19-3.同。~誰よりも魔術に優れ~
~~~~結局、君もいるのかよ。なぜ王国に来たし。
まだらの空間の向こうは、聞いた通り、森のようだった。
背の高い木々が見える。天井は見えず、中は明るい。
『魔女姫サレス』は、入ってすぐのところにいた。
――――そしてボクに、右手を向けている。
彼女は呼吸が荒く、緊張しているが……すぐ何かをする、という様子はない。
ボクも落ち着いて、周囲の観察に勤める。
黒いマントをまとった赤髪の魔女……魔法使いスタイルの人。
地面に、鍵を縦に二つに割ったような形の、白と黒の杖を刺して立てている。
こちらを見る瞳は緑で――徐々にそれが見開かれていっている。
ボクの知っているサレスその人で、間違いない。
肌は浅黒い色だけどとてもきれいで、変な服装なのに気品がある。
というかその服、全部絹だろう。相変わらず地味に派手だよな。君は。
門の周囲に、半球状に魔導が展開されている。
その内側に無数の光の魔法陣――彼女の開発した、魔術陣という補助魔術が浮かんで見える。
単純な防御障壁魔術のようだ。チキンチキンは障壁に激突し、砕け散っている。
チキンチキンもこう、不気味系魔物の一種だ。
羽や腕はない。足が一本だけ。くちばしもなく、頭部には二つの目と、赤いとさかだけついている。
本来なら足一本で跳ねるように移動する。だがその大量の眷属が今、飛び回っている。
サイズはボクより小さい、くらいじゃなかろうか?つまり飛ぶ物体としてはかなり大きい。
量としては……ちょっと数えきれないな。四方八方から門の方に向かってくる。
彼女がなぜこちらに手を向けているか、わからない。
正直緊張するが……意を決して声をかける。
「助太刀いたします」
「え、ハイディ?なんでここにいるの?」
……君のそういう、うっかりなところ、ボクは割といいと思ってるよ。
緊張も何もかも、どっか吹っ飛んだわ。
にしても、いすぎだろこれ。
ストックとボク、メリアにダリアで、四人目かよ。
「ダリア。君も呪いの子か」
「ん?呪いの子ってなによ」
「ボクに大量の神器オーバードライブでぶっ飛ばされたの、覚えてるんだろ?」
「あれすごかったわ!超感動した!!ぜひ原理を解明したいわ!!!」
……こいつめ。かわらないな。
思わず、気の抜けた笑みを浮かべてしまう。
ほんと、恨みの欠片もない目で言うんだから。
ボクは正直罵倒は覚悟してるつもりなんだけど、実際されたら崩れ落ちるかもしれない。
あまり自覚はなかったけど……そのくらい、皆を信じてるんだな。
「そだね。せっかくだから今度やろうか。
こういう、死んで戻ってきてやり直してるやつのこと、呪いの子っていうらしい。
ボクと、メリア……じゃわかなんないのか。カレンもそうだ。
あと今後ろに、ミスティとマリーも来てるよ」
「マリーいんの!?」
やっぱりそこに食いつくのかよ。
「いる。彼女は前のボクらを知らない初対面だから、自重しろよ?」
「んぐ。善処するわ。
それよりあんた、その話し方はどうしたのよ?猫被るのやめたの?」
「今は立場のない、気楽な四歳児だもの。いや?」
「似合ってるわよ」
「そか。そういえば……チキンが一匹、来なかった?」
「そうそう。あんたの直前に急に門から来たから、びっくりしたわ」
思い出したように、ダリアが地面に落ちてる帽子を拾い上げ、被る。
そうして、正面の障壁の床辺りを指さした。
あれ?障壁のこっち側に一体落ちてる?
「なんとか避けたんだけどね。そのままぶつかってあの通り」
「そうか……向こうで一匹見かけてね。すぐこっちに逃げて来たんだけど」
「襲われなかったの?」
「いやまったく」
二人で首を傾げる。
「ハイディ」
おっと、ストックが様子見に来た。
「ごめんストック。ダリアも呪いの子だ」
「そうだったか……なにか?」
ダリアが門から顔を出したストックを、引き攣った顔で見ている。
「ヒィ!ラリーアラウンドのストック!?
なんでここにいるのよ!!」
ああ……君は結構、この子と戦ったクチだったっけ。
よく四歳児のお顔を見てわかったな。
ストックも、にやりとすんなし。
「そのストックだ。
前は名前を聞いたことはなかったが、何と呼べば?」
「んん。あー……ダリアでいいわ」
「わかった。よろしくダリア」
「よろしくストック。焼かないでね?」
「ハイディの友達に、そんな失礼な真似はしない」
彼女が門から出て来て、ボクの横に並ぶ。
「ダリア。ボクの大事な人なんだから失礼するなよ?
事情はちゃんと説明するけど、味方だから大丈夫」
「えぇ~……。あんた、女は興味なかったじゃないの」
そういう話は置いとけ。食いつくな。
次の投稿に続きます。




