【1−9】Playとイコールな日本語はたぶんないから
今作の投稿開始から一か月が経ちました。これからも頑張ります!
「えと……代理で売ってきましょうか? まぁ金銭の受け渡しってトラブルの元ですから、嫌ならいいですけど」
心配そうに顔を覗き込み、ラムネさんは聞いてくる。
「え、遠慮しておきます……」
私はそう声を絞り出した。
こう言うとラムネさんを信用してないみたいに思われそうだけど、その不安よりも、トラブルの危険性を承知した上で話を切り出してくれたラムネさんへの申し訳なさが勝ったから。
わざわざトラブルの話をしてくれたから、たぶんラムネさんは信用できるけど……それでも、疑うきっかけを作りたくないっていうか。
「じゃあログアウトまでどうします?」
ラムネさんは特に気を悪くした様子を見せず、にこやかに聞いてくれた。
特にしたいことも思い浮かばないし、それ以前に……。
「ログアウトってどんな感じなんですか?」
「どんな感じ……ふっと消えて、次ログインした時は同じ場所にふっと現れるって感じですかね」
それは、もはや怪奇現象かもしれない。
「近くに現地の人がいると少しびっくりされるから、訪ね人専用の仮眠スペースとかウィークリーマンションを借りるのがおすすめですね」
「タズネビト」
「僕たちプレイヤーのことです」
仮眠スペースはともかく、ウィークリーマンションを借りるのには絶対お金がかかるだろう。たぶん私は一文無しだから……ええと。
「仮眠スペースに行って、そこでしばらく本を眺めてからログアウトって感じになりそうです」
「そうですか……ぼ、私は適当に町をまわることにするので、えっと」
ラムネさんはもじもじしながら、ぶつぶつと小さくつぶやく。
なんと声をかけていいか分からずにいると、ラムネさんは決心したように顔を上げた。
「フレンドになってほしいです!」
……ラムネさんって、ネイティブキャラじゃないよね?
ネイティブにしてはFriendの発音が日本語英語だし。
つまり、ということは、ラムネさんは単なる「友達」とは違う意味で「フレンド」っていう言葉を使った。
私が考え込んでいると、ラムネさんが不安げにあたふたしだす。
ラムネさんを安心させようと私は慌てて言葉をつむいだ。
「すみませんフレンドってどういう概念なんですか?」
「……っ、ああ、そういうこと! よかったです、嫌がられているとかじゃなくて」
ラムネさんの表情がぱぁぁっと明るくなった。
「えっとですね。この世界って広いんですよ」
ほっぺに人さし指を当てながら少しずつしゃべっていく姿はなんだか微笑ましい……けど、これは何の話だ?
「まさに一期一会! で、いつまた会えるかわからないので、お互いのプレイヤーネームを本に書いて、フレンドとして登録するんです。連絡も取れて便利ですよ」
「なるほど」
「というわけでっ」
私がうなずくと、ラムネさんはあの小さな本を取り出してペンを握った。私もリュックから本を取り出し、本についていたペンを握る。私の小さい手には少し持ちづらい。
私とラムネさんは本を交換し、それぞれに自分のプレイヤーネームを書いた。
「やったぁ!」
ぴょんぴょん跳ねるラムネさん。
フレンドになれたことは私も嬉しい。
だけど、それよりもラムネさんの喜びように驚いた。
もしかして今まで友達がいなかった……って考えちゃさすがに失礼か。いやもしかしたら、失礼と思うことがさらに失礼かもしれない。
私は思考を振りはらって、代わりに次することを考えた。
「ラムネさん。タズネビト? 専用の仮眠スペースってどこにあるんですか?」
「ギルドの二階です。一緒に行きましょうか?」
「はい」
ラムネさんに提案され、私はうなずいた。
普段なら自分で行こうとしただろうけど、少し別れるのが惜しかったから。
☆
ラムネさんのカードでチェックを抜けて、ギルドの奥へ入る。
一つのカードで複数人通れちゃっていいの? って思わなくもないけど「カード未所持の訪ね人の方は、カードを持った人と一緒にお通りください」という表示があったから、きっと時間が差しせまったプレイヤーへの特別な救済措置なんだろう。
そんなことを考えているうちに、すぐ「仮眠部屋」と書かれたドアの前へ来た。
「じゃあ、ぼ……私は行ってきますね」
「ありがとうございました」
にっこり手を振って、もと来た道を歩いて去っていくラムネさんを見送る。そして、意を決してドアを開けた。
「……思ったより広い」
壁と床はさっきいた所よりさらに落ち着いた感じで、照明もそんなに明るくない。寝やすそうなクッションが四十個ぐらい置いてある。
クッションにはベージュと黒があるみたいだけど、不思議なことにベージュのクッションに座っている人はいなかった。黒のクッションは人が座っているのと座っていないのとあるのに。
「あ」
人が座っていなかったはずの黒いクッションに、人が現れる。頭の上に名前が出ているから、きっと今ログインしてきたプレイヤーなんだろう。
その人がクッションから出ると、クッションの色が黒からベージュに変わった。クッションの色で人がいるかどうか見分ける仕組みらしい。
黒いクッションに座ろうとしたらどうなるんだろう?
万が一ログインしてきたタイミングと被ったら最悪だ。
だけど誘惑から逃れられず、私はそろりそろりと黒いクッションへ近寄る。
そして、手を伸ばして触れ――
バチッ
「痛ぁっ⁉︎」
静電気のビリビリを凝縮したような衝撃を受けて、私は後ずさった。
サブタイトルはフレンド分からないのにプレイヤーを普通に認識している理由みたいな何かです。