日常
深夜のバイトを終えた帰り道。
家の玄関で両親が非難する様な目で僕を出迎える。
家の明かりも付けず。
寝てればいいのに。
「ただいま」
返事はなし。
はん。
あんだよ。
何が気に入らないんだよ。
金は返すと言ったろ。
確かに借金は僕が作ったよ。
それも闇金に。
それを代わりに返済してくれたのは感謝してる。
だからあんたらに借りた金を返すために働いてるんだろう。
何で非難するような目で見るんだよ。
別にギャンブルの借金じゃないんだ。
良いだろう。
惚れた女の連帯保証人になっただけだろう。
……まさか両親が危篤だからと言って逃げるとは思わんかったけど。
こうして僕は身を粉にして働いてるんだ。
別に非難される謂れはないと思うぞ。
二時間の仮眠を取り僕は出勤の準備をする。
「う……」
台所を見ると夕飯に使った皿が洗って無い。
しかも生ゴミはそのまま。
僕の分だけ。
チラリと隣の部屋を見る。
両親はコタツに入り寛いでた。
自分たちの分だけしか片付けて無いのかよ。
良いじゃん。
僕の分の夕飯は自分で作ってるし。
片付けぐらいしてくれよ。
少しでも睡眠時間が欲しいんだよ。
「行ってきます」
そう言いながら僕は父を見る。
こちらを振りかえるが父は何も言わない。
「ふん」
何も言わない父を無視して出勤する。
自分で詰めた弁当を持参して。
朝ごはん?
漬物と御飯だけだけど?
朝飯はそれだけ。
そんな生活を続けた。
何日も。
何日も。
何週間も。
何週間も。
何ヶ月も。
何ヶ月も。
両親は何も言わないで睨むだけ。
いい加減にしてくれ。
何か言ってくれ。
なのに何も両親は言わない。
何も。
何も。
だったら意地だ。
金を全部返せば全部収まる。
土下座して謝ればゆるしてくれる。
何か親孝行すれば許してくれるだろう。
何をすれば良いだろうか?
美味いものを食べに連れていけば良いかな?
それとも温泉に連れていけば良いかな?
ああ。
どちらにしろ金がいる。
働こう。
働こう。
働こう。
働こう。
働こう……。
白い天井を気がついたら見上げていた。
白い天井を。
白い。
白い天井。
病院の天井を。
そして僕を心配そうに見下ろす両親も。
何だよ。
ふん。
今更。
何も言わないけど僕を心配してくれたんだ。
照れも有り何も言わず無言で佇む両親。
話しづらい……。
そう思ってたら看護婦さんが部屋に入ってきた。
あ~~。
どうやら僕は過労で倒れたらしい。
職場で。
看護婦さんが言うには。
どうも緊急入院みたいだ。
あ~~。
両親と思わず苦笑いした。
等と思ってたら違うみたいだった。
精神病院らしい。
ここは。
思わず呆然とした。
何で?
どうも自分は両親の死体と一緒に暮らしてたらしい。
死因は心臓麻痺。
二人共。
何を言ってるのか分からない。
この看護婦さんおかしいよ。
ねえ。
お母さん。
ねえ。
お父さん。
青白い顔で困った顔をする両親に話しかける僕。
その僕を看護婦さんは不気味そうな目で見ていた。
何故か。
そう。
ナゼカ。