゴブリンだっていくら格下の魔獣とは言え飽くまで他の魔獣と比べれは弱いってだけでゴブリン単体はそこそこ強いから…」
3人は何も言えない。
「じゃあ午後からの試験はまた後で説明に来るよ…それまで休んでて…」
そう告げるとイヴとヤーハンは退室した。
部屋の外から彼らの会話の声が漏れる。
「はぁ〜もうどうしよう…」
「どうします?午後の試験はやりますか?」
「ちょっと考えさせて」
神妙な空気が3人を包む。
「もう皆ごめ〜ん」
先に口を開いたのはランだった。
「仕方ないよ、水が怖いのはランの所為じゃないから」
バーンズが応える。
「でも俺はずっと不安だったんだよ!パーティにいる以上はそりゃ川とか湖とかに行く事もあるだろうにランは大丈夫なのかなって!」
「だって〜、自分では克服してるつもりだったし…それに、こういうのって大人になったら自然と治ってくるものじゃないの?」
「んな訳ねーだろ!それとアーサー!お前は…だな…」
急に勢いが落ちるバーンズ。
「いいよ変に気を使わなくて、素直に俺のスキルが役立たずでいつもの様に俺が最弱だったと言えばいいよ!」
「そんな事言ってないだろ!」
「言ってる!言ってないけど実質言ってる!大体お前だって何ゴブリンに囲まれた位でビビって固まってるんだよ!学生時代一体何をしていた!?」
「そりゃ授業では本物の魔獣とは戦わないし、それにあんなに大量のゴブリンに囲まれたら誰だってちょっとはビビるだろうが!」
「大量って3,4匹しかいなかったじゃねーか!」
「そう言うアーサーだってたった1匹のゴブリン相手にビビって固まってたじゃねーか!」
「…うぅぅ…あ、あれは…ビビってたんじゃなくて作戦を考えてたんですぅー!なーんも考えずにアホ面で鼻垂らしながら刃物を振り回してるだけのお前とは違うんだよ!」
「なんだとこの野郎!」
「2人とも喧嘩は止めて!午後の試験をどう乗り切るかを考えよ」
「午後の試験があればいいけどな」
バーンズが吐き捨てる。
暫く経ってから3人のいる部屋にイヴとヤーハンが入ってきた。
「皆、ゆっくり休めたかな?午後からの試験について説明する」
試験が中止にならなかったと分かり3人は安堵した。
「次の試験は魔獣を計3体討伐することだ。1人1体討伐しても良いし、1人が討伐役で2人はサポートに徹しても良い。とにかく全部で3体討伐することが最後の試験だ」
彼らはやるしかないと心に決めた。
再び森の中へ入る3人。
「私達は後ろから見てるから。頑張ってな」
イブに背中を押され討伐へ向かう。
暫く進むと前の茂みがざわめき立った。
「来るぞ…」
バーンズが2人に伝えた時だった。
左右からゴブリンが1体づつ襲いかかってきた。
アーサーは咄嗟にゴブリンを蹴り飛ばした。ランは杖から光のロープを放ちゴブリンを拘束した。
「この後どうすればいい!?」
ランが2人に尋ねた瞬間、正面の茂みの中からミノタウロスが現れた。
後ろで見ていたイブとヤーハンは咄嗟に剣と弓を構えた。3人には強すぎる相手だった。
だがランはロープを振り回してゴブリンをミノタウロスに打ちつけた。ゴブリンはそのまま動かなくなった。
それを見てイブは剣を降ろしヤーハンにも弓を降ろさせた。彼女は視線を送り暫く見守る事とした。
魔獣は怒り彼女に突進した。が、バーンズが剣で角を受け止める。
ミノタウロスはそのまま突き進みバーンズを弾き飛ばした。だが今度はアーサーが前に現れランを守ろうとする。
しかし彼も角で突き上げられ後方へ遠く飛ばされてしまった。
ランは杖から閃光を放つもミノタウロスは腕で防御した。すかさず後ろからバーンズが背中を切りつける。魔獣は吠えながら彼を掴み地面へ抑え込む。
その時だった。アーサーが走りながら現れた。彼の手には午前の試験で見つけに行く筈だった小箱があった。それをミノタウロスの頭に投げつける。
魔獣が怯み、小箱が宙を舞う。
アーサーは叫んだ。
「ラン!それを開けろ!」
彼女は閃光を放ち小箱を撃ち抜いた。
すると中から赤い玉が現れた。
バーンズが起き上がり落ちてくる玉を剣で突き刺す。すると剣が炎を纏った。
そしてミノタウロスを正面から斬る。
魔獣は声を上げ倒れ込んだ。
「君達よくやったなー!」
イブとヤーハンがやってきた。
3人は息を切らしながらも安堵した。
「まさかミノタウロスを討伐するとはな!しかもさっきの試験でできなかった小箱まで持ってきて!本当によく頑張った!
3人とも採用だ!」
イブの言葉を聞き3人は笑顔を取り戻した。
「ありがとうございます!」
アーサーが礼を言う。
「まぁ討伐できたのは2体だけですけどね…」
バーンズが呟く。
ランは疲れて何も言えないが顔だけは嬉しそうだ。
その時彼らの後ろからゴブリンが走ってきた。
ランが杖だけを後ろへ向け魔法をかけるとゴブリンは網で拘束された。




