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波音の彼方  作者: 時任渉
5/17

5.小波

夏休み


学校以外の接点は少なくなるものの

学校とは違った

特別な時間を過ごす

夏祭り

お盆になると

地元に鎮座している

観音堂が8月13日、年に1度開帳され

最終日の8月15日

広場で露店が並ぶ。

送り盆を済ませて

帰省してきた親戚からもらった小遣いを握りしめ

露店で飲み食いしたり、遊んだりする。


赤浦夏生の家は

広場の近くにあって

昼間に暇だったので行ってみた。

赤浦夏生の父親が来ていた。

年に1度か2度くらいしか来ていないらしい

と聞いていた。

せっかく帰ってきているし

積もる話や大切な話をしているのだろう。

ちょっと軒先から覗いている私が見えて

赤浦夏生の父親が私にうなづいて挨拶をした。

赤浦夏生によく似た優しそうな顔だった。

邪魔をしてはいけないと思い

すぐ家に帰った。

赤浦夏生の父親は

とある雑誌の編集長だと聞いた。

忙しいから単身赴任なのかな、と思った。


送り盆を済ませて

浴衣を母親に着付けてもらって

広場へ急いだ。

下駄と浴衣で歩きにくい。

それでも気持ちがうれしくて

急いで 急いで 歩いた。


すでにたくさんの人が集まっていて

とてもにぎやかだった。

少し遠くの地域の子も

自転車で来ていた。


かき氷 りんご飴 わたあめ 焼きそば


一通り食べた後

赤浦夏生を見つけたので

急いで駆け寄った。


型抜き だった。

型抜きは

砂糖にでんぷん、ゼラチンなどを加えて作る板菓子に

型押しされた花などの絵柄を尖った針の先などでくりぬく。

割らずに抜くことができれば

景品がもらえる。


「もう少しで抜けるから待ってて」

赤浦夏生は一心不乱に型と格闘している。


「私もやってみる」

やってみるものの、細い部分で壊れてしまい

うまくいかない。

もう1枚・・・もう1枚・・・

あともう少し、というところで

壊れてしまう。


その間に赤浦夏生はきれいに型を抜き

景品をもらっていた。

次の型も買ってきて抜き始めた。


「器用だね」

「うん、得意なんだ

少しずつ削るといいよ」


型抜きは諦めて

赤浦夏生が抜いていくのを眺めていた。


だいぶ時間が経っていたと思う。

腕時計は持っていないし

広場には時計台もない。

少しずつ人が帰り始めていた。


「そろそろ 帰るね」

「うん これ終わったら帰るよ」


赤浦夏生はとても集中していた。

露店のおじさんが

「君、上手いね」

と声をかけて

様子を眺めていた。


夏祭りが終わると

半月で2学期が始まる。


時々、広場の近くへ行き

海岸へ行くと

釣り糸を垂らしている

赤浦夏生の姿を見かけた。

湖はいろいろなものが釣れる。

餌は石の下に隠れているミミズを

カッターで切って使う。

フナ、コイ、ボラ(スズキ)くらいなら

小学生でも簡単に釣れる。

特に男子は釣りに来ていたことが多かった。

2,3人で釣りをしていることも。


今日は一人だった。

近寄って釣果を聞く。


「釣れた?」

「んー まだだな」


隣に座って待つがいっこうに釣れない。


「いつまでいるの?」

「釣れるまで」


穏やかな波。

そこに午後から湖畔の吹く風が

陸へと向かい

照りつける太陽の暑さを涼しくさせる。


静かで穏やかな時間を

二人で過ごした。


瞳の地元では

お囃子やお神輿などといった

お祭りがなく

年に1度 広場で開かれる

露店が楽しみだったとのこと。

今では市のお祭りに発展し

昔とはだいぶ趣が違っています。

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