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19-2.同。~その女、魔女姫と呼ばれ~

~~~~やっと国の端についた。何か、やたら長かったような気がする。

 だからさ。


 なんで行く先々で火急の事態になってるんだよ?



 検問はすぐ終わった。さすが侯爵家の裏書。


 そして南通りの冒険者ギルドに行って、宿をとった。


 五人一緒にしたので、一番大きい部屋になった。豪華。



 一休みしてから、夕暮れの川沿いが気持ちいいという話もあったので。


 そこのほとりにあるダンジョンに、間引き依頼を受けてやってきてみたのだ。


 車両が入れない入り口なのだが、中は広いのだそうだ。森のようになっているらしい。



 その入り口にやってきた。川のほとりに平屋のような建物がある。


 どうも、地上に唐突に入り口があるタイプのダンジョンらしい。


 そこを丸ごとレンガで覆ってしまっているのだ。



 建屋入り口左右には、例によって細長い紙が貼ってある。


 一応、ここを見ればただの建物か、ダンジョン入り口なのかの区別はつくのよね。



 建屋の中に入ればすぐダンジョンだそうだが。


 その外に、ダンジョンから出てきたと思しき冒険者たちが……15人くらいいる。


 皆、切り傷とか、肉を抉られたような傷口を抱えていた。



 危険な状態の人はいなさそうだけど……。



「ミスティ」


「行ってきます」


「ストックは……もう事情聴きに行ったか」


「ハイディ、これはいったい……?」


「異常事態、かな?緊急ではないね」



 マリーが聞いてきたので、答える。


 とはいえ、報せくらいは貴族街に向かっただろう。


 シャドウは魔境防衛を務める都市なので、国防省職員が常駐しているはずだ。



 国防省は、家を継がない貴族の縁者が中心になって所属している行政機関である。


 職員が一番いるのは聖域で、次がシャドウのような魔境防衛都市。


 あとは国境と……国内にちらほらと、かな。



 しばらくすれば、彼らが駆け付けてくれるはず、だが。



「何が違うのだ?」


「魔物が出てたら、皆さん生きてないよメリア。


 魔物ではないけど、何かあった。だから異常事態」


「いや、たぶん魔物だよお嬢ちゃん」



 だいぶ筋肉質の男性冒険者に声をかけられた。


 露出している腕を中心に、かなり切られている。


 ランクは見えないが、タグはブロンズか。



「実際に戦ったのは眷属だけど、奥に魔物がいるということですか?」


「ああ。チキンチキンって知ってるかい?」


「逃げ回るってあの……あ。稀に、反撃に出ることがあるとか」


「そこまで知ってるなら話が早い。今回はたぶんそれだ。


 すごい量の眷属だった」


「聞いたことのある話と合致します……。


 それは、ボクらだとちょっと分が悪いな。


 あまり、多数戦闘が得意な人がいないので」


「できれば、中で頑張ってる嬢ちゃんがいるから、手伝ってやってくれ。


 一人残って、俺たちを逃がしてくれたんだ」


「中で……ああ。でないと外までもう出て来てますもんね。


 わかりました」



 そうか。思ったよりずっと緊急性の高い状況だな。


 話を聞けて良かった。



「ちなみにどんな方でした?」


「10歳くらいだと思うが、すごい魔術師だった」



 ……ん?


 いやいや。


 いやいやいやいや。



 早計というものだ。


 慌てるなハイディ。落ち着け。


 今日マリーに会ったばかりで、それはないだろう。



「まさかそれ、赤い髪で肌が浅黒い、連邦の女ではないか?


 こう、黒衣で広いつばの帽子をかぶって、白と黒の杖を持ってる」


「なんだ知り合いか嬢ちゃんたち?


 連邦かはわからんが、他は合ってる」



 知り合いでした。



「あの子すごかったけど、噂の『魔女姫』じゃ……」


「馬鹿言うなよ、『魔女姫サレス』がなんで王国にいるんだよ」



 他の方もひそひそしている。


 なぜかはわかりませんが、いるのは間違いなさそうです。



 チキンチキンの凶暴化現象は話には聞いたことがある。


 本来なら飛ばない魔物かつ眷属なのだが、それが無数にカッとんでくるのだそうだ。



 そいつ自身は、一つしかない足の鉤爪以外に攻撃方法を持たない。


 だが何せ数が多い。あっという間にダンジョンの外まで出て来て、大変な災害になるらしい。


 それを偶然居合わせ、たった一人で押しとどめている魔術師。



 そんなのがもう一人いたら、ちょっと大事だわ。


 王国の貴族なら別だがね……魔術師には荷が重い事態だろうに。



 しかし彼女でも、この場合は対処が難しいだろう。


 必要なのは、眷属を量産してくる魔物を倒すことなのだ。


 基本的に、チキンチキンは逃げ回るので、これを探して倒すことに困難を伴う。



 なぜここにいるのか、会って確かめたくもある。


 手伝いも、必要だろう。



「ハイディ。行くか」


「うん。行こうメリア」



 ちょうどストックが戻ってきた。



「お帰りストック。


 こっちでもちょっと聞いた。


 中にいるのは……ボクの最後の友達かもしれない」


「む。魔術師がいるとは聞いたが……ダリア、だったか」


「だろうね。入り口をふさいでくれていると見た。


 なら、奥の魔物を倒しに行かないといけない」



 三人で、頷き合う。



「ミスティ」


「行きましょう。こちらの治療は概ね。


 あとは軽傷者だけです」


「マリー。君が頼りだ」


「へ?私?」


「魔物の位置を割り出せるものが、他にいない」


「……わかりました。やりましょう」



 そうして五人で、ダンジョン入り口を囲っている、建屋に入った。


 中にはさらに小さな部屋があり……これは、一人ずつか?


 皆を見渡してから、ボクが扉を開ける。



 人一人がやっと入れそうな、小さなまだらの空間があって――



「っ」



 チキンチキンの眷属が、一体部屋の隅にいた。


 身構えると、そいつはこちらの気づいたのか、慌てて門に戻っていった。


 ……??凶暴化してるんじゃなかったのか?



 今の反応は、幾度か見たことのあるチキンチキンだ。すぐ逃げちゃう。


 ちょっとわけがわからん。


 ……まぁいいか。それより中が心配だ。



「ごめん。ちょっと入り口狭そうだから、ボク一人で様子見てくるよ?


 なんかあったら、すぐ戻る」


「ああ。気をつけてな、ハイディ」



 すぐ後ろのストックに頷き、ボクは門を潜った。

次の投稿に続きます。


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