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【1−2】なんかこう、ドッカンドッカンしてる魔法が好きです! って言っただけなのに

 わーいわーい(飛び跳ねて喜んでいる)

 数秒の沈黙のあと。

 なんでもないことのように彩香(あやか)ちゃんはうなずいた。


「まあ、そうなるね」

「やっぱり……って、えっ⁉︎」


 彩香ちゃんがあまりに平然としているからか、私も普通に言葉を返してしまったけれど…… 絶対に高いであろう『EFO(イーエフオー)を始めちゃいましょうセット』を、このノリで受け取るわけにはいかない。


「さすが美紅(みく)ちゃん、察しがいいね。というわけで、運んでいくよ!」

「ちょっ、ちょっと待って!」


 パッケージを持って外に出ようとする彩香ちゃんを、あわてて引き止める。

 彩香ちゃんはくるりと振り返って首をかしげた。


「なーに?」

「何、って……こんなの受け取れないよ」

「何で?」


 不思議そうにしている彩香ちゃんの、金銭感覚が心配になってくる。


「だって高いでしょ?」

「大丈夫! お父さんにもらったやつだから!」

「もっと大丈夫じゃないと思うけど」


 彩香ちゃんのお父さんと会ったことはないけれど、彼がどんな人であれ、娘にあげたプレゼントがいつの間にか友達の手に渡っていたとなったら多少はダメージを受ける……と、思う。


「許可は得たもん」


 ……え、許可したの?

 まさかの親子そろって金銭感覚が亡くなっていらっしゃるパターン?

 そんなことを考えていると、彩香ちゃんはにこりと笑って付け加える。


「わたし、ゲームの中であんまり友達できなくて……どうしても美紅ちゃんとやりたい! ってお父さんに言ったら、くれた」


 あれか。いわゆる親バカってやつか。


「そっか……分かったよ……」

「ほんと⁉︎」


 わざわざ用意してくれたものを、無理に断ることはしたくない。

 私は諦めて、うんうんとうなずいた。



 ☆



「……そうだよね、パッケージを私の家まで持ってくるってことだもんね」


 私の部屋に彩香ちゃんがいる。

 キラキラしてる、かわいい……じゃなくて。


「彩香ちゃんが来るって知ってたら、もうちょっと綺麗にしたのにな」


 私の部屋が汚いってわけじゃ断じてない、けど。


「段ボールに本が突っ込んであるの初めて見た……っていうか、美紅ちゃんの部屋に入ったの初めてかも」

「うん。誰も呼んだことないから」


 返事をしながら、部屋を見回す。

 本棚に入りきらなかった本が、背表紙を上にして段ボールに詰め込まれている。


 その背表紙を眺めて、彩香ちゃんが言った。


「あー……魔法ってあるとつい買っちゃう感じ?」

「うん。段ボールに入れてるのはあんまり面白くなかった話なんだけど……」


 段ボールの中にあるタイトルには「魔術師」「ウィッチ」「ウィザード」「魔法使い」などなど、魔法にまつわるキーワードが多く入っている。


 その中の一冊を、彩香ちゃんは手にとった。


「えー、わたしこの話めちゃめちゃ好きだったのに」

「たぶん、魔法がメインじゃなかったんじゃないかな。あとは魔法がこまごましてる」

「そういえば、ドッカンドッカン? な魔法が好きだって自己紹介のとき言ってたもんね」

「あ、それはちょっと黒歴史……」


 忌まわしき記憶から目をそらすように、別の話題を探す。


「そうだ、EFOには魔術師ってないの?」

「ある……はあるよ」


 ある、と聞いただけで心が高鳴る。

 だけど言い回しが不穏だったから、私は必死に興奮を抑えた。


「だけど、美紅ちゃんが思う魔法は使えないと思うよ?」


 え。喜びが急激に冷めていく。

 私は「どうして?」という思いを込めて、彩香ちゃんの方を見た。


 少し困ったように考え込んでいた彩香ちゃんは、やがてパッケージからガイドブックを取り出し、片手で開くと、もう片方の手でページの一箇所を指さした。


「これを見てみて」


 そこには「魔術師」と大きく書かれている。ページには代表的なスキルや、実際にそのスキルを使った時の写真がいくつか載っていたんだけど……。


 私が彩香ちゃんに視線を向けると、彩香ちゃんは苦笑いした。


「EFOの魔術師って、わーっと大技を決めるタイプじゃないんだよね」


 じゃあ、どうしよう。


 すごい魔法が使えないなら、あんまり戦わない方が楽しめるかもしれないな……と考えていると、彩香ちゃんは人差し指を立ててウィンクした。かわいい。


「その代わり、EFOには『歌唱魔術(かしょうまじゅつ)』ってのがあるんだ」


 歌唱魔術。

 その単語の意味をちゃんと知っているわけじゃない。

 だけど、なんだかすごそうな予感がした。

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