16-3.同。~面倒臭い女の自白~
~~~~友達同士だからボクは構わないが、幼児といい大人がしていい話ではない。部屋飲みにするんだったか?
あの山からこれまでの記憶を、緩く想起する。
瞳が仄かに蒼くなる。
少しずつ、自分の心の移り変わりをなぞっていく。
「君ら六人を斬った後に、ストックが来た。
ボクを殺しに来たのかと思ったら……ただ会いに来ただけだった。
大量の魔物の中を突っ切って。石になりかけながら。
ボクがもう結晶化から免れないと見たら『墓標になる』とか言ってね。
寄り添って、二人で石になったよ」
「ロマンチックが過ぎませんかね????」
そうだろう、そうだろう。わかるかね。
まぁこの時点までなら、そう。親しき友に心を救われた、だ。
それはそれで、ボクは今生を君のために使うくらいのつもりだったけど。
君の救いに、応えて見せるつもりだった、けど。
「しかもボクはその後、呪いの子の逆行で戻ってきてさ。
ボクだけかと思ったら、偶然会ったリィンジア・ロイドはストックで。
『唇でも奪ってやろうと思っていたのに、その前に石になられた。
未練のあまり、気づいたら赤子に戻っていた』とか言いおった」
向こうは下心ありありだった。
しかもボクはそれを……受け入れた。
ボクがどうにもおかしくなってしまったのは、やっぱりあの言葉を聞いたあたり、からだ。
その前は、ストックとの再会が嬉しいやら、すぐ離れることになるのが悔しいやらで悶々としてたくらいだし。
特別な感情の動きは……なかったと、思う。
「えぇ~……。ストックの何がそこまでさせたんでしょうね」
ほんとにね。
ボクとしては、特別なことをした覚えはない。
だがその何かが、深く彼女の心に刺さったのだろう。
「ボクが彼女……たちを止めたとき。救われた、らしいよ。
まぁ今にして思うと、元々結構好まれてたのかもしれないね?」
ちょっと濁したのは、ミスティにはまだラリーアラウンドのことを話していないからだ。
あの王都のことは、ここで語るにはちょっと血生臭すぎる。
けど詳細はおいおい、共有していかないとな。
「で、ハイディも陥落させられたと」
陥落とは。
まぁ……違いない。
「そ。おかげでボクの心はずたずただよ」
自分の変化が、あり得ない。前のボクじゃ考えられない心の動きだ。
しかもそれが、嫌じゃない。
完全に無自覚なうちに、キスはもちろん、結婚すら拒まず通した。
手も、何度も繋いでいる。というか、最初は自分から求めた、くらいで。
肌を寄せあえるほどそばにいるのも、恥ずかしい、けど。受け入れている。
将来、体を、求められたら……きっと。
一つ一つ思い返し。あるいは想像すると……はっきりしてくる。
ボクは彼女に望まれ、受け入れることに、仄かな悦びすら覚えている。
なのに、まだ踏み込んだことまではされていない。
愛を囁かれたわけでもない。
口づけを落とされたわけでもない。
ボクが10年先だって言ったから、君は律儀にそれを守る気なんだね?
10年。この、まま。
ああ、ストック――――
「ストックになら――何をされてもいい」
少し二人、言葉が止まる。
……………………あれ?
今ボク、何て言った?
なにを、されても??
発した言葉を心でなぞると、背筋を甘い震えが駆け登った。
これは、まずい……自覚しちゃ、いけない奴では。
「…………その顔で性欲の心配なんて、必要ないと思いますよ?」
「そんなかボク……」
いや、その。顔の自覚はあるけどね?ダメな感じに緩んでる。
今の呟きは、その。そこまで重症なのか、というか。
こんなになってるなら、そりゃ一緒になんて寝れないよ……。
「そうですよ。ほんと、それで何で押し倒さないんです?」
さてはミスティ、酔ってきただろう?そうだろう?
こやつ、幼児と話してるって忘れすぎじゃないか?
まぁあんまり、ボクの外見が気になってないんだろうけど。
最初の印象が、結構アレだったろうからねぇ。
ボクはジョッキの中身をもう少し飲んで――辛さを味わって。
しばしゆっくり息をして、気持ちを落ち着けた。
自覚した以上、向き合おう。
何でここまでなっちゃったの?ってのは、まぁまた考えるとして。
気持ちを前に。
言葉に出して。
彼女に、向かっていこう。
「ボクの欲望はあくまで、ストックに『されたい』方。
自分から行くのは趣味じゃない」
第一声がアレな発言なのは許してほしい。話の流れというやつだ。
「そんなこと言ってると、取られちゃいますよ?ストック、美人ですし」
「何言ってるんだ。それしきでとられるんなら、押し倒したって同じじゃないか。
ボクはよくは知らないが、抱いた抱かれたで一生ものになってくれるもんなのか?」
「私も自分ではよく知りませんが、そういうものではないみたいですね」
経験のない身で言うので恐縮だが。
欲で人間を支配するのは、無理だと思う。
そして気持ちでも。ただの感情は、簡単に揺れ動く。
だが、意思を変えられたらダメだ、と考えている。
自らの意思による選択の連続が、個を作っていく。
意思を弱くし、選択を迫り続けることで、人を変え、支配することは、おそらくできる。
だからボクが考えるに。取られたくなければ、本当にするべきなのは二つ。
次の投稿に続きます。




