表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
線香花火または打ち上げ花火、もしくは  作者: きなこともちお
6/18

「ちょっと、山本大丈夫?歩ける?」


店に来る前にお姉さんと話したこともあって、お酒とお姉さんとの話が交互に加速してしまい、山本は足元が覚束なくなっていた。私もそれなりに飲んでしまっているから、二人で支え合ってなんとか歩いている状況が今。


「ホテルまでもう少しだから、こっち寄りかかっていいよ。気分悪いとかない?」


車道にはみ出さないように、歩道側に山本を寄せて何とかホテルまでたどり着く。預けていたキーを受け取って部屋に入った途端、山本はベッドに私の腕を掴んだまま倒れ込んでしまった。


「大丈夫!?意識ある!?」


いきなり倒れたから、私は気が動転してしまった。

とりあえず上着と靴を脱がせて、掴まれた腕を振り解き、ベット横のミニテーブルに水を置く。起きてるのか、寝てるのか分からないから、静かにスマホの充電が終わるのを待つ。テレビもつけてないから、本当に無音の空間。


「美味しかったなぁ。」


思わず口から出た言葉は返事をしてくれる人がいないため、次の言葉は出てこなかった。充電が60%を超えたあたりから、うつらうつらとし始めた頭を何とか叩き起こす。そういえば温泉があるって言ってたなと思い出す。誰に聞けばいいんだろう。思い当たる人は一人しかいない。





時計の針が日付を越えようとした頃。向かいの弟の部屋が開く音がした。つい10分前くらいに部屋に入ったばかりなのに、どうかしたのかしらと思っていると、私のチャイムが鳴った。

あら、私に用事かしら。


「あの、お姉さん夜分にすみません。起きてますか?」


少し開けた扉から小さく声を出したあの子は、どうやら温泉に行きたいようだった。さっきまでお酒を飲んでいたようだから、もう少し休んでからにしなさいとアドバイスを付け加えて話すとしゅんとしてしまった。だけど、丁度私も人が少ない深夜に露天風呂に行こうと思ってたから、一緒に行こうと約束をする。部屋で弟が寝ているようだったから、着替えとか持って私の部屋に呼んだ。


「いいんですか!?ありがとうございます!」


弟と一緒に飲んでもここまで自我を持ったまま付き合える人なんて今までいなかったから、結構興味が湧いてるの。


「貴女、結構飲んだのよのね。にしては結構平気に見えるけど。」


「あ、そうですね。いつもは共倒れみたいになっちゃうんですけど、今日はそのまま家に帰るってわけには行かないので私だけ勝手にセーブしてました。」


あら、出来る子。弟のほうが一本取ってると思ってたけど、どうやらそうでもないみたいね。もう少し話聞こうかしら。


「お酒強いの?」


「そこまでじゃないですけど、山本、弟さんと同じくらいは飲めますね。」


「それは十分強いって言えるのよ。」


だってあの子家族で飲むと一人で最後まで飲んでるもの。私達家族はみんなそれなりに耐性あるけど、あの子は特に強かったのよね。


「そうなんですか!知りませんでした。我が家もみんな私くらい飲むので。」


それならこれからが楽しみだわ。一緒に美味しいお店連れて行ったりしたかったし。

そうやって話しているうちにあっという間に2時間位がたっていた。


「そういえば貴女の名前聞いてなかったわね。なんて言うのかしら。」


「あ、名乗ってませんでした。すみません。私、弟さんの同期の山里晴夏と申します。」


晴夏さん、ね。楽しくなりそうだわ。





お風呂に向かうと時間が遅いこともあって、人はいなかった。着替えをかごに入れてタオルを手に持つ。

扉を開いて入った先は綺麗なお風呂で、洗い場にタオルと買ったメイク落としと洗顔を置く。温泉を見たときはお姉さんも私も声を揃えて綺麗と言ったが、洗い始めてからは会話はなくなった。

先に洗い終わった私は室内の温泉に浸かり始める。


「はぁ、気持ちいい。最高。」


思わずこぼれたその言葉がお姉さんには聞こえていたみたいで、後ろから声がした。


「いい湯ね。ゆっくり入りましょうよ。」


そこから湯船に浸かりながらお互いの好きなものや趣味について話した。そろそろ露天に行きませんかと提案すると、丁度行こうと思ってたところと言ってくれて二人で外に出た。


「すっごい空綺麗ですね。星がこんなに見えるなんて。」


露天風呂から見える星は何座か分からない程無数で、元々の照明の数が少ないこともあってはっきり見ることができた。


「あれは有名なやつね。なんて言ったかしら。」


お姉さんが指さした方へ視線を動かすと、一際輝く星たちがあった。しかし、私には名称がわからず、綺麗としか言えなかった。


「すみません、私じゃ分からないですね。」


「いいのよ、私だって忘れてしまったわ。」


そう言ってお姉さんと向き合った時どちらかともなく笑いが起きた。最初は、山本のお姉さんとしか知らなかったこの人をこの数時間で沢山知ることが出来た気がする。


「私、お姉さんとまた会いたいです。」


「あら、まだ別れじゃないのに。でも嬉しいわ。」


学生時代から同級生とばかり関わっていたから、社会人になってもある程度年齢の近い人ばかりといることが多かった。でも、お姉さんと話していると年の離れた人と過ごすことの楽しさを感じることができる。


「後で、連絡先教えてください。」


「良いわよ。私ももっと貴女のこと知りたいし。」


結局温泉はそこから一時間入った。

はふはふですね


お姉さんの名前は佳織さんです


寝るまでが今日

寝たら明日


そのスタンスで

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ