19.シャドウの街、近郊ダンジョンにて。最後の一人。
――――ダメだ、焦りを禁じ得ない。連続で来るな。自重しろ。
マリーは、サンライトビリオンに乗せた。
以前のメリアのように、後部座席でゆったり過ごしてもらってる。
もうすぐそこがシャドウのはずなので、街道をのんびり運転だ。
マリーは何かとても落ち着かないようなので、シャドウの街についたら運転してみないか?と誘った。
こういう、安定してて長く付き合いたくなるようなクルマは、マリーも好みだ。
そしたらすごく喜んでくれて……なおそわそわが止まらなくなった。
……ん?これ、そわそわしてるのは、もしかして。
「マリー。このクルマとボクのこと、内緒だからね?」
「へ!?ああああいやいやその……ごめん。言わない」
やっぱり。つい調べたのか。
「知ったことまではいいから。好きにして。
ただ不味いなと思ったら、一応言ってくれてもいいよ?
抱えるのは大変でしょう。
ボクのそれは……はっきり言えば、君のよりまずい」
「あ、はい。……その、落ち着いてますね」
んー……そういえば今みたいに「秘密を知られたことを知った」人って、だいたい激昂するらしいとは聞いたな?
前のとき、マリーに。
だから可能な限り、知ったことは喋らないようにしていると。
「君がこっちの隠してることを知っちゃうのには、慣れてる。
その上でまぁ、ボクだけで隠してる話ってわけじゃないし、今のは。
この国の偉い人が知って、差配してる内容だ。
だから大公開はしちゃいけないってこと。
内緒にしてほしいのは、ボクじゃなくて、君向け」
「ん”。わかりました」
そう。ボクじゃなくてマリーが困るんだよね……。
ボクの秘密を勝手に大公開したら、王国は怒る。機密扱いだから。
「……言っては難だが、よくマリーは今も無事だな?
どんな秘密も知られるとわかれば、狙われるでは済まないが」
おっといかん、忘れてた。
ストックに未説明だ。
「ああごめん、失念してた。ストックは知らないか。
予言って言い方が、フェイクなんだよ。
だからストックも、マリーのそれを話しちゃだめだよ?」
ちなみに、メリアは知っている。
ミスティは……心配ないだろう。後で確認はしとくか。
「あー……そういうことか。わかった。言わない。
予言と言われれば、もっとこう不正確な未来のことだと思うしな」
「ん。未来を知る能力で、確実視されているのは精霊の囁きだけだ。
だから聖国、というかマリーを囲ってた枢機卿は、あえて予言と名付けた。
そしてこのことを知る人は、もういないはずだ。
ごめんね、マリー」
「いえ。だから遠慮しなくていい、ってことですね?」
おー。そうそう。頭回るんだよこの人。
検索能力とは、知能に依存するんです!とか、自慢げにいってたしなぁ。
ちゃんとわかっててくれて、ありがたい。
ボクが会ってすぐ、この人の一番の秘密を「本人に知らされた」と言ったのは、まぁそのためということ。
こっちは知ってるから、そちらが知ってしまうのも気にしない、と。
むしろ話すから聞いてこい、と。知りたくないものだって、あるだろうしね。
これがミスティなら、つまり話したいことがあるんじゃな?と気づいて突っ込んでくるんだけど。
さすがにそこまで期待するのは、よろしくない。そこはのんびり行こう。
「そーそー。調子出てきたじゃないか。
いいんだよ図太くって。ボクは嫌いになんてならないよ」
「私が嫌なんです」
「知ってる」
「手強いですねハイディ……」
思わず笑いが漏れる。
隣のストックが、とても楽しそうだ。
マリーはフィリねぇより年上だけど、同じ平民族なので仲が良かった。
フィリねぇもそうなんだけど、あの人は神器やクルマは興味が向かないんだよね……。
ボクの興味はそっちなので、マリーとは話が合った。
「お、午前中飛ばしたから、もう見えてきたね」
「……ほんとだな。シャドウの門だ」
王国西端の都市、シャドウ。元は最前線で、今も魔境防衛の砦を務める。
この国の西端は南北に山脈が伸びており、そこは川もあるためほぼ魔物が来ない。
山脈同士の切れ目のような渓谷だけ通ってくるのだが、その出口にこの街は鎮座している。
なお、北がペリステライト山脈。例の芋穀酒は、ここからもう少し北の方が生産地だったはずだ。
ちなみに南はブルームーンストーン山脈。
こっちはそのほとんどが南西のシルバ領所属だが、シルバは滅んでいて王家直轄地なせいか、あまり話を聞かない山々だ。
その山脈が遠く目に入る。太陽はまだ山頂から遠いところ。
午前中にかなり飛ばしたから、余裕をもってつけたな。
まだ昼下がりってところだ。夕暮れには時間がありそう。
速度出してると馬車とかが来た時に気を遣うんだけど……この旅ではすれ違いも少なくて、楽だった。
「さて、中にまず入って、いつも通りに宿をとる?」
「そうだな。西寄りにもあるが、南の河川港側に行って取ろう」
「何か違うの?」
というか同じ街にギルド支部が二つあるってことか?それ。
聞いたことないな。
「西は魔境用ってとこだ。南はダンジョンがいくつかあるから、普通の冒険者ギルド支部になる。
西だと、マリーは登録を断られる可能性がある」
ははーん。西は噂に聞く、国防直轄のとこか。
ひょっとすると、ドーンへの入場手続きもそっちかも。
「ああ、外国人で、冒険者としての活動実績がないからか」
「ん?冒険者するんですか?お金はもうだいぶあると思いますけど」
「残念ながら、シャドウはあまり遊び惚けられる場所がなくてね。
ドーン入りは手続きが必要だが、その間足止めを食う。
つまり……暇つぶしが要るんだよ」
「暇つぶしにダンジョンですか……悪くないですね」
マリーがちょっとわくわくした顔をしている。
そういや、聖国にはダンジョンないし、王国で入るには冒険者資格が要る。
この人、それはとってなかったからな。路銀どうしてたんだろ。
「そもそも、マリーはダンジョン入ったことないでしょ?」
「そうそう。だから行ってみたいなって」
ストックと顔を見合わせる。
「じゃあ、せっかくだから滞在中に何か所か回ってみるか」
「よし。シャドウでの過ごし方は決まりだね。行こう」
次の投稿に続きます。




