表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
線香花火または打ち上げ花火、もしくは  作者: きなこともちお
3/18

右手にあるのは、山本先輩への引き継ぎの資料。左手にあるのは、山里先輩宛の書類。

どうも一ノ瀬です。


「はぁ、どうして私が。あの二人どうせ一緒にいるんだから、どっちかに渡しておけばいいものを。」


独り言を少し多めに言っても、恥ずかしくないくらいに周りに人はおらず、ただため息が響くだけの廊下はきつい。自販機に寄ってから行っても別にいいだろうと思い、少し遠回りをする。

あの角を曲がれば、自販機が三台並んでいるはず。このフロアにあの飲み物あったかな。


あ、両手塞がってるの忘れてた。まぁ、いっか。どちらも重ねて持てばいいよね。


そんな呑気なことを考えていた数秒前の私を殴りたい。


「山本どうしたの?疲れたの?」


「いいや、何か山里と一緒にいると落ち着くなって。」


「そっか。最近外に行くの多かったからね。来週から少しデスク増えるし、うまく休んでね。」


「フリーデスク行こうよ。俺、山里といたい。」


「空いてるかな。この時期混んでると思うけど、あとで先輩に聞いてみるね。」


っはぁぁ…。なんでこの人たち自販機の裏でこんな会話してんのよ。絶対先輩が仕組んだな。

乾いた喉をどうしてくれるんだよ。渡せるけど、渡せないじゃないか。


いいや、何かどうでもよくなってきた。もういいや。机じゃなくて椅子に置くってことくらい許せ。




「今日は下のフロアが早めに帰る日だって。」


「入れないっけ。俺、あそこの自販機のお茶がいいんだよね。」

隣でいきなり話し始めたのにも関わらず、会話を続けてくれる山本は優しい。

確か消灯が早いだけで、別に入れないわけじゃない。後で一緒に行こうかな。午前中に買ったペットボトルは空っぽになっていた。


それともコンビニまで行って、お菓子とかも買おうかな。チョコ食べたいな。


終わった会話をそのままに、手元を止めず作業を続ける。この書類はあと小一時間で終わる目算がたっていた。

1時間後きっちりに大方終わった私は、コンビニに行こうと鞄から財布を出し、席を立つ。すると後ろからジャケットの裾を引かれた。


「俺も行きたい。」


え、一緒に?ってこと?どうして?

ま、いっか。もしかしたら仕事の話とかあるのかもしれないし、今度の仕事の話まだ伝えてないことあったの思い出した…。


「いいよ。それなら下のフロア行く?」


これ以上周りで仕事してる人がいるのに話すのも憚られ、私達はエレベーターへ向かう。ボタンを押して待っていると、山本が

「階段で行かない?ひとつ下のフロアだし。」


確かに。歩いたほうがいいですよね。すぐそこだし。

最近運動不足なのはこれが原因か…。


中二階にのようになっているフロア表示だけを照らす証明がある階段は少し不気味だった。


「何かもう帰りたいかも。」

疲れたし、仕事殆ど終わったし。2週間前に別れた彼氏との最後があまりにもあっさりしすぎて、一人が寂しいわけでもないし。


「ならさ、今日さ、俺と一緒に来て欲しいところあるんだけど。」


廊下を歩く足を止め、山本が話し始める。声からして軽い気持ちではないことを悟った私は、自分の足も止めて山本に向き合う。


「今日さ、この後親戚の集まりがあるんだ。あと明日休みだろ?だから、ホテルの部屋まで予約されちゃってて。」


そこまで言って山本は俯いてしまった。どうしたのだろうと、近寄り顔を伺う。するといきなり肩を捕まれ、自販機の裏まで押される。


「えっと、どうした?困ってるなら私、手伝うよ。」


何が出来るかわからないけど、今まで沢山助けてもらってたから、出来ることなら助けたい。私が辛い時山本はいつも話を聞いてくれたし、ダル絡みのようにお酒を飲んでも少しも嫌な顔しなかった。そんな人物を私は放っておいたりしない。


「ならさ、今夜俺と一緒に来てよ。」


「え、でもそれは親戚の集まりなんだよね。私なんかが行ってもいいの?」

よりによって会社の同期であるだけなのに。


「山里に来て欲しい。」


ものすごく真剣な目をして私を見つめるから、なんだ断るなんて選択肢が消えちゃった。


「分かった。もう仕事終わってるの?」


集まりなのに仕事を持って帰るなんてことはしたくない。

どうやら山本が言い迷っていたのはこのことだったようで、了承の意を伝えた瞬間頭が肩に落ちてきた。

深く息をする音が近くで聞こえる。


「そんなに緊張してたの?ちゃんと同僚だって話せば大丈夫だよ。」


すると耳元で少し笑う声がする。

肩の力抜けたかな。ならよかった。

流石にこの体勢を続けるのは身体に悪いと思い、起こそうと手を肩に当てて押す。だけど、向き直った途端肩を預けるように隣に並んできた。


「大丈夫?」


次回、夜の旅館であんなことやそんなことが


お互いの体温を分かち合い、夢の遥か彼方へ溶けていく


乱れる衣服、皺の寄る布団


激しい呼吸が部屋の温度を上げる

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ