17.パール、神器車店を経て。
――――重い女と面倒臭い女、クルマの趣味が合うはずもなく。
なんてこった。
ミスティはもう駄目だった。
「なぜこんなうっすい魔石を選ぼうとしている!理由を言え、ミスティ!」
「改造するからですよ!決まってるじゃないですか!」
「ダメに決まってるだろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
明けて翌日。神器車屋にやってきて。
資料を見せてもらって、いくらか話をした後。
こちら側の相談をするかとなって、いったん部屋まで戻ってきた。
そしてミスティの神器車のガワを選ぶ段になって、それは発覚した。
こいつ、もう車両戦中毒を患っていやがる……!
選ぶ魔石がことごとくボロや装甲薄いのだったので、ボクが激怒した。
ヒートアップするボクらを、ストックとメリアが楽しそうに見ている。
ボトル片手にスナックを食べながら、観戦の構えだ。
「なんで改造しちゃいけないんですか!?」
「同乗者の安全を考えろ!」
「メリアが傷つくわけないじゃないですか!」
「だからって踏まれたら壊れるような石材選ぶんじゃねぇ!!」
「踏まれなきゃいいじゃないですか!」
「おう、それはボク並みに運転できてから言えや!」
「ほほーう?ずいぶん自信があるんですねハイディ。私の華麗なドラ……」
「『ドリフトとウィリーとジャンプを駆使して、魔物の顔面を当たり前のように削りおる』」
ボクとミスティがストックを見る。
「先日、メリアが言った、ハイディの運転技術評価だ」
ボクとミスティがメリアを見る。
「だいぶ控えめに言った」
ミスティがボクを見た。
「へ、変態……!」
「そこで切るな!もうちょっとなんか言え!!」
「ほかにどう言えって言うんですか。
え、魔物の頭って結構高いですよ?
どうやったら魔力流で轢けるの?
こわ……」
めっちゃ引かれた。
ボクもちょっと冷静になった。
なお、走行部の魔力流じゃなくても、ボディやフレームを当てても大丈夫だ。
ボクはその後が楽だから、主に底面使って轢いてるだけ。
ただ、魔物の頭は通常、そんな低い位置にないし――避けられる。
とはいえ、変態はまだ遠いんじゃないかな?
ボクの師なら、林のグレイウルフは全滅させていただろう。
わかっていようとも避けられない、そんな迫り方をするはずだ。
「だから長めのアームをつけて、神器で斬ろうって理屈は分かる。
だが、最初に車体に穴を開け始めた連中はどうかしてる。
君だって、車両戦がしたいんであって、改造は手段だろ?」
「まぁそうですけど。好きでボロにしてたわけじゃないですし」
「ちょっといいか、二人とも」
ストックが割り込んできた。
「車載神器を取り付ける、ことが必要なことか?」
「いえ、車両で戦って魔物を倒せることです」
「アームで斬る、そのアクションは必須か?」
「必須、ではないですね……それ以外にないですよね?」
「そこは置いておけ。必須ではないんだな」
ストックがにやりとしやがった。
こいつ、あれをやる気か……。
思わず肩をすくめる。
「そもミスティは接近戦苦手だし。魔導の方が得意でしょ?」
「それはまぁそうです。でもそれを常用するのは、現実的じゃないでしょ?」
一応、何をさせたいかは伝わったようだ。
常用が現実的ならいい、というわけだな。趣味の範疇としては、問題ないと。
ストックが、我が意を得たりといったように、とても得意げだ。
学園の頃に一緒に取り組んでたあれ、そんなにまたやりたいのか。こやつ。
「机上検証は終わってるんだよミスティ。
……予算額が現実的じゃなくて、そこまでする必要がなかっただけで」
「それなら高額なくらいに抑えたさ。今ないのは、設備だけだ」
なんですと?
「え。あれからも検討してたんか?ストック」
「もちろん。お前となら……夢のような逸品が作れると思ったからな」
照れちゃうから、今そういうこと言うなし……。
「えっと。オーバードライブの問題点が、解消できたんですか?ひょっとして」
「ああ。単純な話だった。スター型の聖域制御構造があるだろう?
あれを小型化すればいいだけだった」
「そして今までは、その小型化の手段を誰も思いつかなかった。
学園にいたとき、ストックが思いついて、ボクと一緒に検証したんだよ。
ただ必要性が薄い話だったし、出せそうな予算額と出してみた見積もり金額が合わなかった」
「いやいやいやいや。あれの問題をなんとかできるなら、世紀の発明じゃないですか!?」
そうでもないんだけどねぇ。
次の投稿に続きます。




