19-4.同。~奸計よりも賭けを得意とし~
~~~~しかも君も……ボクを責めないのか。ありがとう……。
しかし余裕があるな。
あれかな、とにかく防御構築して、救援待ちの構えかな?
魔術陣も黒白の魔術補助魔道具も起動してるし、もうやることは終わってるのだろう。
「そうだね。女性に興味はないよ。
で、あの眷属を防いで落としてるのは、自動制御か」
「ん。あと二時間くらいは持つわ」
「制御中軸を移すのは相変わらずできないんだな?」
「理論は完成したけど、連邦にはへぼい工材しかないのよ。
だからこの子たちは仮ね」
ダリアが黒い方の鍵をこんこん叩く。
魔術を展開後、移動させられるかどうかという試みを、前のときに二人で考えたことがある。
工材に無理をさせるので、かなり優秀な魔術補助魔道具じゃないと現実的ではない、となった。
高級神器並みでも難しい。
というか、この補助具。
「もう痛んでるじゃないか……二時間はもたねぇよこれ。
ストック、どう思う?」
「45分だな。ヘマイトの木を使ってるだろう?
あれは長時間使用時の耐久度減少が著しい」
「詳しいのね」
「私は神器工材が専門でな。魔道具の工材にも理解はある」
「おいハイディ、ストック」
「「ごめんメリア」」
今度はメリアが入ってきた。二人で謝る。
つい話し込んじゃうな……。
「あらカレン。メリアってコードネーム?」
「……そんなとこだの。で、ハイディ。どうする?」
「ん。ちょっとみんなに入ってもらおう」
とりあえずミスティとマリーにも、入ってきてもらった。
彼女たちは前の時間のことを知らないので、一応簡単に紹介。
そして作戦会議だ。
マリーを見てうずうずしているダリアは、とりあえずほっとく。
「さて。ではストック。戦略目標」
「チキンチキンの魔物本体の撃破。
貴族が来るだろうが、45分じゃ到着は期待できない。
報せは行ってるそうだが、それこそ二時間は見たほうがいい」
「同感だ。作戦」
「マリーの予言の力で追い詰める。
だが、消耗があるんだったか?」
「はい、そうです。だからずっと追いかけるのは……」
「そこだな。あなたに追いながら戦ってもらうのは、負担が大きいだろう」
護衛しながら追い詰める、という選択肢もあるが、相手の速度次第ではままならない。
……マリーを背中にでも乗せて、追いかければいけるか?
「ハイディ。あたしから提案があるんだけど」
おお?ダリア??
あ、まさか。
「可能か不可能かでいえば、可能か。
その補助魔道具、あっという間に折れるんじゃないの?」
ボクはダリアの魔導はよく知っているので、思い当たるものがある。
「そうね。だからチャンスは一度だけ。
試す場合、その間も、それ以降も、眷属をなんとかする必要がある」
チキンチキンの眷属は、凶暴化していてもそう強くはない。
武力はそうないメリアでも、一体ずつなら問題はないな。
皆を見渡す。
彼女の提案に従ってやった後は……ダリア自身は魔力が尽きるだろう。
マリーは動ける。それに加え、四人か。
「ミスティ。君の奥の手は、こいつらをどの程度補足できる?」
「当然のように知ってるんですね……四桁くらいは」
「マリー。現在のここにいるチキンチキンの眷属数」
「えっと、1200体あまりです」
「巻き込みで結構死ぬと思うわよ?」
「だろうね。ボク、ストック、メリアとマリーで最大200程度と考えて。
ボクは現実的なラインだと思うが、どうだストック」
「そうだな。魔物ならともかく、眷属なら大丈夫だろう。
で、魔物は倒せるのか?ダリア。そこが肝心だが」
「マリーが力を貸してくれれば、なんだけど」
ダリアがマリーを見て言うが、マリーの方は少し悩んだ様子だ。
「…………具体的な方法によります」
「そこで即答しないあたり、あなたらしくていいわね。
あなたが魔力流を全力で出して、そこにあたしが魔導を一つかける。
その後、魔力流を制御して、魔物本体まで届けてほしい」
「……最後の工程、自信がありません」
「有視界距離くらいまで届けてくれればいいんだけど、それでも難しい?」
「あ、本体に接触させなくていいんですか?
本体に直だと、逃げられちゃうので」
「近くに届けた時点で、合図してくれれば大丈夫」
「分かりました。それならできます」
ん。二人の間で合意はとれたようだ。なら大丈夫だな。
「ではタイミングを合わせ、ダリアは詠唱解除。
ダリアとマリーを守りながら、残りの人間で戦闘。
マリーはオーバードライブ。ダリアが魔導を使ったら魔力流制御。
魔物本体に届いたら合図し、ダリアが魔導を起動して、撃破。
最後に、残りの眷属の状況を見て、ミスティを中心に掃討」
「眷属は、最初から掃討にかからなくていいんですか?」
「うん。君の奥の手が、魔力流の邪魔になる可能性があるから。
あと、本体が倒れたら眷属の状況が変わる可能性がある。
具体的には、飛べなくなったりとか、ね」
眷属は単体では呪いを使わず、魔物からその力を授かっていると聞いたことがある。
必ずしもそうではないらしいが、その場合は全部一気に倒す必要はまったくない。
「あと、ダメだった場合の保険でもある。
そのときは、ミスティ。眷属をできる限り捕えておいてほしい。
次善の手を使う。マリーにはその場合も……予言の力で働いてもらうけど、いい?
魔物の現在地が必要だ」
「はい、大丈夫です。魔物の位置くらいならほとんど力を使いません」
「私も問題ありません。備えておきます」
ボク、ストック、メリアも頷き合う。
「あとダリア」
「なに?」
「一人残った魔術師と聞いて、ボクは理屈じゃなくキミだと思った。
人助け好きは相変わらずだな?」
「よしてよ。私はただあの人たちに、道を教わった恩を返してるだけよ」
あの人たちってのは、外の冒険者たちのことかな。
ほんと、そういうとこだって言ってるんだよ。
「そういうことにしておこう。
では君の恩返しに、便乗させていただく。いいな?」
「勝手にするといいわ」
魔女がにやりとする。
ボクも口角が自然と上がった。
次投稿をもって、本話は完了です。




