18-4.同。~その女、神に愛されし者~
~~~~やっぱり魔物出すぎでしょう、王国。どうなっとんの。
まずギアを切り替え、右方向へロケットスタート。
素早くレバーを操作、ブレーキ。走行魔力流が消え、車体がつんのめる。
あらためてアクセルを踏んで魔力を溜め――再度ロケットスタート。
黒い車体が、左に向かって砲弾のように跳んだ。
「おおおお!?」
「舌噛むから耐えろストック!がんがん行くぞ!!」
ギアを戻して、アクセルを空ぶかししながら空を行く。
先頭のバンシーバードの肩付近に、底面が接触。頭部を削り取る。
ギアとハンドルを操作し、次へ。
こいつの左後ろから来ていたやつは近すぎる。飛ばして、右後ろ側のやつに向かって、飛ぶ。
少し高かったが、左の肩口から乗り上げるように接触。背中まで僅かに移動しながら上半身を削る。
次は傾きを利用して、やや下方へ。さっき逃したやつは無理なので、その後ろの一体へ。
衝突。ちょっと底面部ががっつり頭部に当たってしまった。
次は無理なので、おとなしく緩めにアクセルを踏み、背中から下半身の方へ。
角度に気をつけつつ、地上に向かって降りる。
地上激突の瞬間、シフトレバーを操作、ギアを後方発進へ。アクセルを強めに踏んで、着地。
走行部魔力流は、出た瞬間にそれなりの衝撃を得られる。
これを利用して、飛んだり跳ねたりすることが可能だ。
着地の衝撃を吸収しつつ、車体を回す。
あと九体か……。なぜか向こうがやる気だから、倒せるとは思う。
ただ正直なところ、手間がかかってめんどい。救援が早くこねぇかなぁ。無理かなぁ。
残りの八体が降下を始める。まっすぐにこちらを目指して――その首やら腹やらに何かが刺さった。
雑木林の端のあたりから、誰かが何かを投げまくってる。
ボクが逃した一体を含め、九体全部に何か……神器の剣やら槍やらが刺さっている。まさか。
雑木林のその人は、ちょっと遠くて見えづらいが、聖国風の外套をまとっている。
徴税隊を含めた、聖国の聖職者が外国を巡るときに、よく着ているものだ。
麻布で質はよくないが、デザインが独特。フードもついていて、その人は目深にかぶっている。
背中には大きな箱――あれは神器ストッカーだ。
そう使われるものではないが、予備の神器を携行するためのもの。
しかも、十数本が入る、大型。
間違いない。あんなもの使ってるのなんて、彼女くらいなものだろう。
魔物たちは驚いたのか、神器の刃が刺さったまま上空へ戻っていく。
うん。剣がぶっすり刺さるくらいじゃ、なんのダメージにもならないからね、魔物。
皮膚を貫通してるのは素直にすごいが、あれでは倒せない。
まぁあの……神に愛されていると言われる人なら、これでいいんだけど。
「オーバードライブ!『魔力 奔流』!!」
刺さったすべての神器が、魔力流を発する。
九体の魔物が、地面に落下してきた。
首や翼が魔力流に巻き込まれ、再生できなくなっている。
ただ待っても暇だ。
両目がつぶれていないやつを、落ちてきた端から轢いて行く。
轢きながら遠めに、その人を見る。
やっぱり。フードから覗くその顔は、間違いない。
およそ半島で唯一、結晶を接触させずに神器を起動させる女。
聖国の予言の子。聖なる使命を果たす、勇者。メアリー。
あの山、コンクパールでのことが脳裏をよぎる。
この人……メアリーこと、マリーの前で神器を使うと、制御権を奪われる。
予言で勝ち筋を知られる前に神器を捨て、最速で近づいて、手刀で心臓を貫いた。
勝つつもりなんて、なかったんだろうなぁ。
本来なら、戦う前から勝負が決まってるクチだもの。
勝つつもりがなかったのは、ボクの方だってそうなんだが。
この人相手に悠長に話なんてしてたんだから、勝つ気なんてなかった。
……戦いたくなんて、なかった。
あの時、最初に来たのは、マリーだった。
話を聞いてくれなくて、泣いて。
覚悟を決めて一息に貫いて――泣いて。
その後も続けて、あんなことになるなんて。
今度は、そうはならないように、したい。是が非でも。
「ストック。悪いんだけど、神器を回収してきてくれる?
ボク、向こう行くわ」
「あー……ひょっとして彼女」
「マリーだ、間違いない。『予言の子メアリー』その人だよ。
聖国の人間兵器……だった子だ」
「そうか」
ストックが降りて、手近な魔物の遺骸に向かっていく。
さて。前のことを覚えているかはわからないが。
話をするとしよう。
次の投稿に続きます。




