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波音の彼方  作者: 時任渉
2/17

2.凪

転校生 赤浦夏生と

なかなか話す機会がなかった

蛯原瞳


瞳の母親が困っているところに

赤浦夏生が現れて・・・

小4か小5の頃

赤浦夏生が私の母と関わることがあった。

夕方、夕食の支度をしようにも

母が出かけたきり帰って来ない。

ようやく家に帰ってきたと思ったら

開口一番

「赤浦夏生君って優しいのね」

と母は言った。


「赤浦夏生君と何があったの?」


母は出かけた先で

自転車のチェーンが外れてしまって

困っているところに

偶然、赤浦夏生  彼が通りかかって

自転車のチェーンを掛け直してくれたのだそう。

母はとても喜んでいた。

私にはできないことを彼はできていた。

またひとつ。


その日から、私の中で

彼には人に対する優しさがあることを

学んだ。

喧嘩っ早いだけじゃなかったんだ・・・と。


本を読んでいる姿が多いことに気づいた。

よく図書室にいて本を読む姿を見かける。

どんな本が好きなの?今どんな本を読んでいるの?

聞きたいことはあるけど

きっかけがなかなか掴めない。

先日、母親が助けられたお礼も

まだ言えていない。


悩んでいる間に 時は過ぎていった。


ある夏の日。

図書室の整理に駆り出されて

学校に残っていた時のことだった。

雷が酷く鳴り響き

雨がなかなかやまなかった。

停電が起きて

赤浦夏生と私は

真っ暗な図書室に取り残されてしまった。


窓は閉められている。

空気が蒸してきて

玉のような汗が流れる。


会話など何もなく

ただ沈黙が流れる。


どうしよう ・・・ 何か話をしなきゃ。


そう思っても、言葉がなかなか出てこないまま。


ピカッ ガラガラ ドシャーン


どこかに雷が落ちたようだ。


雨は少しずつその後

おさまってきた。


図書室に来た先生が

帰宅に安全な天気になったから

帰りなさいと言った。


「帰ろう・・・」

それだけ 赤浦夏生は言った。

扉に向かっていく。


後を追いかけて

図書室を出た。


無言で図書室を出て

二人でランドセルを背負って

昇降口へ行く。

靴を履き替える時に

ようやく言葉が出た。


「こ、この間は

母を助けてくれてありがとう・・・」


赤浦夏生 は何だろうという顔をする。


「自転車のこと」


「あぁ・・・たまたま家に帰る時に

通りかかって

知らないおばさんが

チェーンが外れて困っていたから

直しただけだよ」


赤浦夏生は

困っている人がいたら助けるのは当然だよという

感じだった。


「どこのおばさんかと思っていたけど

えびさん だったんだな」


私のあだ名は「えび」

ほとんどの人は「えび」って呼ぶ。

赤浦夏生は私のことを

さんづけで言った。

ちょっとびっくりした。


「ありがとう」


やっと言えた。

やっと話せた。

少しうれしくなった。


雨上がり

虹が出ていた。


彼とたった一言だけど、話せて

帰り道がうれしい気持ちで

いっぱいになった。


転校生と話すきっかけがなかった瞳は

母親のお礼がきっかけで

話ができた。


図書室で

雷が通り過ぎるまでの間

赤浦夏生と一緒にいることで

瞳は雷を克服できたようです。


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