15-6.同。~その力と、対策を語る~
~~~~メリアはその。ちょっと。なんでそんなにボク推しなの?
「それ……えっと、ハイディも『ウィスタリア』さんと一緒で、出奔したんですよね?」
「したね。19の前くらいに船を降りたよ」
「クレッセントは沈んだのでは……?」
「そんな雑な仕事はしない。
引き継ぎもしたし、ボクのやってたことは誰でもできるように整備した。
いつ死んじゃうかわからないんだから、そのくらいはやるよ」
「私はその後は『カレン』として行動していたが、特に問題はなかった。
ハイディがいないだけで、ハイディがいた頃のようには過ごせていたよ」
「そりゃよかった。働いた甲斐があったね」
王国貴族ですら、魔物と戦って亡くなったりする。
クレッセントの船員は弱くはないが、王国貴族ほど強大ではない。
亡くなった人も、少なくなかった。だから自分が死んだ場合は、常に考慮していた。
ボクは言っちゃなんだが、そんな強い方ではない。
代償を払って大きな力を得るのは、強いとは言わんからね。
「その、ハイディ。今ならばともかく、その時って人生一回目ですよね?
どうやってそこまで……」
「ミスティ。魔素制御は知ってるね?」
「ええ、それはまぁ」
「あれね、ここにも使えるんだよ」
頭をとんとんと指で差す。
……三人がめっちゃ引いてる。
「誰かに教わったんですか?」
「魔素制御を習った時、ボクから制御法を教えたやつがいてね。
そいつが思いついて、一緒にやった」
1を知ると、取り込んでから何か加えて、二乗にして返してくるようなやつだった。
ボクの戦い方、立ち回りはそいつにだいぶ影響を受けている。
……結晶になって死ぬところまで真似る気は、なかったんだけどな。
「神経速度って限界があるはずですよ……?」
「神経網は信じられないくらいの数があるよ」
「えぇ~……」
頭の回転の速さは、上げられる限界がある。
でも情報処理という範疇でなら、その限界はずっとずっと先になる。
「天才、ではなく超人という感じよな、ハイディは」
「超人はどうかと思うが、そうだね。才能ないし。
閃かないから、無数の計算で答えを出す感じだ」
コンピューターだっけか?あんな感じかなぁ。
お、ひょっとしてだからエリアル様は、ボクに雷光の武を授けたのか?
この脳の魔素制御の先に、至れるようにと。
あの人が、何となく物事を選択するわけがないからな……。
きっとそうなんだろう。
「話を戻すがハイディ。
神主が『役』を押し付けてる。それで合ってるか?」
おっと、話がそれ過ぎていたか。
メリアが熱弁してくれるから、つい。
「だろうね。だから本人の資質によらず、人に好かれる。
『クルーに好かれる神主』を演じつつ、『神主と親しい誰か』の役を押し付ける。
そんな印象だったから、ミスティはメリア……というかカレンを近づけなかったんでしょ?」
「ええ、そうです。こう、洗脳に近いものを感じましたから」
魔導光が出てなかったから、そういうのではないんだけど。
ゲーム由来の不思議な力?みたいなのが、また別にあるのかな。
呪い、のような。
「ミスティは大丈夫だったのか?」
「ええストック。私は『名前』がありました。
神主は役の名前しか呼びません。あと……」
「そのために、精霊が使えるの内緒にしてるんでしょ」
「ぐ。言わないでくださいよ?」
「ボクが神器生成できるのも秘密ね」
「それは重大さが違います。絶対喋りません」
まぁそうよな。無から神器を生める人間とか、さすがにばれると紛争モノだ。
おまけに、ボクは研究であらゆる神器構造を知っている。
たいがいのものは作れてしまう。
「精霊がいれば、役に抵抗できる、のか。名前と同じ原理か」
「あともう一つある。だからここの四人は、ある程度は大丈夫。
ミスティがコンクパールに行かされてるから、絶対ではないけどね」
メリアが『カレン』の行動から外れたのは、あの林で再会したときから。
ならばそれが、役に対する決定的な武器になるはずだ。
「む?あれか?ミスティも取り込んでいるのか?」
「取り込んでいるってどういう……」
「ミスティはどうやってか、ずっと持ってるんだよ。
かつてメリアがなった、結晶を」
神器車に使っていた核結晶。
最初に出会った子、と言っていた。
比喩ではなく、そのままの意味なんだろう。
どうやって周回を持ちこしているかは……どっかわかるところに埋めてるのかな。
あと、あれを持ってるにも関わらずコンクパールに来ちゃったのは……本人の結晶じゃないからかな?
「は?結晶は魔素に戻るんじゃろ??」
「色付きは戻らない、と見える。合ってる?ミスティ」
「ええ。合っています。ずっと一緒でした」
ミスティが懐から、一つの結晶を出す。
黄色、あるいは黄金の丸い石。
神器車の核結晶としては非常に小さいが……力は強そうだ。
「ああ。確かに私が膝でつぶしたのもこういう色だったな」
メリアが裾をちょっとめくり、右足を出す。
脛のところが、少し黄色に見える。
引き合うように……石と彼女の脚が仄かに光る。
「そうか。ずっと一緒にいてくれたんだな。ミスティ」
「はい。これからも、一緒です」
……当てられそうです。
というか君たち、歳を考えろ歳を。自重しろ。
次投稿をもって、本話は完了です。




