【1−8】実はリュックに換金アイテムがあります
塀にそって歩くと、門が見えてきた。
現実世界の改札みたいに、カードで触れて通り抜けるシステムになっているみたいだ。端にあるカウンターでは、重そうなかぶとを被った人が、ひとりひとり丁寧に対応している。
ラムネさんは一歩踏み出し、カードをつまんでにこっと笑った。
「私はカードで先に通ってますね」
そう言ってすぐ、タタッと門をくぐり抜けた。
私はとりあえずかぶとの人の列に並んで、向こう側にいるラムネさんの様子を眺める。ラムネさんは手のひらサイズの本を開いて、なにやら書き込んでいた。
「次の方どうぞー」
「あっ、はい」
ぼんやりしていたんだろう。
かぶとの人に呼び止められ、カウンターまで急ぐ。
「訪ね人の方ですね。身分証明を見せてください」
わたわたと本を取り出して、身分証明のページを見せた。
かぶとの人はぺらぺらのカードを渡してくれる。
「こちらが仮のカードになります。正式なカードは、これと身分証明を提示してギルドなどで発行してもらってください」
「わかりました。ありがとうございます」
「では先へお進みください」
カードを受け取って通してもらうと、リュックに本を詰めてからラムネさんのところへと向かった。
☆
「お待たせしました」
声をかけた数秒後、ラムネさんは本から顔を上げた。
そしてゆっくりと口を開く。
「…………えっと、予定どんな感じです?」
「完全にノープランですね」
「ぷふっ!」
ラムネさんは吹き出した。
ノープランなのがそんなにおかしいんだろうか。
いやでも、やるべきことは特にないし。
「ま、真顔で言わないでくださいよっ……」
「んー……強いて言うなら、カードの発行が気になってますけど」
「じゃあ、とりあえずギルドですかね。何時までいけます?」
歩き始めながら、ラムネさんは聞いてくる。
私はいつも何時に寝ているか思い浮かべた。
「十時ぐらいだと思います」
「え、三十分しかないじゃないですか。じゃあカードの発行は無理ですね……」
ラムネさんはちらりと左の方を見てから、スタスタと大きな道を歩き出す。
「カードの発行って、写真を撮らなきゃいけなかったり、検定を受けなきゃいけなかったりするから、時間かかるんですよ」
「そうなんですね。じゃあ、今はどこへ行ってるんですか?」
「毛皮、買い取ってもらいますよね? 確か最初は所持金ゼロですし。だったら結局ギルド行かなきゃなので、ギルドの方へ向かってます」
確かにお金がないなら、さっきもらった毛皮を売った方がいいかも。
そんなことを考えつつギルドへと歩きながら、私は首をひねった。
あれ、ラムネさんはどうやって現実世界の時間を知ったんだろう?
「今が何時かってどこでわかるんですか?」
「あそこの塔です。結構いろんなところに時計があって便利ですよ」
聞いてみると、ラムネさんは足を止めて左ななめ後ろの方を指さした。
ちょうどさっき立っていた場所の左に塔がある。
塔を見上げると、確かに見慣れた時計があった。
最上部には鐘がついていて、どことなく「やぐら」に似ている。
「なるほど……」
キョロキョロと辺りを見回しながら、ラムネさんの背中を追って大きな道を進んでいく……と、すぐにそれらしきレンガ造りの大きな建物が見えた。
ラムネさんは大きな建物の前で立ち止まる。
「ここが冒険者ギルドです」
壁の外側についた二枚の大きな引き戸が開いていて、中の様子が見えた。カウンターがたくさんあって、カードの発行ができるってことは、役所みたいなところなんだろうか。
「冒険者っていう何でも屋と、困っている人を結びつける仲介所みたいなところで……今のところプレイヤーの持ち物を買い取ってくれるのはここだけなので、すごく助けになる場所です!」
そう笑顔で説明してくれたあと、ラムネさんは私の手を握った。
「てなわけで、行きましょう」
「あっ、はい」
活気にあふれた町っぽいのに、買い取りしてくれるのはここだけ?
私は疑問符を浮かべながら、ラムネさんに手を引かれてギルドの中へ入る。
「わぁ……!」
内装の綺麗さに、私は歓声をあげた。
前にはカウンター、左に掲示板、右に休憩スペースがある。
どれもシンプルに造られていて落ち着くし、何度も通いたくなるような雰囲気が漂っている……んだけど、なんだかちょっと技術をドヤ顔で見せつけられている感じがした。
キョロキョロと辺りを見回していると、隣から何やら聞き捨てならない言葉が。
「あ、そういえば……買い取りってカード要るんだった」
ラムネさんの言葉に、私は目を剥いた。