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火遊び、その単語が聞こえた瞬間恥ずかしくなって山本を蹴り飛ばし、店から飛び出たのが約10時間前。現在午前8時。
やらかしてしまったのでは…。
布団から出ても、朝ごはんを食べても、部屋の掃除をしても。何をしてもため息が出る。
もしかして地雷とかだったのかな…?怒ってるよね…!?
連絡しようにも、昨日使っていた鞄にスマホがなく、きっと会社に置いてきてしまっていた。すぐにでも取りに行くべきではあるが、家から出る気力がなかった。掃除はできたのに。
「怒ってたよな…。」
思わず口に出た言葉がさらに首を絞め、うなだれる。
明日出社したとき平謝りしよう。昨日飲んだ量からしてきっと記憶は消えてない。
何に怒ってるんだろう…。
あんなに低い声で話されたことないし、いつもの笑顔が一つもなかったし…。
出社して、後輩である一ノ瀬真名はドン引きしていた。目の前で土下座する山里先輩と、それを見て少し嬉しそうな山本先輩に。
近くにいた人に声をかけてみると、
「何か、山里先輩が昨日酔ってやらかしたみたい。」とのこと。
なるほど、山本先輩が仕掛け始めたな。山里先輩可哀想だけど、これは先輩が悪い。
しかしこのままでもいけない、嬉しそうな山本先輩には申し訳ないけど、ここは人が通る。人を避けて先輩に近づく。
「先輩、嬉しそうなところ大変申し訳ないのですが、ここって人が通るんですよ。知ってますよね。」
頭をあげない山里先輩に聞こえないように少し声を小さくして、耳元で話す。
「ああ、真名。勿論分かってるよ。でも、山里がどうしてもって言うから。」
だから断らずに受け入れたってことですよね。流石ですね。
「ですが、皆が困りますね。そして、困っている皆を知った山里先輩の意識は皆に向きますね。さあ、どうしましょうか。」
まるで園児に伝えるようにゆっくりとねっとりと話す。するとはっとした顔で山本は山里に近づく。
「山里、俺別に怒ってないから。大丈夫。顔上げてもらえないかな。」
まるで王子様よろしくのように、片膝を付き手を差し出す。
何やってんだか。この人は。でもきっとこれでも山里先輩は気づかない。
「本当に?本当にごめんね。」
だってこの人泣きそうになりながら、上目遣いになって応えてるもん。そんな顔しちゃだめでしょ。
早くどかないかなこの二人。
登場人物
山本夏向 やまもと かなた
山里晴夏 やまさと はるか
一ノ瀬真名 いちのせ まな
山本と一ノ瀬は高校時代の先輩と後輩の関係。大学は異なったが、会社で再会した。
山里は入社してから山本を知ったが、山本はそれよりも前から知っていた。