1.波
都会から転向してきた赤浦夏生が気になる
田舎で生まれ育った 蛯原瞳。
海の側で育った二人の気持ちが
波音を立てていく。
登場人物
赤浦夏生
あかうらなつお
転校生 都会から田舎へ
蛯原瞳
えびはらひとみ
田舎で生まれ育つ
夏の暑さがまだ残る小学1年の2学期。
同級生の女の子が転校して入れ違いに
アイツが転入してきた。
赤浦夏生 あかうらなつお
担任の先生が転入生の名前を黒板に書いた。
男子 背は低い。色黒。
田舎の学校には転校生はとても珍しく
数日は同級生にイジられていた。
最初はおとなしそうに見えたけど
数人の男子にからかわれて
反発してすぐ喧嘩になっていた。
喧嘩のたびに担任の先生が何度も呼び出されて
教室にきていた。
カッとなりやすい性格なのかな、と思った。
時々は赤浦夏生の祖母が学校に来ることもあった。
学校から呼び出されたのか
担任と話しているところを見かけた。
そういえば親はどうしているんだろう・・・
いつしか少しずつ周囲に慣れていって
喧嘩の数は減っていき
何人かとは遊ぶようにもなっていった。
そうした姿を見かけただけで
話をすることはなかった。
彼を見ていて気付いたことは
給食は残さずなんでも食べて
おかわりまでする。
余った乳酸菌飲料や冷凍みかんは
給食を一番に食べ終わった人からなので
いつも何かゲットしていた。
私・・・蛯原瞳 えびはらひとみ は
給食は食べるのは遅いし
残すことも多々あるし
好き嫌いもあるし。
給食を全部平らげるなんて
まず無理だった。
赤浦夏生は
ほとんど病気をしない。
皆勤賞を何度も取っていたほど。
私はすぐ熱を出す、風邪をひいて
学校を休むことが多かった。
そのため勉強も遅れがちになってしまい
小学1-3年は人よりも出来が悪かった。
赤浦夏生は
図工はいつも一番だった。
年が離れた姉もそうだった。
赤浦姉弟はいつも絵で金賞を取っていた。
すごい・・・
私には無いものを持っていた
赤浦夏生は憧れ、とても魅力的に見えた。
頭のいい子も運動ができる子もいるけれど
赤浦夏生は私には無いものを
眼の前で実体として証明されていることが
とても凄いことだった。
瞳にないものを持っていた
赤浦夏生との出会いは
衝撃的だった。
話をするきっかけがなかった瞳だったが
母親の困り事がきっかけで
話ができるように・・・