18.パールより、王国西端シャドウの街を目指して。友を拾う。
――――予期せぬ出会いがあったからって、焦るものじゃあないさ。
あれからしばらくして。
パールの街を十分に堪能し、ミスティの納車も終わった我々は、王国西端、シャドウの街を目指している。
セキュリティの登録や、些細なオプション変更もしたし、物資の補充も十分だ。
そうそう。忘れていたので多少動きやすい服を、改めて買った。
以前に街で遊んでたときは、ストックがボクをひたすら着せ替え人形にしやがったので、収拾がつかなかったのだ。
相変わらずボクにスカートを履かせることに執念を燃やしていたので、なんとか宥めすかして丈の長いキュロットで妥協させた。
馬に乗る女は王国じゃそういないが、神器車もあるし、様々な理由でキュロットはこの国でも流行ってる。
便利でいいんだけどな。ストックは自分ではスーツ着てたりしてたくせに、何が気に食わんのだ。
まさかめくりたいわけではなかろうな?
今日も快晴。夏の暑い日が続く。
ボクとストックのサンライトビリオンが、街道沿いの平野部を先行。
ミスティが運転し、メリアを助手席に乗せた神器車がそれに続く。
しかし……後ろからついてくる総黄色車は、ちと目に痛い感じだ。
フレームは、あの魔結晶を使ってるからしょうがないとして。
ボディもボックスも、僅かに色味の違う黄色で統一とか。メリアカラー好きすぎだろう。
ふと横を見ると、ボクと同じようにバックミラーを見てたらしいストックと目があった。
今日は珍しく窓の近くではなく、運転席側に寄って座っている。
「……クルマは人の好みがよく出るな」
「そうだね。あと性格かな?ミスティはほんとオープンというか、なんというか」
「まったくだ。隠しもしないな」
とはいえ、別に止めやしないが。
あの話を思えば、好きにやれとは思う。
世界中に刻み付けるまで存分やったら?くらいには応援してる。
そうそう。メリアの体のことがあったので、一応ストックとメリアにもある程度の話はしている。
メリアはやはり、前にミスティに会ったとき、20歳くらいから食が細っていたそうだ。
腹に違和感があり、魔導でも治療できなかった、と。
彼女の体自体は、その時と同じ『カレン』だ。
だがそれ以降、ミスティが気づいていないということは、同じ症状はメリアのときしかでない可能性がある。
できてしまってすぐ負担が生じるものではないので、年次で健診していけばよかろうと結論づけた。
「だが私が振ったのはミスティじゃなく、お前の話だ。ハイディ」
「……この黒いサンライトビリオンが、ボクの趣味だと」
「ほほう。とぼけるのだな」
……くそう。敵わんか。
「君がスーツで使ってた色だよ。
かっこよかったから、格好つけるならこれだと思った」
前の時間。ラリーアラウンドという組織にいたときの、ストックだ。
黒のスーツ姿で戦場に現れた彼女は、すごーくかっこよかった。
それまで知っていた、女公爵リィンジアとのギャップが、ものすごーく刺さった。
その状態で、ボクが敵対していることを知り――苦悶の表情で言葉を絞り出して。
このキリッとした声と喋りでボクを問い詰めて来て。
おかげでボクは結構な乙女モードだったが、無理なからんと思う。
最近のボクの兆候を見るに。
あの時、お互いにもう少し余裕があれば、ボクはすとんと陥落させられていたに違いない。
「お前の中では、かっこいいと言えば私で、格好つけるならクルマでなのか」
「ボク本体じゃかっこつかんだろ?
今はもちろん、あの頃だってちんちくりんでド平坦だぞ」
「……平坦ではなかったと思うが」
「いやいや。顔も体も凹凸なんてなかったって」
「…………」
なぜ黙った。何を思い浮かべている。
ふむ……。
「ストックは女の人、好きなんだよね?」
「なんだ藪から棒に」
「いやさ。結構、妙齢の女性に視線が行ってるじゃないか」
バツが悪そうにしている。
別に目が行くのはいいと思うんだけどな?
それとも、こないだの共同浴場を思い出してるのかね。うん?
「……美人に視線が行くのは、特に不自然なことではないと思うが」
「気持ちはわかるけど、ボクがそうなるのは男性相手だな」
うん。気持ちは分かる。
視線が吸い寄せられるもんね。
今日もきれいだね。ストック。
「……そんなに私は目線を奪われてるか?」
「うん。今だからよくわかるけど」
「……………………なんだ」
「ボクのこと、めっちゃ見てたよね」
「…………さぁ、どうだったかな」
ほほう。とぼけるのかね。
「着替えをガン見されてるのは、そういうことだったんだねぇ」
「…………」
これは最近のことでもあるし、学園でのことでもある。
学園のときは、ストックの前で着替えることはそうなかったから、印象にも残ってる。
最近の方は、例の共同浴場のときと、あとは毎朝だな。
部屋にはだいたい脱衣所ついてるから、風呂の時は見られない。
「ボク、貧相な方だと思うけど?」
「腰のくびれから尻、太ももまでのラインが完璧で素晴らしかった」
「…………」
「…………」
なぜ白状した。
「ストック。こっち見て」
「ん?」
目線が来たので、左手でちょっと上衣の裾を上げて見せる。
ストックが吹いて目を逸らした。
「今のボクに興奮すんのはどうなん。大丈夫なの?」
「…………最初っからそのつもりで聞いていたのか」
「さぁ、何のことかな」
「とぼけおって……降参だ。
お前が思ってる通り、私はずっとハイディに目を奪われてるよ」
「ボクなら何でもいいんだな。まさか幼児でもガン見されるとは思わなかった」
ボクが掘り下げたいのはつまり、ストックが同性愛者なのか、ボクと同じ感じなのか、のところだ。
ボクから見るとストックは、同性愛者だ。
ボクを含む女性には興味を示す。男性に対しては、そうでもなさそう。
ただ、今のボクに興味を示す、というところが……引っかかってて。
成長したら嫌われるとか。そういうのはしんどいなぁ、と。
まぁ学園の頃のことを思い出しても、そりゃねぇとは思うんだけどね。
こういうのは自認が大事だし、まず聞いてはおきたい。
次の投稿に続きます。




