17-2.同。~魔道具、そして神器とは~
~~~~確かにメリアなら傷なんてつかない。それはともかく同乗者に配慮はしろ。
この問題はちょっと深めの話で……魔道具と、神器とはという話から入らなくてはならない。
まずは魔道具。魔導のうち、主に魔術を道具で実現するものについてだ。
魔道具は、人間の代わりに道具で魔導を起動する、という仕組みだ。
魔力を注ぎ、あらかじめ決められている魔導を起動する。
使われるのは魔術が多いが、精霊魔法や法術の魔道具も存在する。
ただ、魔道具に使われれる工材が、強い魔力の伝導に耐えられない。
繊細なんだよね。
そのため、内部に魔力を整調する機構が入っている。弱い波長に抑えているのだ。
そしてこの機構のせいで……どうしても攻撃魔導の発動に至らない。
攻撃魔導の発動には荒い感じの魔力が必要で、魔道具はこれに向いてないということだ。
この問題を突破し、攻撃性魔道具を開発するというのは、魔道具界隈では長年のテーマだ。
誰でも使える魔導武器は、対魔物戦略を大きく変える、人類待望の発明の一つ。
その研究過程で生まれたのが、神器。
工材が魔力の伝導に耐えられないなら、外を流してしまえば?というあり得ない発想で誕生した。
ところがこの外側の流れを作るのに、どうしても機構の外に力の起点が必要だった。
内側から流し始めると、外に出す前に機構が壊れてしまう。
この外側の力の起点として採用されたのが、人間にできた魔結晶。
そこに至ったのは偶然の産物だったらしいが、そうして神器は完成した。
いざ魔力を工材の外側に流して見ると、不思議な流れを作った。これが魔力流。
「魔力」流とはいうが、この流れからは魔力が検出されなかった。緑の光なのに。
そして当然に、魔力流からは、魔導を起動することもできなかった。
ただこの流れの内側に、流れの発生に使われた残りの魔力が滞留しており、これで魔導が起動できた。
ただしこの魔力を使って攻撃魔導を起動した場合も、やはり工材を大きく傷つけた。
繊細なものは破壊してしまうし、耐久性の高いものでも激しく損耗する。
魔道具と違うのは、起動まではできた、ということだ。
損耗はするが、使える。
しかも魔力流が、魔物に対する必殺性を帯びていることが発見されると、この新しい魔道具は爆発的に広まった。
最初は剣や槍。
そして一足飛びに車両――神器車が発明されると、さらに世界が広がる。
車両は大型化し、ついには陸船、都市にまでなった。
魔導師以上に限られた人しか扱えないものの、神器は半島人類の在り様を大きく変えた。
河川に囲まれたところ以外に、人が魔物に怯えなくていい場所が、できたのだ。
しかも長年の研究により、ダンジョンの入り口ができないこともはっきりしている。
聖域や神器船の上は、本当に安全なんだ。魔物からは。
そんな神器における、攻撃魔導発生機構のことを、俗に超過駆動――オーバードライブという。
一度使用すると、安物だと神器そのものが壊れてしまう。
たいがいのものはある程度頑丈に作られているので、しばらくすると再使用が可能になる。
このオーバードライブ、一見するとデメリットが大きいが、いくつかのメリットからよく使われる代物だ。
まずそもそも、神器の機構全てに言えることだが、魔力を使用しない。
結晶と神器の間で魔素から魔力を発生させるので、魔力の少ない平民でも使える。
魔結晶の中にあるエネルギー……結晶力とか、結晶出力とか言われるものが、別に必要だけど。
結晶出力は時間が経てば回復するし、魔力と違って制御も要らない。
魔結晶さえできいれば、神器の機能は基本的に誰でも十全に扱える。
まぁ出した魔導は別途制御が要るけどね?下手だと、狙ったところに当てられない。
あとの利点としては、単純に威力が大きい。
貴族の使う戦術魔術に匹敵する。
王国貴族の精霊魔法や、聖国貴族の法術には及ばないけど。
ボクやストックでも使えるんだよねぇ。
使いすぎると、本来結晶化しない魔力なしのボクらでも、魔結晶化が進むけど。
この点も、超過駆動のデメリットか。普通の人だと、どんどん石になっちゃう。
で、だね。
先の超過駆動のデメリットのうち。
「超過駆動すると破損または冷却期間が必要で、連続使用できない」のが、ミスティの言う問題点だ。
「そんなことないんだよミスティ。結局オーバードライブ。超過駆動だよ?
神器の当初コンセプト通り、魔道具に攻撃性魔術を行使させる、という本来のテーマにはまだ遠い。
神器超過駆動による魔導起動が担保してくれるのは、魔力だけ。術の行使は使用者依存だ」
「あー……。使用者が限られるから、汎用性は薄いし、需要が狭すぎると……」
「そうそう」
ただこれを解消したところで、神器の使用者はそもそも少ないし、超過駆動で起動する魔導の制御は使用者がやる必要がある。
さっきも言及した通りだが、魔導そのものを別途本人が使える、くらいじゃないとうまく扱えない。
なおボクとストックは、魔力はないのに魔導はうまく使える、という異端児だ。
超過駆動を実験で使いすぎた。面白くてつい。
「だが大事な一歩だ。
これが実現すれば、神器の使い手が魔導師と名乗れる日もくるかもしれんぞ?」
「そら飛躍だよストック。当分は『神器車乗りが魔導師を名乗れるかも』どまりでしょ」
「……小型化といっても、車載くらいということですか?」
そう。神器車という、ある種の最小の大型神器動力機構があるから、そこまでは同じ技術で小型化できる。
これを携行神器サイズまで落としたかったら、別のブレイクスルーが要るだろう。
「そゆこと。ああでも、通常の重量武器より重い程度だから、魔素制御の達人なら使えるかも?
そんな武人は、そこまでするなら接近戦を普通にやるとは思うけどね」
「デッドウェイトにしかならんな。元より、過剰なくらいパワー重視の戦士なら別かもしれん」
「ふむ。作るならいっそ、そっちもやってみようか。めっちゃ重いけど、ギリギリ振り回せるくらいのやつ」
「誰が使うんだそんなの」
「ボクが使う。重いだけなら、貨物車乗り回すより楽だろう」
なんかめっちゃ引かれた。
なんでや。
次の投稿に続きます。




