16-4.同。~面倒臭い女は、己の性を告白する~
~~~~君がずっとボクを見ていてくれるから。ついにボクは……君の方を、向いてしまった。
「ボクはね、ミスティ。そのためにストックの側にべったりいるつもりだよ。
その上で自分にも、彼女にも、互いを選ぶという選択を迫り続ける」
一つは、そばに居続けること。物理的に。その努力は怠ってはならないと思う。
もう一つは、相手といたいという意思を、選択の連続で作り続けること。
「そんなに愛をささやきあってるんですか……」
「いや?」
「は?」
まったくやってないのも確かだけど、まぁそういう話ではなく。
「それじゃ現状確認だろ。選択じゃない」
ジョッキの中身をあおる。
気持ちの確認は、大変結構。ただその先が必要だろう。
好きだからそばにいて、と言って。それを他人が聞いてくれるだろうか。
好きだからそばにいる、と思って。それが自分を鼓舞してくれるだろうか。
好きだからそばにいたい、ならどうすればいい?そう自ら問うて答えを出してこそ、先が続くのではなかろうか。
「続けなければならないのは、選択。配った札から、互いだけを選び続ける」
まだ戸惑いは抜けないけれど。
君を受け入れ、思う気持ちに、間違いがない以上。
それがどんなに、ボクの在り様に逆らうものだろうとも。
ボクは君を選び続けるよ。ストック。
「ふーん。それ、相手に自分を選択させるのに、どんないかさまをするんですか?」
そこで人を見て、にやりとするなし。
「当然、ストックに配る札の全部がボクなら、ボクしか見ないだろ?」
「ひどい手ですね。私好みですが。
でも互いしか見えない状況にしてしまっては、依存し合ってしまうのでは?」
おや、思ってもみない方向に話が跳んだ。
「んー……依存の話は難しいが、程度問題だしなぁ。
そも、パートナーの選択を埋め尽くすだけで、閉じ込めたりするわけじゃないんだそ?」
「なぁんだ。ハイディ、もっとえぐい趣味かと思いました」
なんやとこら。どこ見てそう思ったし。
まったく。じゃあお望み通り、えぐいこと言ったらぁ。
「ボクは、ストックがいなければ生きて行くつもりはない。
ストックもまたそうだと、様子を見ていて確信を抱いている。
ボクらなんて、そんな程度だよ」
「程度、ではないでしょう……」
引いてら。望みの注文だろうに。
「君だって、その点はどうなんだ?
精霊に罰せられそう、なんだろう?
メリア五歳だぞ。その執着の仕方は、依存ではないのか?」
エールをミスティがあおる。
そして給仕の人を呼び止めて、果実水を頼んだ。
「いいえ。もしそれが依存なら、私は今ここでお酒を飲んでいません。
彼女に依存しているなら……国の外に浚って。
もう戻れなくてもいいからと、求めたでしょう」
「ボクだってそうだ。互いの関係を壊したくないから、ここに来てるんだよ」
「手は出さないのに?」
さっきの寝床の自分を、少し思い出す。
「誘惑しそうなんだよ」
ミスティがむせた。なんだよ。
幼児の体じゃ、それは無理だってか?
まぁボクも、常識で考えりゃそうだと思うよ。
でもボクはその気なら、手段を尽くしてストックを篭絡して見せるだろう。
「そしてそうすれば、ストックはすぐにでも押し倒すと思うよ?
でもそれはダメ。ボクの望みを、彼女が叶えるという形は納得しない。
彼女がボクを望むことに、ボクは魅入られてるんだよ」
一つ一つ、思い出し、整理していく。
ストックの言によれば。
ボクが――閃光のように、彼女の人生に割って入って止めたことが、彼女を魅了している。
ボクの隣でボクの生き様を見るストックは、確かに本当に幸せそうだ。
ボクが同じように、ストックの何かに魅入られたとしたら。
コンクパールにやってきた、彼女の炎のような情熱の瞳だ。
今も時折、同じ目でボクを見る。ボクを求める、綺麗な瞳。
あの目が、たまらない。
まぁそれとボクを陥落させた何かは、また違うと思うんだけどねぇ。
「最っ高にめんどくさい女ですね、ハイディ」
「たぶんだけど、これがストック好みなんだよ。自分でも信じられんが。
君らみたいに、重たいけど素直な関係じゃないんだよ」
「んむ、私はともかく、メリアもですか……?」
「あの子は飾らない態度だけど、主張はすごい控えめだ。
そのメリアが君の手をつないで離さないとか、よっぽどだよ。
人目に晒されてもそうしてたんだからね。
君のこと、絶対誰にも渡さないって思ってるよ」
酔っても赤くならないミスティが、茹でられたようになってる。
ミスティは冒険家気質が強いが、メリアはあれでちゃんと皇女なのだ。
人前ではきちんと猫を被る。最近外でもかなり砕けてるのは、平民服と皇女辞める宣言のせいだろうな。
「何をしたらあの皇女を、あんなにも蕩かせるのさ?ミスティ」
「私は……」
目の前の果実水のグラスを、ミスティが弄んでいる。
言いづらそうというより、言葉を選んでいるようだ。
「何も、しなかったんです」
次の投稿に続きます。




