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【1−5】身長140センチの私が十個は入りそうだから

 エレベーターに乗ったときのような、わずかな浮遊感。

 それが落ち着いたあと、光がだんだんと収まっていく。


 ()が地面についた感覚のあと、見えてきたのは……ログハウスの中みたいな空間だった。とはいえすっごく狭くて、家具が机と鏡しかないんだけど。

 とりあえず外に出てみたい、とドアノブに手をかけた、その瞬間。


 ブーッ……ブーッ……と謎の音が大きく響いた。


「何っ⁉︎」


 思わず声を上げて、ドアノブから手を離す。

 何事かと辺りを見回すと、空中に工事現場の警告みたいなディスプレイが現れていた。そこにメッセージが表示されていく。


【ここはインスタンスマップです】

【一度出ると再訪できませんが、よろしいですか?】


「よろしくないです……」


 疲れ気味につぶやいて、部屋を見わたした。


 一つしかない窓からは見える景色は暗かったけど、よく見ると木々が見えた。現実世界で今は夜だから、この世界も夜なのかもしれない。


 鏡に近寄ると、さっき決めたアバターがまともな服装で映っていた。デザインはローブを現実世界で着なれた格好に近づけた感じで、結構おしゃれだ。


 色もパープルとネイビーの中間ぐらいで派手すぎないし、何より着ていて心地いい。小さなリュックを背負っているからか旅する人っぽい雰囲気が出ていて、なんだか楽しい気分になる。


「……そういえば、髪の毛ってどうなってるんだろう」


 ふと気になって、アニメに出てきそうなハーフアップの髪に触れてみる。髪の一本一本が独立しているわけではなさそうだけれど、手触りは思ったよりもよかった。


 机の上を見やると、小さな宝石がついた腕輪(ブレスレット)と本が置いてあった。

 まずは本を手にとる。パッケージについてきたガイドブックにそっくりなデザインだけど、これの方がかなり薄いし軽い。


 開いて最初のページには「歌唱魔術を選んでプレイを始めたあなたへ」と手紙みたいなノリで、歌唱魔術やブレスレット、そして本についての説明が書かれていた。


 とりあえず、ブレスレットを身につけた状態で適当に歌えば、曲調に応じた魔法陣ができて自分の好きなタイミングで発動できるようになるらしい。本は困った時に開けばどうにかしてくれる、携帯必須アイテムなのだそうだ。


 ブレスレットを身につけて本を抱えた瞬間、ドアノブにびっくりマークが浮かんだ。

 近寄ると、メッセージが表示されていく。


【一度ここを出ると再訪することはできません】

【準備ができたら、ドアを開けて外に出ましょう】

【まずは近くの町を目指し、そこを拠点とするのがオススメです】


 正直ここからどうすればいいんだろうという感覚があったから、丁寧なアナウンスがありがたい。感謝しながらドアを開けると、ここに来る時と同じように光に包まれた。



 ☆



 浮遊感と光が収まってから、キョロキョロと辺りを見回す。


 ここは、森の中……?

 でも夜の森にしては明るすぎるような気もする。


 明るい理由はすぐにわかった。

 謎の物体を中心に、半径十五メートルくらいの円がある。

 その縁が、緑色のオーラを放っていたのだ。


 あとは、私みたいに光を伴ってやってくる人が多いのもあると思う。


 謎の物体が何なのか気になって近づくと、びっくりマークが浮かんだ。

 近寄っても反応しないので触れてみる。


【スキル〈鑑定〉を取得してください】


 どうやってやるのかがわからなかったから、さっそく本を開いた……んだけど、少し()()()()()()気がして、私は本を閉じて辺りを見回した。


 ドシン……ドシン……という明らかにおかしい揺れ。

 原因も、今がどんな状況なのかも掴めない。


「ひゃ――――――っ!」


 少しして、遠くから悲鳴が聞こえてきて。

 だんだん揺れが大きくなっていく。


 ガサガサ、と木々をかき分ける音がした直後、森林から何かが飛び出してきて、緑のオーラの内側へと転がり込んできた。


「ふぅ、助かったぁ……」


 さっき森林から飛び出してきた中性的な人の頭上には、おそらくプレイヤー名であろう「ラムネ」という文字が表示されている。


 暫定ラムネさんが、手足を投げ出してぜぇはぁと息を整える。揺れはまだ続いているけど、ラムネさんがさっき「助かった」と言っていたし、きっとここは安全なんだろう。


 そうやって、安心してしまったのがいけなかったのかもしれない。


 バキバキバキバキィ!!!


 そう表現したくなるような訳の分からない音が、振動とともに近づいてくる。


「え……嘘でしょ?」


 震える声で落とされたつぶやきに、思わずラムネさんの方を見る。

 ラムネさんはガクガクとひざを震わせ、絶望的な表情をしていた。

 つられて私の表情も険しいものになる。


 そして、木々をなぎ倒しながら現れたのは。


 ――現実ではあり得ない大きさの、熊だった。

 次回、初戦闘! ……たぶん。

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