19-5.同。~そして頼りになる、我が友だ~
~~~~戦いは得意ではないはずなのに。君はほんとに頼りになるね?ダリア。
「よし。取り掛かろう。
マリーは神器の準備を。なるべく、防御魔導の縁に配置してね。
それができたらボクとストックは、戦闘態勢に入る。
そしたらダリアは魔術を解いてね」
「はい。始めます」
マリーがストッカーから神器を出して、一本ずつ半球の縁の地面に刺していく。
「というか、あんたたち三人は、そのちっこい体で戦えるの?」
「私はおまけだがな。頑丈さは前の時と同じだ。
体張って守ってやるとも。安心しろダリア」
「それは頼りになるわね。ハイディとストックは?」
「ボクらは、武術に呪いをミックスした技を習った。
ボクは君はもちろん、マリーとミスティなら、正面から制圧できるよ。
メリアは倒せないけど」
「私も同じだ」
ダリアがめっちゃ引いてる。
マリーもその向こうで神器を取り出しながら、ちょっと心配そうだ。
「……あたし王国のことは詳しくないけど、それ使って大丈夫なの?」
「精霊がすっ飛んできたりはしないから、大丈夫だよ。
ボクは違う人だけど、ストックに教えたのは母親のモンストン侯爵だぞ?」
「娘の幼児になんてもの教えるのよ……」
「ダリアは感覚が真っ当だな。王国貴族なんて、こんなもんだぞ?」
「あー、そうですね。どこもこんなです。強ければたいがいは許されます」
「「「こわっ……」」」
マリーとメリアの声が、ダリアに重なった。
「ところでダリア。炎熱で行くの?」
「そうね。雷光だと延焼が怖いし。氷結は止めまでのタイムラグが大きい。
風や土は当たらない可能性が多くなってくる」
「そうだね」
「おい二人とも。炎じゃこの森、それこそ燃えるんじゃないか?」
「あー……逆なんだよ。最初に外縁を焼いて、延焼しないようにする式なんだ。
雷光だとそんな丁寧な伝導はできなくて、意図しないところが燃えたりする」
「外から内に向けて焼く炎と、エネルギーを放射する雷光……そういう魔術なのか?」
「ええ。炎の方は、『規定範囲内のみ確実に攻撃できる魔術の構築』ってテーマで作った奴だから。
間違いないわよ」
なお、その範囲内は信じられないような温度になり、何もかも蒸発する。
魔物は魔導に対して一定の抵抗力を持っているので、魔術でこれを倒す場合、かなりの攻撃力が要るからね。
ストックの発勁できわめて魔導抵抗が高い豚が焼けたあたり、呪いの技だと大丈夫みたいだけど。
「準備できました!」
マリーが空のストッカーを持って戻ってきた。
神器は円周上にぐるっとすべて刺してきたようだ。
……あのハンマーは、どうやって安定して立ててるんだろう?
ま、いいか。
マリーとダリアが中心。メリアとミスティがそのそばにつく。
ボクとストックは、とにかく動き回って眷属を倒す役だ。少し離れて構える。
二人で、深く息をする。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」
「__/\/\/\/\/\/\/\/\/\/ ̄ ̄!!」
ボクと彼女の赤い瞳が、赤く燃え上がる。
――――立て、紫陽蛇獣。
――――起きろ、紫電雷獣。
「よし、いいよダリア」
「何今の音……?
いいか。いくわよ!3!」
少し腰を落とし、タイミングを計る。
ボクの立つ左側の方で、防壁が解けた瞬間に向かってきそうなやつを見据えておく。
右半分はストックに任せよう。
「2!1!解除!」
緑の半球が解ける。
一本足の鳥状の何かが、大量にその内側に入り込んできて――動き回り、片っ端から撃墜する。
手で、足で、首をもぎ、目を潰していく。
眷属はそこまでの耐久力はない。その上で、弱点は魔物と同じ。
目が見えなくなると絶命する。
四歳児の手足は短く、カバーするのにとにかく動き回らなければならないが、苦労はそれだけだな。
ミスティやメリアが動く様子はない。
ストック側も十分落とせているようだ。
「オーバードライブ!『魔力 乱流』!!」
激しい緑の魔力流が、魔導の球体の代わりに周囲を包んだ。
それを越えた眷属たちが、消滅していく。
後から来た奴らは、周囲を飛び交って右往左往している。
ダリアが二つの杖を、天に掲げる。
彼女の周囲に、夥しい数の魔術陣が現れる。
━━━━『天の、星よ。』
かつて彼女と研究したことだ。
━━━━『五より九に至り、また六に廻りて、七にゆらへ!!』
『魔力流に魔導を流すと、その規模が膨れ上がる』と。
マリーの魔力流に、繊細なダリアの魔術が重なる。
これは導火線のつながった、爆弾のようなもの。まだ起動しない。
「行きます!!」
マリーの魔力流が、濃い魔力を乗せて、森の奥へ進んでいく。
周囲の魔力流の帯がいくつかほどけ、その間から眷属が侵入する。
――片っ端から、叩き落す。
魔力流が奥へ奥へと進むごとに、囲みが崩れて侵入する鳥が増える。
だいぶ数が増えてきた。
……ここが切り札の、切りどころだな。
ボクはほんのわずかに瞠目し、頭の中の撃鉄を起こした。
脳内の魔素が活性化し、瞳が……赤から紫に染まりあがる。
入力情報から予測。こちらの稼働範囲と仲間の状況から、シミュレーション。
ストック側のフォローを少し入れつつ、計画を策定。
引き金を、引く。
跳ね回りつつ、一度門の周辺の眷属を一掃した。
まだ完全ではないが、やはり雷光とこいつは相性がいい。
ただ負担が大きいな……連続稼働はこの状態だと、難しそうだ。
瞳の色が、赤に戻る。息をつき、次に備える。
「捕捉しました!」
マリーの合図。
ダリアが頭上で、二つの鍵を打ち鳴らした。
杖が二本とも砕け散る。
森の奥で、目も眩むような赤が炸裂する。
炎で作られたかまどは、しばしその中を焼き尽くす。
その周辺から逃げ出したと見える、大量の眷属がやってくる。
ボクとストックがそれを撃ち落としていく。
メリアも何体か素手で打ち倒していた。
ミスティが髪留めを解く。
炎が収まって。
「魔物は蒸発しています!
ただ眷属の呪いは続行!あと560!」
マリーの声に呼応するかのように――青い髪の束がすごい速度で伸びた。
次々と眷属に絡みつき……縊り殺している。
…………山で見たときも思ったけど、今無音で発動したよな?
これ精霊か。やっぱそうなんか。こわっ。
髪は森の奥まで四方八方に伸びていき……しばらくして。
「残敵、確認できません。マリーさん、どうですか?」
「…………はい。この層はもう、魔物も眷属もいません」
ミスティはしばし髪を動かしているようだったが、懐からナイフを取り出して首の後ろ辺りで髪を切り落とした。
伸びていた青髪がすべて大地に落ちて崩れ、糸くずのようになって徐々に消えていく。
彼女をもう一度見ると、いつの間にかいつもの編み編みに戻っていた。どうなってんの?
「メリア、ミスティとダリアをお願い。
外の人たちに伝言も頼む」
「わかった。おぬしらはどうする?」
へたり込んでるダリアと、膝が笑ってるミスティをメリアが担ぐ。
「ボクらは待機だ。ここの街の貴族が来たら交代。
マリー、ストック。大丈夫だね?」
「はい」
「あと4-5時間は行ける。問題ない」
「わかった。では伝えてくる。
後で私も戻る。無理するなよ?」
「ん。お願いね」
メリアは二人をかついで、門を潜っていった。
「マリー、念のためだけど。要救助者はいないね?」
「…………はい。人も、御遺体もないようです」
「ん。ではちょっとしんどいかもだけど、引き続き警戒しておこうか」
二人が頷く。
しっとりとした中に、仄かに火の気の匂いが混じるこの森林で、しばし門番を務めるとしよう。
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