15-5.同。~敵と、その印象を語る~
~~~~押し付けるつもりはないんだが……やる気になってくれたようで、何よりだ。ミスティ。
敵。
これはボクにとっても、核心となる話だ。
友を追い立てる者。破滅の最期を強要する何か。
「いる。二種類だ。この螺旋循環阻止に反対するところと、本質的にボクらの敵であるものと。
前者のうち一つは、クレッセントっていう神器船かつ組織だ。この時間の流れでできるはず。
魔都で作られ――神殿を中軸にした組織だよ」
「…………初耳、ですね」
「あ、そういえば他の『カレン』の記憶にはなかったな。あの船」
ゲームで「神殿」と呼ばれる本拠は、魔都に実際にある。
通称なんだけど、都市の名前なんだよね。
本来はそっちで、前の時間だけ神器船なんだろう。
「クレッセントは途中から『人魔拮抗論』というテーマを遵守する集団になった。
これは半島の現状維持・環境肯定を旨とするものだ。
魔境拡大からの恒久平和とは、真っ向から対立する。
だから真っ当にやろうとすると、こいつらが反発し、仕掛けてくる」
「秘密裏にやらず、堂々と平和的に行おうとすると……敵対する、と」
「そゆこと。
ボクはかつて、強引な手段をとった。
一人だったし、ボク一人で穏便にこれを為す方法が思いつかなかったからだ。
もしもう一度やるのであれば、人に顔向けできなくなるような手段は、取りたくない」
まぁボクの戦略目標は、もう一方の敵の対処だ。
魔界拡大と螺旋循環の解体は、主題ではない。
これは何度も人生を繰り返してる、ミスティこそ当事者だ。
「そちらについては、わかりました。いっそ大々的に動いたほうがよさそうですね。
ではハイディ。もう一つの方。
本質的な敵――我々に『役』を押し付ける者たち、について聞かせてください」
「ん。メリア、ミスティ。
神殿やクレッセントが、ボクや『ウィスタリア』を倒しにいかせた、で合ってる?」
「……確かにコンクパールには、クレッセントからの任務で行った。
『カレン』の記憶では、そもそもほとんど行ってないが」
やっぱりずっと、ミスティが止めてたのか。
「神殿からの依頼で間違いありません。
神殿とクレッセントはほぼイコールでしょうか」
「そう考えて良い。同じ人間が所属している」
そうなんだけど……これは時系列の問題か。
メリアの知るクレッセントの人間は、設立当初のメンバーがボクだけしかいない。
「ごめん、ちょっと内部を分けて考えてほしい。
クレッセントを作った人と、その人に賛同する一派が僅かにいる。
これは味方だ。『人魔拮抗論』の支持者ではない。
一方、神殿由来、過去の活動期の神殿所属者は味方ではない」
「何か理由があるんですか?」
「名前だよ。ボクに名前をつけたのが、その人だ。
あと、『サレス』『メアリー』『フィリアル』にもつけている。
『カレン』『キリエ』は入ってくる前に亡くなった。
そして……『魔素結晶化周期と世界の螺旋循環』論文の執筆者だ」
「知っている……循環を知った上で、役に抵抗するための霊の名前を呼んだ」
「そ。役を押し付ける連中と、真っ向から対立している。
そしてその人は……謀殺された。
残念ながら証拠は出てこなかったけど、ボクはそう確信している」
ミスティが難しいお顔をしている。内容を整理しているようだ。
およ、ストックがじっとこちらを見ている。
「どうしたストック」
「敵対集団は、『人魔拮抗論』の支持者。
その論の中核は――――『神主』か?」
なぜそこに辿り着いたストック。
しかしそういう、急に核心に辿り着くところ、いつもの君らしいな。
ストックはこう……なんだろう。視点というか、視野が広い。
俯瞰的に、戦略的に、多くを茫洋と見て鋭く本質をついてくる。
前からだけど、不思議な特性だ。
特別な力では、ないと思う。
こう、役……例えば『カレン』は体が頑丈とか、知り得ぬことを知る子なんかもいて。
でも『リィンジア』にそういうものはなかったはずなんだ。
だからこれは、<ストック>の資質。
単に知識が多いとかそういうのより、もっと広がりを感じる観念を持ってそうなんだよね。
神の視点、というと大げさだろうけど。
で。そんな彼女の辿り着いた核心だが。
ゲームプレイヤーの分身たる、神主。
これは悲劇的な展開を助長する存在で、その核と見るべきだ。
「そうだよ」
「…………」
「あいつがか?」
ミスティはやはり、という目をしている。
メリアがピンと来てないのはおそらく、ミスティがあまり近づけなかったからかな。
「メリアはどういう印象だったの?」
「特にない。にしては人からちやほやされていたが」
そうなんだよね。やたら好かれていた。
ゲーム的に言うと、神主に対する好感度とやらがあって、それが結構簡単に上がるらしい。
正直、気味が悪い。
「人望はあると思った?」
「ない。それは進む者の後についてくるものだ。
奴は後ろから人を見ているような人間だった。
人は背後に希望を見出さん」
「ふーん。人を後ろから見守る大人って感じ?」
「そんなわけあるか。
先を進む者が不安で振り向いたとき、戦えぬ奴がいたから何の安心になる。
戦う者が、戦えぬ者を背にしたとき、抱くのは覚悟だ。
大人だと言いたいならせめて、別の戦場でもっと働け」
おお?なんか、言葉遣いに反して主張控え目なこの子にしちゃあ、珍しく噛みつくな?
ボクも印象としては同じなんだけどさ。
働いてはいた。戦ってもいたろう。
でも、積極的ではないんだよね。
ひどく受け身な人だった。
「働いてはいたよ?航行管理とか、あと人事育成にも口は出してた」
「航行は当然だし、育成も口だけだろう。専門の教導職を招聘していたろうに。
私はおぬしを見ているんだぞ?
人の前に、後ろに、上に立って、下から支え、その輪の中にいたハイディを。
その五分の一も働いていれば別だが、そうではないから印象は『特にない』だ」
自分が五人くらいに分身している姿を想像し、思わず吹きそうになった。
ストックは吹くなし。同じこと想像したんか?今のは。
「……『ウィスタリア』さんは、そんなに働き者ではなかったですよ?」
「そうだな。『カレン』での記憶でもそうだ。
だがハイディは別だ。船にいるといつでもどこにでもいるくらい見かけた。
そのくせ、難度の高い任務には必ずついてきて、共に戦ってくれた。
おまけに最近知ったが、学園で酒をかっくらってるだけかと思ったら、魔境航行の折衝をしていたらしいな?
大層な研究をしていて、どの講義にも出席してるのは知っていたが。
やっぱりおぬし、実は五人くらいいるだろう?」
ストックがおなかを抱え、肩を震わせている。
ミスティがドン引きだ。
次の投稿に続きます。




