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16-5.同。~重たい女の独白~

~~~~ただただ自分の考えを述べるのは、性に合わない。やっぱりアルコール入れない?


「……よければ、聞かせて?」



 ミスティは頷き、グラスの中身をあおった。


 近くを通った給仕の人に、別の果実のものを頼んでおく。


 ちょっと気持ちが落ち着くように、さっぱりするやつにしておいた。



「メリアと初めて会ったのは、この街。彼女の誘拐事件にかかわって、そのときです」



 なるほど。そこは同じなのか。


 でも、今回みたいに包囲を敷いたわけじゃなかろ?


 その時はどうだったんだろう。



「君はどうかかわったの?」


「大したことをしたわけじゃ、ないです。


 ただ偶然、あの子が捕まっているところを突き止め、助けました」



 おおごとやんけ。



「その場はそれっきり。彼女は帝国に帰って。


 その後、たびたび……私が行く先々で会ったりすることがあって。


 魔都の神殿に、行って。『ウィスタリア』さんに会って」


「そこにメリアもいて、君は神殿経由で学園の講師になったと」



 帝国から魔道具科に入ってきたメリア。彼女は初等部からいたはずだ。



 ミスティは……前回の時は、魔都に来てオーナーと知り合った。


 そこで、当時はまだ魔境航行をしていなかった、クレッセントに所属。


 いろいろあって、エングレイブ王立魔導学園の講師になっていた。



 もともと講師資格自体は持っていて、それで学園に行ってもらった、という経緯だったはず。


 同じとは限らないけど、近い流れだと想像する。



「はい。相変わらず、たびたび会うんですけど、それだけで。


 『ウィスタリア』さんが出奔して……魔物災害が起きて。


 私たちは災害の鎮圧に奔走して。


 その後は、メリアは国元に帰りました。


 ただ……皇位継承の争いには破れ、西方の辺境に送られて」



 良い感じに記憶をたどっているようなので、邪魔をせず聞き続ける。



「私は鎮圧に奔走したときのことがきっかけで、いろんなところへ行くようになりました。


 それまでの人生では、冒険といっても多少のことしかしてなくて。


 ただあの時は、半島の外まで足を延ばすこともあって。


 ところがあるとき、帰るところがないのに気づいたんです。


 王国も、神殿もないので」


「それで、帝国のメリアのところに足が向いたの?」


「お邪魔かなー?って思ったんですけどね。彼女もいい年のはずでしたし。


 ちょっと寄るくらいのつもりだったんです。西にも行ってみたかったので。


 一応手紙を出してから、尋ねました。


 手紙より、たぶん私はひと月遅れくらいで着いて。


 出迎えてくれたメリアは、今の私よりも年上の彼女は……とても可憐な人になっていました。


 着る物も装飾もお化粧も、貴族としては最低限で。


 前に見たときより、少し瘦せていて。


 でも……とても、綺麗でした」



 ……そりゃあそうだろう。


 きっと、恋する乙女の顔だったんだろうから。


 手紙がついてから、毎日ずっと待っていたんだろうな。



「彼女は、一人で住んでいました。


 元は皇女だけど、資産は最低限。


 人を雇えるほどのものもなくて。


 ただ、監視のような人がいるくらいで」



 本人は頑丈で十分以上に強い。何かしようとしても、並みの魔導師では傷つけることすらできない。


 これはゲームの『カレン・クレードル』にもある特性だから、当時のメリアも持っていただろう。


 護衛が要らないのは幸いといったところか。



 そういえば前回のメリアは、割と一人で何でもできる皇女だった。


 金銭感覚といい、その時の経験があるからなのかもしれないな。



「持て成そうとするのを思わず止めて、私が思わず手持ちのものをお土産だと言って持て成したくらいでした。


 でもお茶だけは……彼女が淹れるものに絶対敵いませんでした。


 他の『カレン』はそんなことないんですけど」


「彼女のお茶は絶品だね。なんかコツがあるんだろう」


「ええ。その後はまた私は西に東に、冒険に出て。


 旅先から手紙を出したり、冒険から戻ったら彼女のところに寄って。


 彼女はいつも一人でした――最後まで」



 新しく来たグラスを、ミスティがあおる。



「私、結構健康なほうみたいで。結婚もせず、おばあちゃんになっても冒険してたんです。


 むしろ、あの人生こそ<ミスティ>が唯一冒険家だったときだと、私は思っています。


 メリアは私以上に健やかに見えました。いついっても元気で、笑顔で、一人で。


 でも、あるとき行ったら――もう彼女は冷たくなっていました。


 私が雨で一日遅れて、その、間に。食べ物が、もう、なくて」



 ミスティが、涙を拭いて、前を向く。



「彼女の遺体を弔ったあと、結晶が残ったんです。あの黄金の結晶。


 それから――手記を、見てしまって」



 半島では、魔導師がまったくいないようなところでもない限り、火葬だ。


 彼女たちが出会った時代も、結晶が残った、ということはそうだろう。


 ミスティは魔導師だしね。



「手記の内容は、他愛もないことが多かったです。


 でも、手紙の束が一緒になっていて。


 手紙がついてから……私の辿り着く日まで、いろいろと。


 内容は、省きますが。私は枯れるまで泣いてから。


 手記と結晶をもって、メリアと同じ墓に入り、身を焼きました」



 …………お前の墓になるってやつ、流行ってんの?


「あとはメリアを探して……どのくらい繰り返しましたっけね。


 もう、覚えていません」


「ふーん。やっぱり重い女だね、メリアも」


「…………今、私の話をしましたよね?」



 ミスティの目を見る。


 少し涙に濡れていて……目が曇ってるってやつかな、これは。


 そういえばこの人は、推理は得意だが、自分の周りのことには結構鈍感だった。



 ミスティが重くないとは言わんが。


 ボクは最期までミスティを待った、彼女の在り様の方が、胸に来た。



「想像でしかないけどさ。うれしかったんじゃないの?君の存在が。


 もう居場所しか持っていない自分に。


 君は待ってさえいれば、必ず会いに来てくれるんだから」


「!」


 重たい女のもう一人が、息を呑んだ。


次投稿をもって、本話は完了です。


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